青い星座絵ハガキ(後編)2018年03月30日 06時58分54秒

前回の続き。
まず最初にお断りしておくと、この絵葉書はものすごく写真に撮りにくいです。


普通に撮るとこんな感じです。
これも画像だけ見ている分には、特に違和感はないでしょうが、実際には下のような感じで、地紙の部分は白ではなくて、淡い青緑色をしています。


でも、そこにカラーバランスを合わせると、他の部分がちょっと不自然になってしまいます。この辺はディスプレイによっても見え方が違うでしょうが、いずれにしても微妙な色彩を識別するヒトの眼の鋭敏さは予想以上のものです。

   ★

…と前置きして、本題に入ります。


上は、この絵葉書セットの外袋と付属の解説書。
目を凝らすと、作者は「Paul Dubosclard」(ポール・デュボスクラード、フランス風に読めばデュボクラール)、版元はカリフォルニア州トパンガ(ロサンゼルス西郊の町)の「M. A. Sheehan」だと書かれています。

情報が乏しい中、彼らについて調べているうちに、ある紹介文に行き当たりました。おそらく2013年ころ eBay に出品されていた1枚の絵葉書の解説文です。

オークションの出品者というのは、往々にして自分の商品がいかに買う価値があるかを、精いっぱい述べ立てるものでしょうが、時として「売らんかな」の思いをはるかに超えて、商品への「愛」があふれ出てしまう場合があります。

上の解説文にも、まさにそんな愛を感じました。絵葉書の正体を明らかにするために、その全体を適当訳しておきます(以下、青字部分は引用)。

   ★

 この絵葉書〔カリフォルニアのサンタモニカ市立図書館を描いたもの〕は、最近、私がある絵葉書ショーで見つけた、同じ作者と版元による、何枚かの「手刷りセリグラフ(シルクスクリーン)」の1枚だ。

(やぎ座とかに座)

 私は大学でセリグラフを制作していた関係で、その印刷技法のあらましを知っており、それらがパッと目に留まった。中には10色以上使っているものもあり、多くのものは空や地上の風景描写に「スプリット・ファウンテン」効果を施している。これは2色のインクをスクリーン上で混ぜて、さらにそれを押し伸ばしたときに出来る色の筋によって、成功すれば素晴らしいグラデーション効果が生まれる技法だ。


(注)スプリット・ファウンテン(split fountain)という言葉を知りませんでしたが、下の動画を見て納得しました。
Split Fountain Technique - PJ&B Screen Printing


 私は、「カリフォルニア州トパンガのM.A. Sheehan」という人物について、さらに知りたいと思い、グーグルやウィキペディアに当たったが、売却済みのeBayの他の商品ページで、わずかに以下の記述を見つけた以外、依然として多くは不明のままだ。

 「1940年代の終わりから50年代はじめにかけて、フランスからの移住者、ポール・デュボスクラードは、友人知人のために、豪華なセリグラフ(シルクスクリーン)絵葉書の連作をいくつか制作し、カリフォルニア州ロサンゼルス郡トパンガ峡谷のマーガレット(M.A.)シーハンが、その版元となった。これらの連作は、ふたりが愛した峡谷や、マリブ、サンタバーバラ、サンタモニカといった町々の様々な風景を描いている。彼は他にも、12星座のシンボルをテーマにしたシリーズや、トルーマンに至るまでの歴代アメリカ大統領を描いた連作、あるいはアメリカ本土48州をテーマにした信じがたいほどカラフルな作品も手がけた。」

 その後、絵葉書コレクター協会のサイト(PostcardCollector.Org)で、1948年発行の『全米絵葉書コレクターズクラブ』の機関紙のコピーを目にしたが、そこには上に引用したのと同じ情報が載っていた。これらの絵葉書は、カリフォルニア州トパンガ在住のマーガレット・シーハンという人物によって、1枚0.15ドルないし7枚1ドルで、郵送販売されていたものらしい。その販売がいつまで続いたのかははっきりしない。これらの販売は、同クラブ自身の手で、おそらく募金活動の一環として行われていたようでもある。

(絵葉書の裏面)

 私はこれまでに大統領や12星座を描いた作品のうちの幾枚かと、48州を描いた作品を2~3枚見たことがあるが、その細部・構成・品質において、そこには若干の差異がある。ただ、いずれも絵葉書の裏面は共通の様式で、そのフォントやレイアウトは、同時代のカート・タイク(Curt Teich)社の絵葉書とよく似ている。また、建物を描いた作品(たとえばサンタモニカ市庁舎と市立図書館など)の中には、1920~40年代の「ポスター」アートのスタイルを踏襲したものもある。

(いて座の絵葉書の拡大)

