魅惑のアーミラリー・スフィア(中編)2019年01月04日 18時08分19秒

インド製やイタリア製、さらには目盛環のない純粋な装飾オブジェとしてのアーミラリーなんかも、私はこれまで一通り手元に置いて眺めていました。でも、やっぱりどこか物足りない感がありました。

(Bruce Stephenson他(著)、『The Universe Unveiled』、Cambridge Univ. Press、2000より)

本を開いても、ネットを見ても、華麗なアーミラリーが目に飛び込んでくる状況では、目の前の品を物足りなく思うのも当然です。(そして、見るだけでは満足できないのが、私の弱点です。)

とはいうものの、ミュージアムピースを手にすることは、まったくの幻想にすぎませんから、そこに何か工夫がなければなりません。私が強く思ったのは、ルネサンス貴族の奢侈は求めない代わりに、ひとつ「真面目な」アーミラリーが欲しい…ということでした。

「真面目な」アーミラリーというのは、作り手の本気具合を言います。
作り手自身が、「所詮これは飾り物だからね…」とつぶやきながら作っているような品は、どこか不真面目です。アーミラリーを実際に使うかどうかはともかく、使おうと思えば、実用にもなるぐらいの精度のあることが、ここでは重要です。

具体的にいうと、例えば目盛りの律義さ。天文機器が実用になるかどうかは、この目盛の精度にかかっていて、昔の儀器職人は目盛の罫書きに心血を注いだものらしいです。

インド製アーミラリーも悪くはないですが、以前も書いたこういう不真面目さがあるし、「STANLEY, LONDON」とか、ことさら人を惑わすような刻印を入れているのは、やっぱりよろしくないです。

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現在でも、真面目にアーミラリーを作っているメーカーは、寥々ながら確かにあります。でも、アンティークほどではないにしろ、それらもなかなか高価で、手を出しかねていました。そんなときに出会ったのが、この銀白のアーミラリーです。


全体の高さは約49cm、素材はおそらくピューター(錫合金)でしょう。


マラカイト(孔雀石)を削り出して作った緑の地球を除けば、華麗さとはほど遠い、手堅く実直な印象があります。目盛の律義さを見ても、その生真面目さが分かります。


これはもちろんアンティークではなくて、現代の作品です。作者はカリフォルニア州バークリー在住の金工作家、ノーマン・グリーン(Norman Greene)氏

氏は1971年に大学で電気工学を修めた後、すぐに工芸の世界に入ったそうですから、現在、御年70歳ぐらい。氏の制作対象は、主にパズルリング――一見ふつうの指輪だけれど、あちこちひねると知恵の輪のように分解することができる指輪――で、それと並行してアーミラリーやアストロラーベのような天文機器も手掛けている、そんな作家さんです。

グリーン氏のWEBサイト
 Puzzle Rings made by Norman Greene ㏌ Berkeley, CA

ただ、私はこれを正規のルートで氏から直接求めたわけではなく、やっぱりeBay経由で入手したので、作られたのは結構前のようで、たぶん1980年前後と想像します。

氏のページで現在販売されているアーミラリーとデザインが異なるのは、そのせいもありますが、ここで大急ぎで付け加えないといけないことがあります。

(いったんここで一息入れます。この項さらに続く)