豚座の話2019年01月02日 09時51分59秒

ここ数年、正月は干支にちなむ星座を取り上げることが多かったですが、ブタやイノシシの星座はないので、今年は特に言及しませんでした。でも、それは西洋星座の話で、昔の中国星座には豚の星座があったことを、ネットは教えてくれます。

それは二十八宿の一つ「奎宿(けいしゅく)」の主星座である「奎」のことで、これは西洋星座のアンドロメダ座とうお座にまたがる形で設定されています。下は伊世同(編)『中西対照恒星図表』(北京・科学出版社、1981)所載の星図。

(「奎」付近拡大)

(「奎」を含む部分星図の全体)

何にせよ「豚座」とは珍しい。いったいどんないわれがあるのか?
…と思いつつ、ウィキペディアの「奎宿」の項を見ると、「奎〔…〕白虎の足、倉庫や大豚を表す」と、えらく簡潔ですが、この辺の記述は中国語版ウィキでも全く同じです(「白虎的足、代表倉庫或大豬」)。なお、ここで「白虎の足」というのは、二十八宿を東西南北に配置し、四神と関係づけたとき、奎は西方を守る白虎の足の部分に相当するという意味です。

(ウィキペディア「二十八宿」の項より)

でも、これだけでは何のことか分からないので、さらにネット上を徘徊したのですが、私が最も興味を覚えた、「奎」と豚との結びつきを示す説話や伝承の類は、残念ながら見つかりませんでした。


ちょっと矛先を変えて、近世を代表する百科辞典『和漢三才図会』を見てみます(初版は1712年。手元の本は刊記がなくて書誌不明)。ここにも、「奎」の別名として「天豕、封豕」が挙がっていますから、奎が「天の豚」だという知識は、日本でも広く共有されていたのでしょう。しかし、本文中に豚との関連を示す記述はやっぱり見えません。


ここでさらに原恵氏『星座の神話』(新装改訂版1996、恒星社厚生閣)に当たると、

 「この部分〔=奎を構成する星々〕は中国で「奎宿」と呼ぶもの〔…〕と同じで、中国ではその形から「一に豕に作る」として豚の意味とする。都会の空ではこの◇形〔原文は縦長の6角形〕を肉眼でみることは困難であるが、プラネタリウムでみると、たしかに〔…〕豚を上から見た姿に見えるのはおもしろい」(p.199)

とあって、星々を結んだ形が単純に豚に見えるから…という説のようです。

「なーんだ」という気もしますが、ただ、前述のウィキの「奎宿」の説明によれば、「奎」本体と共に奎宿を構成する「天溷(てんこん)」という星座が別にあって、これは「天の豚小屋」とか「天の便所」を意味するとのことなので、これが何か糸を引いているようでもあり、少しく気になります。

ここからさらに、原氏が巻末の参考書で挙げている、大崎正次氏の大著、『中国の星座の歴史』(雄山閣、1987)に当たれば、より詳細が分かるのではないかと想像するのですが、今手元にないので、この件はしばらく寝かせておくことにします。(さっき勇んでポチりに行ったら、びっくりするほど高価で、すごすご引き返してきました。)

正月早々中途半端な話になりましたが、今年はフワフワやるのが抱負なので、これはこれで良しとしましょう。

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まったくの余談ながら、『西遊記』に登場する猪八戒は、もともと立派な神将で、天帝(北極紫微大帝)配下として北斗を治めた「天蓬元帥」がその前身だ…という設定だそうです。

(上掲『中西対照恒星図表』より北斗の図)