日本の星座早見盤史に関するメモ(9)…三省堂『新星座早見』 ― 2020年06月19日 06時35分16秒
連載が長くなったので、以前の記事を振り返る便を考えて、過去にさかのぼって各回に以下のような副題を入れることにしました。
(1)…三省堂に始まるその歴史
(2)…三省堂『星座早見』の進化
(3)…手作り早見盤のこと
(4)…戦後の市場拡大
(5)…渡辺教具「お椀型」通史
(6)…昭和50年頃の早見盤界
(7)…ここまでの整理
(8)…渡辺教具「第3期」細見
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次に取り上げるのは、渡辺教具と並ぶ星座早見盤界の主役、三省堂です。
〇三省堂初期版『星座早見』 明治40(1907)初版発行
※手元の品から昭和20年(1945)第77版まで確実に存在
〇三省堂普及版『星座早見』 昭和4年(1929)初版発行
※同じく昭和14年(1939)第63版まで確実に存在
〇三省堂戦後版『星座早見』 昭和26年(1951)初版発行
※同じく昭和30年(1955)第5版まで確実に存在
乗りかかった舟ですから、三省堂版のその後をたどることにします。
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上に挙げた3つのバージョンは、その商品名から『星座早見』と総称できます。そして『星座早見』を名乗る製品はこれで打ち止めで、三省堂は次に『新星座早見』というのを売り出します。昭和32年(1957)のことです。
(『新星座早見』の外袋)
(同裏面(部分))
編者は引き続き日本天文学会。定価は200円。(袋の隅には「地方売価210円」とも書かれています。当時は地方と中央で値段が違ったようです。)
ここで大きな問題は、手元にあるのは画像の外袋だけで、その中身が失われていることです。ただし、袋についた圧痕から、その直径は約23cmと分かります。
ここで話を先回りして述べると、三省堂では昭和61年(1986)に『新星座早見 改訂版』というのを出すのですが、それまでは『新星座早見』の時代が長く続き、この間、基本的にデザインの変更はなかったと推測しています。
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ここで『新星座早見』の本体を見てみます。
外袋のデザインから、1970年代に販売されたとおぼしい品です。
外袋のデザインは大きく変わっていますが、本体のサイズは22.8cmで、1957年の初版と同一と判断できます。お値段の方は、物価上昇を反映してジャスト1,000円。
『新星座早見』と旧『星座早見』の最大の違いは、四隅に角のある形状から、単純な円形になったこと、そして星図盤の上に載る回転盤(地平線の窓が開いた盤)が、透明なプラ板になったことです。これらは同時期の他社製品(渡辺教具やヘンミ計算尺)に追随した形です。
渡辺教具の場合は、この透明な窓に地平座標の目盛をネット状に印刷する工夫をしましたが、三省堂の方は北緯30度~45度まで対応できるよう、窓の形状と天文薄明線を、5度間隔でプリントするという工夫をこらしています(さらに地平座標による高度も読み取れるようになっています)。
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ここで外袋の裏側に目を向けます。
(外袋・裏面)
「きらめく星座をたずね神秘の扉を開こう」
「科学技術の発達とともに、宇宙のナゾが次々と解明されていく現代にあっても、夜空にきらめく無数の星座には、まだ私たちをロマンの世界に誘う何かがあるようです。」
「科学技術の発達とともに、宇宙のナゾが次々と解明されていく現代にあっても、夜空にきらめく無数の星座には、まだ私たちをロマンの世界に誘う何かがあるようです。」
上で、この品の発行年を「1970年代」と書きましたが、発行年自体は、本体にも外袋にも記載がありません。しかし、この外袋の文句には、まさに1970年代としか言いようのない「何かがあるようです」。
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そして、「新星座早見」の本体デザインが、1957年の初版当時から変わってないんじゃないか…と私が推測する最大の理由も、まさにその文章が発する「匂い」に他なりません。
(本体・裏面。「実用新案登録番号第507216号」の記載あり)
(同・部分)
「夜空にきらめく数々の星座は、私たちの夢を誘い、宇宙摂理の妙音をかなでているかのようです。」
うーむ、「宇宙摂理の妙音」…。
はなはだ感覚的な話ではありますが、この言語感覚には、1970年代よりもさらに古風なものを感じないわけにはいきません。
事の真偽はともかく、とりあえず新資料が発見されるまで、「新星座早見」は昭和32年(1957)から昭和61年(1986)までの約30年間、ほとんど変化することなく発行が続いた…と仮説的に述べて、先を続けることにします。
(この項つづく)
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