火山の幻燈会2019年03月24日 15時06分10秒

ロングブーツの形をしたイタリア半島。そのつま先側、脛(すね)の下というか、足首の上というか、ちょうどその辺りにあるのがナポリの町です。そして町の東南、ナポリ湾越しに優美な姿を見せているのが、歌にも名高い“火の山”、ヴェスヴィオ山(高さ1281m)。ちょっと鹿児島と桜島の関係に似ていますが、実際そうした縁で、鹿児島市とナポリ市は姉妹都市なんだそうです。

今は一応静かにしていますが、過去には何度も噴火を繰り返しており、特に紀元79年の大噴火によって、ナポリ近郊のポンペイが壊滅したのは周知のとおり。直近の噴火は1944年で、19世紀には名実ともに「火の山」だったので、古絵葉書には、炎や煙を上げる姿で描かれるのがお約束でした。

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下はヴェスヴィオ山の姿をダイナミックに描いた、19世紀後半の幻燈スライド。



米・ボストンのコンロイ社(T. A. Conroy;活動期は1860~1900年代初頭?)の製品で、丁寧な手彩色を施した美しい仕上がりです。まあ、これだけだと何が描かれているのかよく分からないので、透過光で眺めてみます。


昼間の火山。ちらちらする炎と、ゆっくりとなびく噴煙が、のどかな海辺の景色とマッチしています。


これが夜景になると、一転して表情を変えます。激しく吹き上げる炎は、明るく周囲を照らし出し、満月もかすむほどです。山肌も、噴煙も、湾内も、すべてが紅に染まっています。それでも船乗りや恋人たちは、全く動じる気配がありません。これはある程度まで実景であって、当時の人は噴火に慣れっこになっていたのでしょう。


フレームに貼られたラベルには「ナポリ湾。ヴェスヴィオ山の爆発」とあって、その上に「dissolving pictures」と書かれています。これは幻燈の上映技法のひとつで、CGのモーフィングのように、2つの映像を滑らかに遷移させるテクニックです。上の火山のスライドの場合だと、昼間の景色と夜の景色を2台の映写機を使ってインポーズし、片方を徐々に暗く、片方を徐々に明るくしてやれば、二つの景色がゆっくり入れ替わるように見えるわけです。

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静かな夜に演じられる火山の幻燈会―。
なかなか素敵なイメージです。

本物の火山にしても、人間に害を及ぼしさえしなければ、ロマンとファンタジーに富んだ景物として楽しめるのですが、残念ながら大自然は人間の思惑など、これっぽっちも気にしてくれません。こればかりは、人間の側でせいぜい気遣うしかありません。