魅惑のアーミラリー・スフィア(前編) ― 2019年01月03日 10時49分30秒
天文古玩の初心に立ち返って、天文アンティークの話。
ツイッターで、何か耳よりの情報を求めて、「天文 アンティーク」で検索することがあります。昨年の秋から冬にかけては、「黒猫堂/魅惑の天文アンティーク」という商品が、一部で話題になっていました。
これはドールサイズのアイテムから構成されたフィギュア商品で、天文アンティーク以外にも、いろいろなセットがシリーズ化されていましたが、天文アンティークに関して言うと、世界地図、方位磁針、望遠鏡、天文古書、それにアーミラリー・スフィアの5つのアイテムで1セット。
自分でこの玩具を買ったわけではありませんが、「天文アンティーク」という言葉で、現在一般に何がイメージされているのか、それが窺える点に興味をおぼえました。私的に高ポイントなのは、アーミラリー・スフィアの存在(長ったらしいので、以下「アーミラリー」と呼びます)。私もアーミラリーに対しては、天文アンティークの横綱的イメージがあるので、それが玩具界にまで浸透しているのが、非常に頼もしく思えました。
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でも、収集という点から言うと、アーミラリーは非常な難物でもあります。
前にも書いたように、アーミラリーは今でもたくさん売られています。
アメリカだと、たぶんホームセンターのガーデニングコーナーに行けば、ずらっと並んでいるはず。でも、それらは名前は同じアーミラリーでも、本来の天文用具としてのアーミラリーとはずいぶん違うものです。
(庭の添景としてのアーミラリーの例。eBayの商品写真から寸借)
アーミラリーがまじめに天文用具として作られ、活用されたのは、たぶん18世紀まででしょう。それ以降のアーミラリーは、もはや天文用具というよりも、純粋な「装飾品」になってしまいました。まあ、いつの時代も例外はあるでしょうが、一般の趨勢としてはそうで、庭の置物としてのアーミラリーは、その最たるものです。
(この辺の事情は一寸石灯籠と似ています。石灯籠というのも、最初は立派な実用の具だったはずですが、いつのまにか庭の飾り物と化して、それが灯火具だったことすら忘れかけています。)
結局、「本物」のアーミラリーを買うということは、18世紀以前のアンティークを買うことに他ならず、それは必然的にすこぶる高価であり、貧者の立ち回る余地はありません。
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しかし、需要のあるところに供給あり。
古作を模したリプロやレプリカが、これまた行くところに行けば、大量に売られています。
その主産地はインドで、上のフィギュアがモデルにしたのもそうでしょうが、インド製の真鍮製アーミラリーは、ネットを通じて数千円で買うことができます。当然のごとく私も買いましたし、このブログの最初の方にも登場済みです。
(ネットで見かけたイタリア製のアーミラリーの例)
イタリア勢も、いまだ一部では健在ですが、こういう西洋民芸っぽい味わいの「擬アンティーク様式」の品が、ひどく好まれた時代があります。20世紀前半、あるいはもうちょっと引っ張って1970年代ぐらいまでだと思いますが、日本だと暗い喫茶店の片隅によくこういうのが置かれていたイメージがあります。この手のアーミラリーも、現在ネットオークションでは数千円で取引きされているようです。
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しかしです。私の中のもう一人の自分は、どうしてもこれでは満足できないのです。別にアーミラリーを使って本気で天文活動をするわけではないにしろ、安価な土産物めいた品ではない、「真面目な」アーミラリーが欲しい…そんな思いが、ずっと潜在していました。
その顛末を以下に書きます。
(この項つづく)
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