中世チックな天文趣味に親しむ2019年03月16日 11時54分20秒

前回は知ったかぶりして、ちょっといい加減な記事を書いてしまいましたが、それはさておき、「中世チックな天文趣味」を親しく味わうことは、果たして可能なんでしょうか?

普通に考えると、それはもっぱら本やネットの世界の住人であり、実物を眺めようと思えば、海外の博物館に行くしかありません(日本にいる限り、充実したコレクションは拝みがたいでしょう)。

しかし、世の中には複製本、いわゆるファクシミリ版という便利なものがあって、ホンモノは無理でも、その似姿なら手元に置けないことはありません。

その一例は、以前も登場した『皇帝天文学』の複製です。


ただし、あれはルネサンス期も後期、活版印刷の時代になってからのものでした。
もっと中世チックなものというと、たとえばこんな一冊。


■Losbuch in Deutschen Reimpaaren.
 Akademische Druck- u. Verlagsanstalt (ADEVA), 1972

14世紀の第4四半期に制作されたと推測される彩色写本です。原本はウィーン国立図書館所蔵。複製本の方は、オーストリアのグラーツにあるADEVA社から1972年に出ていますが、ちょっと驚くのは、半世紀近く経った今も、定価390ユーロで版元から購入可能なことです(http://www.adeva.com/faks_detail_en.asp?id=90)。特に稀書ではないので、古書店でも普通に売っています。


ページを開いても何が書かれているのかまったく分からないし、付属の解説書もドイツ語なので、これまたよくは分からないのですが、とりあえずタイトルは『ドイツ語韻文対句による占いの書』といった意味らしいです。要は、個人の星回りを見て、その身にこれから起きることを占おうという本です。


で、その星回りを見るための道具として、表紙の内側には、天体の運行を示すヴォルヴェル(回転盤)が取り付けられています。

今では痕跡を残すのみですが、昔はここにあった円盤をグルグルやって、その指し示す該当ページを読みに行くと、それらしい託宣が書かれている…という体裁。こういう託宣書というのは、古代ギリシャからあって、それがイスラム圏を経由してラテン語に翻訳され、さらに口語たるドイツ語に移されて…という歴史が本書の背後にはあります。東方風の人物像は、そうした歴史の反映でしょう。


こうした占星の書と純粋な天文趣味との間には、もちろん大きな距離がありますが、これはこれで昔の人の「星ごころ」の発露だというのは、原本の装丁に見て取れます。実に素敵な月星尽くし。

(付属解説書より)

何せ当時の人は、星界と人間界(あるいは個人)の相関を説く新学問に幻惑され、星の声を聞き取ろうと必死だったので、用いる解釈原理は違えども、星への憧れと熱意において、後代の天文趣味人と大いに重なる部分があるわけです。