 拡大鏡で覗くと、いずれも本物のシルクスクリーン・インクを使って刷られたことが窺え、シルク布のテクスチャーも見て取れるし、複数の色が重なっている箇所では、インクが厚く盛り上がっている。インクと下地がわずかに裏面に浸みているが、これは油性のシルクスクリーン印刷であることを示す典型的な印である。広告の中で、大統領シリーズは厳密に2000部限定で制作され、その後「印刷スクリーンは廃棄される」ことがうたわれていた。

 実際のところ、これらの絵葉書が商業ベースで刷られたとはちょっと言い難いように思う。というのも、断言はできないものの、少なくとも効率化を図るためには、もっと大型の印刷スクリーンを使えばよかったのに、そうしていないからだ。(切断の仕方がまずい例から判断すると)これらの絵葉書は、いったん大判の用紙に刷ってから1枚ずつ切り離したように見える。また裏面は、活版かオフセット印刷によるものらしい。

 これらの作品群は、基本的に誰かの無償の愛の産物であり、実現することのなかった――それとも実現したのだろうか?――彼の夢のプロジェクトだったと考えたい。私はこれまで、これらの絵葉書が、差出し済みや郵送済みの状態にあるのを見たことがない。おそらく、これらは全て(あるいは大部分)コレクター向けに販売されたもので、長年しまい込まれた末に、60年以上後のコレクターである我々の前に、デッドストックの状態で現れたのではないだろうか。

   ★

謎のシルクスクリーン作家、デュボスクラード氏。

”Paul Dubosclard”という名前を検索すると、1940年代~60年代にかけて、航空機産業にかかわる技術者として、切削機械の開発者として、またロサンゼルス在住の「レオナルド・ダ・ヴィンチ協会」の会員として、その名前がヒットします。

はたしてシルクスクリーン制作は、この人物が余技として行ったことなのか、はたまたこれらのデュボスクラード氏は同名異人なのか?

依然として謎は深いですが、そんな周囲の思惑は知らぬげに、残された絵葉書はいかにも美しく、自らの存在をアピールしています。

(さそり座の足元を流れる銀河)

コメント

_ S.U ― 2018年03月31日 10時11分54秒

この絵はがきの見た目は、かなり現代的だと感じました。現代的というのは、20世紀初めの「モダン」というのでも「21世紀的」というのでもなく、普通に違和感のない1980年代的に見えます。でも、商業ベースでない製法なら、それなりの価値観のあるものなのでしょうね。 「レオナルド・ダ・ヴィンチ協会」と聞くと何を作っていてもおかしくないように感じてしまいます。

 ところで、このようなオークションの宣伝文を見ると、私は常に違和感を感じてしまいます。そんなに魅力ある物なら売らなきゃよいのに、あんたが死ぬまで持っていればいいでしょ、と。私はひねくれているのでしょうか。まあ私が間違いなくひねくれているのは許してもらうとして、そうお思いになりませんか。

_ 玉青 ― 2018年04月01日 10時31分25秒

ル・コルビュジエの建築作品を見ても、現代の人はどこがすごいのか分からない…という、半ば笑い話があります。コルビュジエ風の建築は、今や世界中のどこにでも立っており、誰もが見慣れた存在であるがゆえに、誰もそのすごさに気付かないけれど、誰もが見慣れた存在になっているということ自体、考えてみればすごいことだ…というのが、この話のオチになっています。

ひょっとしたら、この絵葉書の絵にも、そういう要素があるかもしれませんね。
でも、1940年代の素寒貧の日本人がこの絵葉書を見せられたら、やはり相当衝撃を受けたことでしょう。「やっぱり、あれは無謀な戦争であった」と思ったかもしれません。


>売らなきゃよいのに

あはは。実は私も不思議に思っていました。
でも、店舗経営に関しては、コレクター気質の人は明らかに向かないですね。店主自ら銘品を抜いていたんじゃ、まったく商売になりません。どうも名店の店主氏は、「銘品を所有している」という<状態>よりも、「銘品を扱う」という<行為>に満足を見出すものらしいです。
そもそも、目利きかどうかとコレクター気質とは、必ずしも結びつかないもので、美意識に富んだ人はミニマリストであることも多く、所有ということについては、むしろ淡泊な人が多いようです。

_ S.U ― 2018年04月01日 17時02分36秒

 この絵はがきの雰囲気どこかで見た憶えがあるなと思ったのですが、1990年代に出たスイスフラン紙幣の画期的なデザインとの連想があったようです。偶然ですが、ル・コルビジェは、スイス生まれで10スイスフラン札にその陰気な肖像が出ていました。

>店舗経営に関しては
 自分はモノに執着しないけれども目利きである、という人がいるのはまあわかります。それでも、いかにもそういう品物を買い揃えたくなるような宣伝文(コピー)を書けることは、やはり驚くべき才能と言うほかしれません。

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