The Scope of Wisdom2020年01月19日 08時09分47秒

去年の今頃は、豚コレラが猖獗をきわめ、「殺処分」――これはあまりいい表現ではないですね――が、盛んにおこなわれていました。その後も発生は続いており、予防策として飼育豚へのワクチン接種や、野生のイノシシへのワクチン散布が、現在も大々的に行われています。

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調べごとがあって、戦時中の新聞に目を通していたら、お目当ての内容とは全然関係ないんですが、下のような記事を見付けて驚きました。

(朝日新聞(中支版)昭和16年(1941)4月23日)

 「猪退治にコレラ菌

 和歌山県東牟婁〔むろ〕郡では何しろ山林が多いだけに猪の繁殖もひどく、麦、甘藷、稲穂などの被害も相当な額に上るので今年は徹底的に防止すべく猪の棲息する山林に「豚コレラ菌」を飼料に混入してバラ撒き根絶する計画を進めている。」

「人間のやることは、おしなべてこうだなあ…」と、深く嘆息しました。
豚コレラに限らず、人間が物事を見通す力は、驚くほどショートスパンだし、やることはひどく場当たり的です。今の人々が、今の人々なりに考えてやっていることだって、遠くから見れば、ずいぶん滑稽なことが少なくないでしょう。

以て他山の石とすべき記事だと思いました。

(こちらは2019年10月18日付の時事通信による配信記事)


【追記】

昔の記事中にある「豚コレラ菌」は、問題となっている「豚コレラウイルス」ではなくて、細菌の一種である「ブタコレラ菌 (Salmonella enterica serovar Choleraesuis)」ではないか…という疑念もあります。

両者が似ているのは名前のみで、実体は当然まったく別物です。1900年代初頭には、豚コレラの真の原因は「菌」ではなく、「ウイルス」だと解明されていたので(※)、これが学術誌ならば間違うことはないのですが、新聞のちょい記事なので、その辺がはっきりしません。そもそも「菌」の方は致死性が高くないので、バラまいても‘根絶’には遠い気がします。


(※)笹山登生氏
  どうして、「豚コレラ」と名付けられてきたのか?その興味深い歴史
  (2019年11月12日追記として、下記リンク先末尾に掲載)

(笹山氏は保守系政治家として鳴らした方。来年80歳を迎えられるとは思えない、大変な能産性に驚きます。)