蛍光と蛍石の話(その1)2019年08月16日 21時09分41秒

ところで、「蛍光」という言葉。

エネルギーの供給を受けて励起状態となった物質が、再び基底状態に戻る際に発する光、それが「蛍光」です。何か言われて頭に血の上った人が、冷静さを取り戻す際、頭蓋から赤外線を放出する…かどうかは知りませんが、まあ、そんなイメージでしょう。

蛍光の学理は私の手に余るので深入りせず、ここでは、「蛍光(フローレッセンス)」や、その元になった「蛍石(フローライト)」という<言葉>にこだわってみます。

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「蛍光」という言葉は、文字通り「ホタルの光」ですから、あのホタルのお尻の光に由来する言葉だろうと、私は何の疑問も抱かずにいました。

(ホタル。ウィキペディア「ホタル」の項より)

でも、改めて考えてみると、「蛍光」は、「フローレッセンス(fluorescence)」を訳したもので、それは「フローライト(fluorite)」に由来する言葉です。

なるほど、たしかに「蛍石」という日本語は、ホタルに由来するのでしょう。
でも、「蛍光」の方は、直接ホタルから来ているわけではありません。「フローライトが発するからフローレッセンス」であり、「蛍石が発するから蛍光」なのです。つまり、「蛍光」という言葉は、本来「蛍石光」とでも書かれるべきところを、はしょって「蛍光」としているわけです。

(紫外線に照らされて蛍光を発する蛍石(下)。上は白色光で見たところ。ウィキペディア「蛍光」の項より)

ちなみに、「フローライト」の方は、英語の「flow (流れる)」と同根のラテン語から来ており、鉱石を加熱精錬する際、フローライトを融剤として加えると、不要成分が“溶けて流れ出る”ことに由来するそうです。要するに、西洋語のフローライトは、ホタルとは縁もゆかりもない言葉です。それを「蛍石」と呼び、そこから「蛍光」という語が生まれたのは、あくまでも日本独自の事情によるものです。

そうなると「蛍石」という日本語が、いつどこで生まれたかに、興味の焦点は移ってきます。

(この項つづく)