現代の古地図(前編)2018年03月25日 21時49分46秒

昨日はアンティーク天球儀の話をしました。
ああいうアンティークは、300年も400年も前の品だからアンティークなわけですが、そこに表現されている星空自体は、そう現代と変わるわけではありません。

もちろん、地軸のブレ(歳差運動)によって、星図を作るときの座標原点は次第に移ろっていきますし、天球上に「固定された星(fixed star)」であるはずの恒星にしても、それぞれ固有運動をしているので、長年月のうちには、相互の位置関係も微妙に変わってきます。

それでも、400年の時を隔てた2枚の星図の違いは、極論すればデザイン感覚の違いのみだ…と言ってもよいぐらい、今昔の人々が描こうとした対象は、互いに似通っています。(星座絵の有無で、印象はずいぶん違いますが、星図で重要なのはあくまでも星そのものであり、これは昔も今も変わりません。)

(1603年のBayerの『Uranometria』と、1998年のTirion & Sinnotの『Sky Atlas 2000.0』に描かれたカシオペヤ座)

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一方、古星図ならぬ古地図に関しては、かなり事情が異なります。

たしかに、400年前の地形と今の地形だって、地球規模で見れば、物理的にそう大きな違いはないでしょう。しかし、人々が地図によって表現しようとした対象、すなわち集積されたデータの中身が、今昔では全く異なります。

昔の人が利用できたのは、不確かな測量、伝聞に基づく推測や憶測のみで、頼るべきデータが欠落した巨大な空白も同時に存在しました。工夫次第で、いつでも星の位置測定ができる星図作りと、遥かな大地や海洋を超えていかなければ、具体的データが得られない地図作りの、最大の違いはそこです。

(メルカトルが1585年に作成し、ホンディウスが1602年に後刷りを出したアジア地図。出典:国土地理院ウェブサイト(https://kochizu.gsi.go.jp/items/214))

裏返せば、古地図を見れば、当時の人が利用できたデータの質と量が、ただちに分かるわけで、古地図には<地理的=空間的>データと、<歴史的=時間的>データが重ね合わされていると言えます。

古地図は古版画芸術であると同時に、人類の世界認識の変遷を教えてくれる、この上なく貴重な史資料でもあります。

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…と、大きく振りかぶりましたが、そもそも話題にしたかったのは、現代でも「古地図」は絶えず生まれているよ、ということなのでした。それが何かは、一寸もったいぶって、次回に回します。

(この項つづく)