無理矢理な月(第4夜)…夢の町へ ― 2018年04月20日 06時40分44秒
月光幻灯の3枚目は、私のいちばんのお気に入り。
月と並んで空一面に星が散っているのもいいし、空が青というよりも深い紺色なのも素敵です。地面までもその紺に染まり、緑の路面電車がカタコト走り抜けていきます。車窓から目をやれば、ビルディングにはためく「TOYS」の旗。
まあ、これも無理矢理といえば無理矢理な人工夜景です。
でも、ここまで来れば、もはや無理が通って道理が引っ込んだところに出現した「夢幻の町」と呼ぶほかありますまい。
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この光景は、かつて鴨沢祐仁さんが筆にした夢の町そのものです。
例えば、1976~77年にかけて、雑誌『ガロ』に掲載された同氏の「流れ星整備工場」を見てみます。
仲良しのクシー君とイオタ君は、素敵な玩具が並ぶ「プロペラ商会」で、ついに念願のスター・チャートを手に入れます。
それを小脇に抱えて、月の電車通りを歩くふたり。
(電車通りなら大好きだ。ネオン・サインやテール・ランプが、星の光と交差して、毎晩来るのに、いつも知らない街みたい)
「毎晩 星座覚えようね」
パンタグラフは電気捕獲機。
<バチバチッ!> 掴まえそこねた電気が逃げる。
「大きな火花だね」 「おまけのバッヂみたいだ」
「毎晩 星座覚えようね」
パンタグラフは電気捕獲機。
<バチバチッ!> 掴まえそこねた電気が逃げる。
「大きな火花だね」 「おまけのバッヂみたいだ」
ふたりはこの後、怪しい黒猫に導かれて、町はずれにある「流れ星整備工場」を訪ね、星の世界の驚くべき真実を知ることになります。
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現実の町が早く夢の町になったらいいのに…と強く願います。
でも、多くの人が薄々感じているように、夢は夢だから美しいのであって、夢が現実になったら、やっぱりそれは少なからず苦いものでしょう。少なくとも、「甘い無理」が通って、「苦い道理」が引っ込む世の中は、人間の肌にはなじみにくい気がします。人生はコーヒー豆のごとく、苦みと酸味、それにかすかな甘みの程よいバランスが取れているのが良い…というのが、今の私の感懐です。
(この項おわり)
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