ハレー彗星来たる(その3)2020年02月08日 18時20分04秒

1758年のハレー彗星は、科学ニュースとなりました。
1835年のハレー彗星は、科学ニュースであると同時にファッションとなりました。
では、1910年のハレー彗星はどうなったか?

それは科学ニュースであり、ファッションであり、さらに「コミックとカリカチュア」になったのです。1910年のハレー彗星をネタにした漫画は、文字通り無数にあって、枚挙にいとまがありません。世の中は市民社会から、さらに大衆社会となり、享楽的な気分が漂っていたことの反映でしょう。

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ここで、ハレー彗星をネタにした、一寸変わった品を見てみます。
大衆社会は消費社会でもあって、その申し子である百貨店が作った宣伝用カードです。

パリの有名なボン・マルシェ百貨店は、1852年の創業。

(下に紹介する品の裏面に刷られたボン・マルシェの威容)

消費社会では宣伝戦略がものを言いますから、同社も余念なく広告に力を入れ、19世紀から20世紀にかけて、同社は広告文化の一翼を担う存在でした。

1910年のハレー彗星は、格好の時事ネタをボン・マルシェに提供しました。
同社は、これを7枚シリーズの大判の色刷りカード(24.5×18センチ、オフセット印刷)に仕立てました。たぶん、買い物のオマケとして配ったのでしょう。

その内容はまさに時代の鏡です。これを見ると、1910年のパリ人が、1835年の父祖と我が身を比べて、どのように自己規定していたかが如実に分かります。

以下、順々に内容を見ていきます。まずはシリーズの第1番。


「75年ぶりに現れた愛らしいハレー彗星がしずしずと歩み寄り、パリの都がお出迎えです。」

左側の青いドレスの貴婦人はパリの擬人化、そして長い裳裾を引く右のピンクの麗人がハレー彗星です。美しい両人が75年ぶりに出会った場面を、ドラマチックに描いているのですが、まあこんな甘いお菓子のような表現は、フランス以外では生まれようがないでしょう。

この後、パリの都がハレー彗星を、あちこち案内するという体でストーリーが展開しますが、長くなるので以下次回。

(この項つづく)