終末の予感2019年04月21日 10時19分44秒

小学生の頃、プランクトンをよく眺めていました。

金魚鉢からすくった水をスライドグラスに一滴落とし、カバーグラスをかぶせて、徐々に顕微鏡の倍率を上げていくと見えてくる、レンズの向こうの不思議な光景。「広大な一滴の世界」を、盛んに身をくねらせ、繊毛を動かしながら泳ぎ回る彼らの姿の何と魅力的なことか。

しかし、そのときの私は、ちょっと別種の感慨も同時におぼえていました。
観察しているうちにも、彼らの世界を支える水は徐々に蒸発していき、彼らの動きは緩慢になり、やがて死を迎えます。そこで私が目にしたのは、一つの世界の終末と住民たちの死でした。その光景にこだわって、私は繰り返し多くの世界を破滅させたのでした。

子どもとは明朗なものだ…というのは、一つの神話に過ぎないのでしょうが、それにしても、あまり明朗な子供ではなかったと思います。

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昨日、そんな仄暗い気分がいっとき甦りました。
そして、もはや手遅れだ…と静かな諦念が漂いました。

それは朝刊を開いたときのことです。
4月20日の朝日新聞は、一面トップで「一人暮らし高齢者896万人」の記事を掲げていました。国の社会保障・人口問題研究所が2040年の推計として、独居高齢者が約900万人になり、全世帯に占める割合が約18%に達すると発表した…という内容です。


最近、国の統計は信用ならぬという、恐るべき状況になっていますが、これは信用してもいいでしょう。未来予測はたいてい当たらないものですが、こと人口動態に限ってはほぼ確実に当たります。結果の変動を招く要素がごく少ないからです。

あと20年(わずか20年)で、日本は確実にそうした社会を迎えます。
しかも、問題は高齢介護など高齢者特有の問題に限らないわけで、上の推計によれば、2040年の世帯構成は、高齢者も含む単身世帯が約4割で最多になると述べています。

人間はある意味孤独な存在だし、好きで一人暮らしをする分には何の問題もありません。しかし、それが強いられた「孤」だとすれば、はなはだ問題が大きいです。

今の日本は、次世代の再生産が不可能になっており、すでに「死に体」です。
今の日本が、望んでも結婚して子供を育てることができない社会だとしたら、ヒトという生物種にとって、日本は明らかに不自然で不適合な環境になっているということです。今日・明日に滅ぶことはないでしょうが、我々が今やスライドグラスに載っていることは明白です。

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なぜこんなことになったのか振り返ると、団塊ジュニア世代に対する国家的無策…というよりも、さらに痛めつけるようことをやった、竹中のような妖怪の跋扈を許した小泉政権がA級戦犯だと、私は考えます。竹中平蔵が今さら何と言おうと、「結果を見ろ、こんな世の中になっちまったじゃねえか。」としか言いようがないです。

私はこれまで安倍政権については厳しいことしか言ってきませんでしたが、この件については、上のように考えています。しかし、この数字を見せられても、「しめしめ、これで消費税増税のいい口実ができた」と彼らが思うようだったら、それをどう嘆けばいいのか、私にはもう分かりません。

ライオンゴロシはライオンを殺さない2019年04月21日 15時21分59秒

…という趣旨の記事を以前書きました。

■京都博物行(4)…ライオンゴロシの実(前編)

■京都博物行(5)…ライオンゴロシの実(後編)


小泉元首相を悪罵しているうちに、ふと思い出しただけのことで、まあ小泉さんとは全然関係ない話ですけれど、さっき調べたら、ライオンゴロシの「風説」は、どうもいまだに健在のようなので、今一度世人に注意を喚起すべく、貼り付けておきます。

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妙に長い記事ですが、肝となるのは「前編」の途中に出てくる

 「ウィキペディアを見る限り、この植物とライオンを結びつけて記述しているのは日本語版のみで、少なくとも英・独・仏語版のウィキペディアには、ライオンに関する言及は見当たりません。」

という事実と、「後編」の最後に出てくる以下の帰結です。

 「…この話題の究極の火元は、19世紀のイギリスにあったと見てよいでしょう。
 その逸話が20世紀初頭のドイツ語の本に引用され、さらに半世紀後、日本の書籍に再引用されて、以後、連綿と語り継がれてきた…というわけです。
 ともあれ、これは19世紀の博物学的想像力が生んだ「残酷なロマンス」であり、ファンタジーなのだと思います。それが本国でフィクションとして捨て去られた後も、極東の地で化石化して生き続けているとしたら、それはそれで素敵なことではないでしょうか。」