古望遠鏡は時を超え、山河を越えて ― 2020年05月09日 09時28分38秒
この世界では、時に意外な偶然が生じます。
「そりゃそうさ。何せ世界は広いんだから。いくら確率の低いことだって、母数が大きくなれば、当然起こりうるわけさ。」と言われれば、“まあそんなものかな”と思いますけれど、しかし、その偶然が他でもない我が身に生じたとしたら…。しかも、この「天文古玩」という、ちっぽけなブログの中でそれが起こったとしたら…。やっぱり、これは不思議の感を催さないわけにはいかないでしょう。
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ビンテージ望遠鏡界にその人あり。
香川県の「天体望遠鏡博物館」の創立メンバーとして、今もその中心で活躍されているガラクマ(白川)さんから、最近お知らせいただいたことが、その「偶然」です
ガラクマさんは、今春青森を旅行された際、明治の天文史に異彩を放つ奇想のアマチュア天文家・前原寅吉(1872-1950)が使用した望遠鏡の現物をご覧になったそうです。その望遠鏡というのは、下の絵葉書に写っている面々。
(キャプションにある「天文山」は寅吉の号。画面左はオリジナルの包み紙)
(絵葉書の拡大)
これらの望遠鏡のうち、少なくとも3台は現存しており、現在前原家のご子孫から「八戸ポータルミュージアム『はっち』」に寄託されています。
(出典:ガラクマの ウダ話 当該記事は2020/03/5掲載の「No.575 前原寅吉の望遠鏡」)
前原寅吉翁のことは、このブログで何度も取り上げており、下の記事からさらに過去記事へのリンクが張られています。
■前原寅吉、北の地で怪気炎を上げる(前編)
ですから、ガラクマさんからのお便りを読むなり、「ああ羨ましいなあ」と思ったのでした。でも、上で述べた「偶然」とは、そのことではありません。私が心底驚いたのは、「ところでTさんのお持ちの望遠鏡、前原寅吉の望遠鏡の一つと同じですね。」という一文を目にしたからです。
「!!」と、声にならぬ声をあげて、しげしげ見たら、なるほどたしかにそうです。
「はっち」に展示されている下の望遠鏡、古絵葉書だと左下に写っているのは、確かに以前記事にしたものに他なりません。
(ガラクマさん提供)
■ある望遠鏡の謎を追う(前編)(後編)
(上掲記事「前編」より)
ガラクマさんに教えていただくまで、まったく気づきませんでした。まさに灯台下暗し。かつて寅吉が覗いた望遠鏡と同じ型の望遠鏡が、いつの間にか私の部屋にあったという偶然。それも決してメジャーな望遠鏡でなく、メーカー名も知れない望遠鏡であるというのが、いっそう奇遇めいて感じられます。
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こうして、敬慕して止まぬ寅吉翁との距離はいっそう縮まりました。
まあ、他人からすれば些細なことでしょうが、私にとっては大きな出来事で、このコロナ禍の中、心がポカポカ温まる快事となったのでした。(ガラクマさん、どうもありがとうございました。)
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