荒々しい夜…海と空と月と ― 2018年07月06日 07時01分19秒
すっきりしない天気に暑さ負けが重なり、何となく筆が走りません。
今日も絵葉書を眺めながら、ぼんやり記事を書きます。
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天文趣味との距離感は微妙ですが、月景色の絵葉書や幻燈を折に触れて購入します。クレーターが鮮明に写った天体写真ももちろん良いし、天文趣味的にはそちらのほうがオーソドックスなわけですが、それとは別に、私の中には「絵になる月」を愛でたい気持ちもあります。というよりも、そうした「様々な顔を持った月」という存在に惹かれるのでしょう。変幻する月は、折々の心を映し出す鏡のようなものです。
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今日の絵葉書は、月の登場しない月景色。
暗い夜の海と波しぶき。その上に広がる雲の複雑な陰影。
月そのものの姿は見えないけれども、雲間から差す光と海上の反射が、その存在を明瞭に示唆しています。
キャプションには、「A WILD NIGHT. HASTINGS」とあります。
ヘイスティングスは、イングランド南部の温暖な海沿いの町。甲冑姿の騎士たちが駆け巡った、中世歴史絵巻の一幕「ヘイスティングスの戦い」(1066)で有名な歴史の町でもあります。その海辺の風景を、美しい芸術写真に収めた一枚。
制作したのは、地元のフレッド・ジャッジ(Fred Judge、1872-1950)という写真家が興した、「ジャッジズ社(Judges’ Ltd.)。会社組織になったのは1910年のことで、この絵葉書も、1910年代のものと思います。(同社は有名らしく、「Judges Postcards」が、英語版Wikipediaに項目立てされています。)
もちろん、これが本当の夜景である保証はありません。
あるいは、昼間の光景を、撮影・現像技術によって夜景っぽく見せているだけかもしれません(その可能性が高いです)。でも、これが一個のアート作品であるなら、昼間の海に夜の匂いを感じとった、作者の「心の風景」をこそ味わうべきなのでしょう。そして、その心の風景は、すこぶる美しいです。
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ちなみに、印象的な被写体となっているヘイスティングスの桟橋は、1872年の架橋。1990年代に暴風で破壊された後、廃墟のようになっていましたが、最近になって地元の募金活動によって修復が進み、今年(2018)、めでたく再公開の運びとなった由。(→参照ページ)
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