『ペーター坊や月への旅』(2)2018年05月11日 07時01分25秒

思えば、『銀河鉄道の夜』もずいぶん変てこりんな作品ですが、『ペーター坊や』の話もそれに負けず劣らず奇妙な作品です。その奇妙さこそが、間違いなく人気の秘密でしょう。(ちなみに、作者のフォン・バッセヴィッツは、プロイセンの軍人(中尉)あがりの劇作家・俳優で、その文名は、ほぼこの『ペーター坊や月への旅』一冊に限られるそうです。)

   ★

最初に登場するのは、コガネムシのズームズマン氏(Mr. Zoomzeman)です。
そして、ズームズマン氏が、失われた6本目の脚を求めて月へと向かうというのが、物語の大筋です…と聞かされても、何のことやらわけが分からないでしょう。

いったい何でそんなことになったのか?
その背景はなかなか壮大です。

コフキコガネの一族、ズームズマン家は、先祖代々奇怪な運命を負っていました。それは昆虫なら皆持っているはずの、6本目の脚がないというものです。そこには深い因縁があって、何百年も昔の初代ズームズマン氏が、森盗人すなわち樹木の盗伐者の斧の刃先にかかって、6本目の脚を失って以来、その禍が子孫に及んだというのです。

まあ、先祖にも、当代のズームズマン氏にも、本来何の罪もないのですが(初代がその場に居合わせたのは偶然です)、「夜の精(Night Fairy)」が、罰として森盗人を月に放逐する際、彼が伐った木とともに、初代ズームズマン氏の脚も月へと飛ばされてしまい、いったんそうなった以上、もうどうしようもないのでした。

とはいえ、それではあまりにもズームズマン氏がかわいそうなので、夜の精は彼にこう告げました。「もしあなたが、決して動物を傷つけない、優しい心を持った子供を二人見つけられたら、ともに月に行って、失われた脚を取り戻すことができるでしょう。」

(悲しみに暮れる初代ズームズマン夫妻と夜の精)

この伝承とともに、ズームズマン一族は長い時を過ごしました。動物を傷つけない子供は少なく、その子供に近づくことは一層難しかったからです(部屋に入っただけで、大人にはたかれて絶命する者が後を絶ちませんでした)。

しかし、今やズームズマン一族の最後の一匹となった、当代のズームズマン氏は、ついにその候補を見つけました。それがペーターとアンネリの兄妹です。二人は真に優しく、勇敢な子供たちでした。ズームズマン氏の話を聞いた二人は、ただちに協力を約束し、これまたズームズマン一族に古くから伝わる飛行術を氏から学ぶと、寝室から寝間着姿のまま飛び立ちました。


遠い月を目指す二人と一匹の眼下で、町や森や山がグングン小さくなっていきます。
その旅の途中、第一の通過点が「星の原っぱ(Star Meadow)」です。
果たして、彼らがそこで出会ったものとは?

   ★

…どうです、変てこだけれど、ちょっと面白そうでしょう?
前回書いたように、このお話は舞台上演が先だったので、本の方もストーリーを追いながら、何だかお芝居を見ているような気分になります。

こうして二人と一匹の、不思議な冒険は続きますが、あまりストーリー紹介に時間をかけてもいけないので、以下手短に紹介します。

(この項つづく)

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