月の空を飛んだ兄弟の記憶(前編)2017年11月24日 07時03分59秒

年の瀬が近づき、街はすっかりクリスマスムードです。
2017年ももうじき終わりですけれど、遅ればせながら2017年にちなんだ話題です。

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今からちょうど半世紀前の1967年。
人間の背丈ほどの人工天体が、月の周りを回りながら、課せられたミッションにせっせと取り組んでいました。すなわち、アメリカの「ルナ・オービター」4号機および5号機です。そして、彼らのミッションとは、月面の詳細な写真地図を作ること。

(NASAのロゴ。下に紹介する書籍の扉より)

ルナ・オービター計画自体は1964年からスタートしており、月への接近も前年の1966年から始まっていました。ただし、前任の1号機から3号機までは、アポロ計画の露払いとして、その着陸予定地点を精査することを目的としており、月面地図作りの大仕事を任されたのが、後継の4号機と5号機だった、というわけです。

その期待に応えて、4号機は月面の大半を写真撮影することに成功し、さらに5号機が、4号機の撮り洩らしたエリアもすべて写真に収め、一連の計画はすべて成功裡に終わったのです。

…というのは、例によってウィキペディア(「ルナ・オービター計画」の項)の受け売りに過ぎませんが、受け売りついでに書くと、同じ項の以下の記述も一寸驚きです。

 「ルナ・オービター計画の撮影システムは非常に複雑であった。まず、月面を撮影した後、軌道上にてフィルムの現像を自動で行い、濃淡を帯状にアナログスキャンし、データを地上に送信する。地上では、データをモニターに表示し、それを再び撮影する。そして最後に、帯状の画像をつなぎ合わせて全体の画像を作成していた。」

何といっても月探査機ですから、そこには当時の最先端技術が投入されたのでしょうが、画像処理に関しては、予想以上にローテクというか、アナログ一色の世界でした。しかし、それでも見事な成果を上げたところが、やっぱり偉いといえば偉いし、スゴいといえばスゴかったわけです。

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ここでルナ・オービターの話題を持ち出したのは、先日、ルナ・オービターによる当時の月写真集を手にしたからです。

(高さ35cmを超える大判の写真集)

■L. J. Kosofsky & Farouk El-Baz,
 『The Moon as Viewed by Lunar Orbiter』 (ルナ・オービターが見た月)
 National Aeronautics and Space Administration (NASA)、1970

下は同書に掲載されている撮像システム。

(左:撮像システム、右:フィルムフォーマット概念図(部分))

搭載のカメラは、中解像度の80mm広角レンズと高解像度の610mm狭角レンズを備え、装置内には79mの長大な70mmコダックフィルムが装填されていました。そこに、写角が広狭の画像を、互い違いに写し込んでいく仕組みです。

同じくフィルムスキャンシステム。


光源は電子線を当てた蛍光物質から発する光で、それをレンズで点状に集光し、フィルム上の画像を舐めるように走査した結果が対向面で記録され、画像信号として地上に送信されました。

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かつて月上空を旋回した5機のルナ・オービターは、運用終了後、いずれも月面に落下し、その貴重な撮影フィルムも探査機本体と運命を共にしました。今となっては、ルナ・オービターの「声」を遥かな地上で聞き取って、それを元に画き起こした「絵」が、彼らの形見として残るのみです。

彼らの半世紀前の偉業をしのんで、ちょっと古めかしい写真集のページを開いてみます。

(この項つづく)

コメント

_ Nakamori ― 2017年11月24日 09時07分43秒

わー、写真集の中身、楽しみだなあ~。フィルムはやはりKodak社のTri-xだったのでしょうか。レンズが80mmというと、カールツァイスのプラナ-F2.8を思い浮かべます。月面の画像を地球に転送する事のために、沢山の技術者が関わったことを想像します。

_ 玉青 ― 2017年11月25日 17時03分05秒

昨日の記事では「ローテク」と書きましたが、これは十分ハイテクですよね。表面的な技術もそうですし、機器の信頼性を確保するための、裏方の頑張りも相当なものだったでしょう。…と言うよりも、前提となる技術的諸条件が違うのですから、今の目で安易にロー/ハイを決めつけることはできないと思い直しました。(頂戴したコメントに触発されて、フィルムについては次回言及の予定です。)

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