ヤーキス天文台の聖骸布2020年02月17日 06時37分26秒

(昨日のつづき)

シカゴ郊外に聳え立つシカゴ大学・ヤーキス天文台


史上最大の屈折望遠鏡を備えた巨大な建物は、まさに近代を制覇したアメリカ帝国が、ウラニア女神にささげた壮麗な宮殿の趣があります。小さい天文台に憧れると言ったそばから何ですが、茶室の美を良しとする人が、同時に姫路城に感嘆してもいいわけで、ヤーキス天文台の偉容は、文句なしにすごいです。

しかし、この宮殿も老いは免れがたく、近年は閉鎖と存続の間を絶えず揺れ動き、それに関連したニュースを耳にすることが多いです。結局のところ、現在どうなっているのか、英語版Wikipediaをざっと見たんですが、やっぱりよく分かりませんでした。所有者であるシカゴ大学と、創設時に大枚を出資したヤーキス家、そしてヤーキス未来財団とが、存続に向けてややこしい交渉を今も続けているようです。

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1897年に献堂式を執り行ってから、ちょうど100年後―。
1997年の夏に、同天文台の大規模な改修が行われ、外壁のテラコッタ製タイルの交換が行われました。その際、古タイルの大半は捨てられてしまいましたが、完品のまま取り外された一部のタイルは、修理費用を寄付した人に、記念品として贈られました。(日本の大寺院の修復でも、似たようなことをやりますね。)

手元のタイルはその時のもので、これを譲ってくれたのは、同天文台のスタッフである Richard Dreiser 氏です(と言って、別に氏とは知り合いでも何でもなくて、氏がたまたまeBayに出品していたのです)。


タイルの長辺は20cm、短辺は14.5cmほどあります。肉厚の煉瓦質のタイルです。


上の写真だと、金属製ドームの直下にぐるっと手すりを巡らせ、壁に3つの正方形の窓が見えます。このタイルが取り付けられていたのは、この窓の上部、ちょうどドームと接する部分だ…というのが、ドレイサー氏の説明です。


裏面と側面には、製造時に押された数字と記号がくっきりと残っています。


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2018年、これがひょっとしたら、ヤーキス天文台を見学する最後のツアーになるのでは?…と、急ぎ記録されたのが以下のページです(実際、今もツアー中止状態が続いています)。ここでツアーの案内役をつとめているのが、ドレイサー氏本人。

■Yerkes Observatory in William’s Bay-Our Last Tour

ヤーキス天文台に行ったことはありませんが、リンク先の動画を見ると、まるでその場にいるような気分になります(ドームで音声が反響して、エコーがかかっているのがリアルに感じられます)。いえ、気分だけじゃありません。何せ「本物のヤーキス天文台」(の一部)が、今こうして手元にあるのですから、これはもう行かずして行ったようなものです。

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巨人望遠鏡は天文台をしろしめす聖なる主であり、建物はそれを包む布。
まあ、この場合、聖骸布の一部を無意味に有難がるよりも、巨人望遠鏡とその住居が、これからも長く地上に聳え続けることの方が大事なので、ぜひ交渉が円満にまとまってほしいです。