生物のかたち…もう一つの『Art Forms in Nature』(3)2019年04月13日 06時50分44秒

ところで、『自然の芸術的形態』の図版について、原著(といっても1914年の後版)とリプリントって、どれぐらい差があるのか気になったので、実際に比較してみます。


左が石版刷りの原著で、右がオフセットによるリプリント。
このリプリントは色調もうまく調整されているので、こうして見比べてもほとんど違いは分かりません。むしろピントが合っている分、リプリントの方が鮮明に見えるぐらいです。

実際、現代の印刷技術は進んでいるので、網点が非常に細かいと、ほとんど差が出ません。

(石版)

(リプリント)

写真をうまく撮れなかったので、正確な比較になっていませんが、似たような部位で比べると、これぐらい拡大してようやく差が目立ってきます(それぞれクリックしてください)。まあ、これぐらいなら十分許容範囲だと思いますが、ここが理性と酔狂の分かれ目で、これすらも我慢ならんという人は、オリジナルに行かざるを得ません。

   ★


それと、もうひとつ気になっているのが、ヘッケルの図版の中でもひときわ幻想味の濃いモノトーンの図版についてです。

(一部拡大)

1914年版だと、これらは全て写真製版(網点)で仕上げられています。これは1904年の初版でもそうなのかどうか。リプリント版を見る限り、その可能性はあると思いますが、現物を見るまで断言できないので、これは今後の宿題です()。

漆黒に白く浮かび上がる生物の形態は、いかにも夢幻的な印象を与えるもので、思わず引き込まれますが、写真版だとどうしても黒と白のコントラストが弱くなります。もし、初版が何らかの版画的技法によって、写真版にはない鮮明なコントラストを実現しているなら、酔狂の徒として、ここはさらに思案する必要があります。


【付記】

とはいえ、この辺まで来ると、印刷と版画の区別はだんだん薄れてきます。

「印刷」も版面にインクを載せて刷るという意味では、広義の「版画」に他ならず、彫りと刷りの「手わざ」にしても、後の石版画はだいぶ機械化が進んでいるし、現代の印刷にも名人級の職人がいて、手作業で仕上がりを調整しているんだ…なんて聞くと、だんだん頭がボンヤリしてきます。

むしろ、旧来の印刷と版画をひっくるめて、それと新式プリンタによる今様の印刷を対比させた方がいいのかもしれません。


4月14日 さらに付記】

記事に記した「宿題」の件ですが、博物画といえば何と言ってもこの方、dubheさんにコメントをいただき、早々と解決しました。ありがとうございました。貴重な情報なので私せず、公開させていただきます。結論から言うと、やっぱり1904年の初版も、モノクロ図版は網版だそうです。ただし、そこには注目すべき細目がさらにあるので、酔狂を自任される方はぜひコメント欄をご覧ください。

コメント

_ dubhe ― 2019年04月13日 09時50分41秒

ヘッケルのこの100図の内、黒色や緑色の背景の図版の多くが
精細な網版(autotypieかなと。)で刷られてます。
紙質が違うので直ぐに判断もできたりします。
しかし、ある一枚はAutotypieと石版の重ね刷りのように見えるし、
ある一枚は石版製作に色分解で網版を作って、それを石版に転写してるように見えますし(イソギンチャク図)、
ある一枚は製作時期によって、当初は石版だったのが、網版に切り替わったりしてます。

どちらの技法であっても、これらの100図の精緻さは驚嘆であり、
現在の複製画では再現困難な物ですね。

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