続・愛しの天文玩具2018年05月28日 20時17分02秒

恨み言めきますが(実際、恨み言です)、星の玩具と聞いて、真っ先に思い出す品があります。それについて、今から4年前の自分は、「オークションの敗北がジワジワ効いてきて、一時は憤死せんばかりでした」と、かなり大げさなことを書いています。

一体、何がそんなに悔しかったのか?

 「今回落札し損ねたのは、19世紀前半に遡る、天文モチーフのボードゲームという大珍品でした。保存状態も良く、12星座、彗星、月、星、太陽が手彩色と金彩で美しく描かれた逸品で…と書いていると、また悔しさがこみ上げてきます。」

うーむ、何せ本人ですから、その気持ちは大変よく分かります。

■愛しの天文玩具

改めて読み返すと、この記事でも「アストロノミア」のことを物欲しげに書いています。アストロノミアの現物を手にしたのは、これから2年後のことですから、この時にはそれを知る由もありません。その事実を4年前の自分に教えてやれば、恨みも多少やわらいだかもしれませんね。

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さて、このとき落札しそこねた天文ゲームは、画像だけしっかりと保存してあります。
そして、それを眺めて、臥薪嘗胆の思いを日々新たにしているのです。
いくぶん常軌を逸したものを感じますが、この機会に、世の中にはこういう逸品もあることを知らしめるべく、その折の商品画像を、ここにそっと上げておきます。(画像の著作権は、もちろんアメリカの売り手にありますが、売り手氏も既に件の品のことは忘れているでしょう。)

これがその逸品。

(以下、見やすいように画像の細部を少しいじりました)

左側の箱の中に、四つ折りになったゲーム盤が入っています。
ゲーム盤は紙製で、リネン布で裏打ちされているようです。


ゲーム盤を拡大したところ。
いかにも愛らしいデザインです。そして古風な優美さにあふれています。さらに天文趣味の香気にも富んでいます。

盤面を注視すると、太陽を中心とした同心円上に「マス目」が配置され、そこに番号が振られています。おそらくプレーヤーは最外周の1番からスタートし、順番に駒を進め、最後に太陽で「上がり」となるのでしょう。要は天文双六ゲームです。

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思うに、ここに登場するのが12星座だけだったら(あるいはギリシャ・ローマ神話になぞらえた惑星だけだったら)、これほど天文趣味を感じることはないでしょう。それは星座神話という、閉じられた世界の旅にとどまるからです。

しかし、このゲームには、天の川が登場し、彗星が尾を引き、プレアデスが群れを成しています。そうした天体の登場に、私は何とも言えない「天文情緒」を感じるのです。想像ですが、これを作った人は、同時代の天文入門書を参考にしたんじゃないでしょうか。何となく、そうした入門書で解説されている事項と、ゲームの「キャラ」がかぶって感じられます。


箱の表記から、このゲームはドイツ製と分かります。
時代から言って、この玩具は当時の穏やかで整った市民文化、いわゆる「ビーダーマイヤー」スタイルの中で生まれたものでしょう。箱絵を見ても、これが教育的効果を狙った――少なくとも教育を重んじる家庭にアピールすることを狙った――品であることが伺えます。

美しい彩色と金彩、古雅なデザインの向こうに、市民階級の宇宙への関心の高まりも感じ取れる、素敵な逸品です。

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岩をも通す念力で、私が「アストロノミア」に続いて、このゲームも見事入手していたらスゴイのですが、そういう事実はありません。しかし、念力の作用とは恐ろしいもので、私の願望は、その後ちょっと別の形で実現することになったので、そのことを書きます。

(この話題、さらにつづく)