無理矢理な月(第2夜)2018年04月17日 07時17分19秒

ボズウェル社の月光幻灯の1枚目。


海辺の崖の先端で、枯木に寄りかかって、物思いにふける女性。
「海辺」は湖畔かもしれず、「枯木」は奇岩かもしれません。
シチュエーションは今一つ不明ですが、水平線から顔を出した満月の光が、水面にきらきら反射して、女性の憂い顔を照らしている…という情景です。


でも、このさざ波に反射する月光は、乾板を針のようなものでガリガリ引っ掻いた跡に過ぎませんし、実際ここには月も夜空もありません。

それによく見れば、この「崖」も「枯木」も、撮影済みの写真を切り抜いて、後からこしらえたもののように見えます。そう思ってさらに眺めると、この「海」もかなり怪しくて、背景を薄青く塗りつぶして、海っぽく見せてるだけなんじゃないか?という疑問もわきます。

となると、この幻灯はほとんどが<虚景>であり、<実景>は女性だけだ…ということになりかねません。これを無理矢理と言わずして、何と言いましょう。

   ★

でもですね、こんなふうに光と闇を操って、「無いはずの景色」を現出せしめる幻術こそマジック・ランタンの真骨頂であり、、これぞ筋目正しい<幻灯>と呼ぶべきかもしれません。それに、これがたとえ「ウソ」だとしても、俗世のウソにくらべ、何と美しいウソであることか―。


(この項つづく)