足穂氏、アメリカに上陸す ― 2018年01月11日 22時05分18秒
最近、足穂氏の登場の機会が少なかったので、この辺で氏に話頭を転じます。
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この二人に見覚えがありますか?
そう、これは稲垣足穂の『一千一秒物語』の初版(1923)の表紙を飾ったイラストです。
その同じ二人が表紙を飾る、こんな本の存在を最近知りました。
何と『一千一秒物語』の英語版が、20年も前にアメリカで出ていたんですね。
まったく知りませんでした。
■Inagaki Taruho(著)、Tricia Vita(編・訳)
One Thousand and One-Second Stories
Sun & Moon press (Los Angels), 1998
One Thousand and One-Second Stories
Sun & Moon press (Los Angels), 1998
裏表紙の解説を読むと、
「日本人が『21世紀ダンディ』の称で呼ぶ稲垣足穂は、自分のお気に入りの事物について、短いながらも信じがたいほど凝縮された物語を書いている。すなわち、機械、飛行機、現代の妖精、土星、流れ星、ブリキの月、幾何学図形、少年、警官、良い香りのするトルコ煙草、煙と化す黒猫、砕け散る彗星、ゲイバー、その他彼の物語に横溢する主題の数々。1920年代から1970年代に至る執筆活動において、稲垣は真に独創的存在であり、多くの日本人からは、谷崎、川端、そして三島に匹敵する存在にして、20世紀における日本の偉大な作家の一人と見なされている。」
…というようなことが書いてあります。
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本書はタイトルに『One Thousand and One-Second Stories』を掲げていますが、収録作品は「一千一秒物語」のみならず、「第三半球物語」や、「シャボン玉物語」、「タルホ五話」等から毛色の似た作品を録っているので、一種の「足穂初期作品集」といった性格の本です。
訳者のTricia Vita氏の前書きを読むと、足穂作品の英訳は、1972年に出た『日本の新文学(New Writing in Japan)』に、短編「イカルス」が収録された例があるものの、足穂が本格的に英米で紹介されたのは、本書が最初です。
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足穂の初期作品は、神戸風の一種の「バタ臭さ」を身上としているように思いますが、果たしてバターの本場の人は、それをどのように受け止めたのか?
前書きを読むと、どうやらアメリカの人にとっても、足穂作品はやっぱり不思議なハイカラ世界のようです。いわば「普遍的なバタ臭さ」。でも、それは単なる乳脂の香りなんかではなくて、ダダイズム、キュビスム、フューチャリズム、表現主義など当時の新思潮と、少年タルホの夢想が、不思議に融合したところに発する香りであり、彼の描く世界は、どの国の読書にとっても「永遠の新時代」であり、「郷愁の未来」なのでしょう。
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さて、足穂ファンの多くが気にかけるのは、何よりもまず、あの文章が果たしてどのような英文になったのか…というところでしょうから、早速その実例を見てみます。
(この項つづく)
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