『北越雪譜』の世界2020年02月11日 15時12分07秒

昨日は遅い初雪でした。観測史上、最も遅い初雪だったそうです。今年はもう雪が降らないまま冬が終わってしまうのか…と思っていたので、少なからず嬉しかったです。

これも毎年の言い訳になりますが、雪国の苦労をよそに、あまり能天気なことを言ってはいけないと自戒しつつ、やっぱり天から舞い降りる雪は世界を清め、人の心を慰めてくれるような気がします。

今よりも格段に雪に悩んだ時代だって、都人士にとって雪は文句なく風雅なものでしたし、雪国にあっても、雪という存在に民俗学的関心を集中させる知識人が現れたりして、彼らは頻々とそれを筆にしました。

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その代表が越後の鈴木牧之(すずきぼくし、1770-1842)で、彼の代表作が、有名な『北越雪譜』(初編、1835年刊)です。


手元の岩波文庫は、奥付を見ると1983年発行になっています(初版は1936年)。
この年、私は大学に進学して、慣れない東北暮らしを始めたのですが、その年の冬は記録的な寒さで、一週間も真冬日(=最高気温が0℃以下)が続きました(※)。「これは大変なところに来た…」と思って、急ぎ牧之の本を買い求めたように記憶しています。まあ、宮城は東北の中でも雪の少ない土地ですが、部屋の中でも吐く息が白い中で読むその文章は、実に身に迫って感じられました。

(※)念のため記録を確認したら、これは1984年2月4日から9日までの6日間で、厳密には1週間に満たないですが、その前後も最高気温は1℃台で、非常に寒い日でした。

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『北越雪譜』は有名な本ですから、今さら私が何か書く必要もないのですが、昔の思いを新たにしたのは、文庫本の下に写っている本を見つけたからです。


秩入りの『北越雪譜』複製本。



昭和44(1969)に、地元・新潟の野島出版というところから出ています。



これは非常によくできた、ほぼ完璧な複製本で、これを手にすれば、江戸時代の北越の風土が一層身近に感じられます。



ページをめくれば、挿絵の向こうには、吹雪にかき消される人々の悲鳴が聞こえ…


氷よりも冷たい幽霊の衣を透かして、白一色の世界がどこまでも広がっているのが見えます。