ムーンストーンの月 ― 2017年11月30日 21時01分59秒
Moonstone ―「月の石」。
アポロが持ち帰ったのも「月の石」で紛らわしいですが、こちらは英語だと「Moon rock」で、まったくの別物です。でも、英語版Wikipediaで「Moonstone」の項を見たら、「両者を混同してはならない」と、冒頭に断り書きがしてあったので、アメリカにも混同する人がいるのでしょう。
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ムーンストーンは、日本では「月長石」と訳されました。
(インド産の月長石)
月長石と聞けば、銀河鉄道の線路沿いに咲く、「月長石ででも刻まれたような、すばらしい紫のりんどうの花」を思い出します。そして、賢治はほかにも自作で、月長石に幾度か触れていることを、加藤碵一・青木正博両氏の『賢治と鉱物』(工作舎、2011)を読んで知りました。
孫引きすると、
眼をつぶると天河石です、又月長石です
(「小岩井農場」先駆形A)
(「小岩井農場」先駆形A)
あるいは、
うすびかる 月長石のおもひでより かたくなに眠る 兵隊の靴
(大正5年8月17日付け保阪嘉内あて葉書)
(大正5年8月17日付け保阪嘉内あて葉書)
などなど。
これらを読み比べると、両氏が記すように、賢治の脳裏にある月長石には、青く光り輝くイメージと、冬の日を思わせる寂しい乳白色のイメージの両様があったようです。
これは宝石のムーンストーンにも、その輝色によって、青光を放つものと、白光を放つものの2種類があることに対応しています。
ただ、月長石をストレートに「月」と重ねて詠んだ例は見られないので、詩人・賢治は、そういう幼稚な――よく言えば素朴な――比喩を用いるのを、潔しとしなかったのかもしれません。
でも、私は以前から「ムーンストーンでできた月」があれば素敵だなと思っていました。昨日の月のブローチもムーンストーンをあしらったものですが、もっと月そのものというか、たとえば月長石を刻んで拵えた三日月があれば…と考えていたのです。
残念ながら、まだそういう品を目にしたことはありません。
そういう切削加工そのものが困難なのか、あるいは通常のカボションカット以外だと、ムーンストーン独自の輝きが生まれないので、ムダな努力をあえてしないのか、正確な理由は門外漢には、よく分かりません。
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現実にあるのは、例えば三日月形の台座に、円いムーンストーンを並べた、こんな品です。
こういう莢(さや)豆型のブローチは、ヴィクトリア時代にずいぶん流行ったらしく、今でもよく目にします。手元のブローチは、これまた時代不明ですが、つややかなムーンストーンの列は、空を転がる満月を思わせ、また月の女神セレネーの皓歯のようでもあります。当初のイメージとは違いますが、これはこれで愛らしい品。
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ときに、月にも月長石は産するのでしょうか?
長石の仲間は、地球でも月でもありふれた造岩鉱物ですから、探せばきっとあるでしょう。Moon rock から採ったMoonstoneで月を刻み、それを月光にかざしたら、どんな光を放つのか?…なんてちょっとベタですが、連想はそんなところにも及びます。
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