小さな巨人…ソ連の星座アトラス ― 2020年08月21日 18時27分29秒
アトラスといえば、天空をがっしり支えて立つ巨人ですから、アトラスを名乗る地図帳や星図帳の類も、大きな判型の堂々とした本が多いです。
しかし、中には小さなかわいいアトラスもあります。
高さは14.5cm、だいだい日本の文庫本サイズですが、これも立派なアトラス。
旧ソ連で1949年に発行されたもので、著者はG. レンガウアー、書名は『カルマンニイ・ズヴェズドニイ・アトラス』と発音します(たぶん)。英語に訳せば、ずばり『ポケット・スター・アトラス』。
この淡い青――気取って言えば「錆納戸色」の布表紙もいいし、白い文字と星が目にあざやかで、涼しげな感じがします。
四隅に圧されたちっちゃな星座絵もいいですね。
旧ソ連には、どうもコワもての印象があるし、しかも本書の版元は、「ソ連邦教育省出版局」というお堅いところなんですが、彼の国は一方で子供文化を大事にしたので、こういう妙にかわいいものも生まれたのでしょう。当時は宇宙開発競争前夜、まだ米ソが宇宙で大っぴらに角を突き合わせる前の時代です。
表紙を開くと、中にはいろいろな星の解説が載っていて、
肝心の星図は巻末のポケットに入っています。
(上は商品写真の流用)
カード式の星図が全部で8枚。
ソ連の国内から見える星ということで、赤緯-30度までの空が表現されています。
青インクで刷られた文字と星座境界線が、かっちりした感じです。
星図カードの裏面は、表面の星図にちなんだ天体写真や星の豆知識を載せ、教育的配慮を見せています。
(おおぐま座、こぐま座の近傍)
昔からロシアは、強大で鈍重な熊にたとえられますが、国民の精神生活に分け入れば、当然繊細で可憐な面も豊富にある…という当たり前のことを、1冊の星図帳を前に思い起こします。
★
酷暑も今週で一息つくと、天気予報は告げています。
百日紅の薄紅のドレープが路上に散れば、夏もいよいよ終わりが近づいた証拠。
ホッとした気持ちで夜空を見上げるのも、もうじきでしょう。
コメント
_ S.U ― 2020年08月22日 07時57分06秒
_ 玉青 ― 2020年08月22日 14時41分11秒
ソ連~ロシアのイメージは、世代によってかなり違うでしょうが、戦後は本当にコワもて一色になってしまいましたね。双方にとって不幸なことだったと思います。(翻って、アメリカの対日イメージに及ぼした真珠湾の影響は、我々が思う以上に強固なのでしょう。)
驚愕の記事をありがとうございます。本当にびっくりしました。
日本だとオオカミが似た立ち位置ですね。「おおかみ(大神)」にしろ、「やまいぬ(山犬)」にしろ、基本語彙を組み合わせて、二次的に作られたもので、オオカミを単独で意味する基本語彙は知られていません。「カ(鹿)」にしろ、「イ(猪)」にしろ、それ以上分解できない基本語彙で、日本人との関りからすれば、狼にも当然そうした基本語彙があるべきですが、それがないのは、よっぽど「忌み言葉」の意識が強かったのでしょう。
驚愕の記事をありがとうございます。本当にびっくりしました。
日本だとオオカミが似た立ち位置ですね。「おおかみ(大神)」にしろ、「やまいぬ(山犬)」にしろ、基本語彙を組み合わせて、二次的に作られたもので、オオカミを単独で意味する基本語彙は知られていません。「カ(鹿)」にしろ、「イ(猪)」にしろ、それ以上分解できない基本語彙で、日本人との関りからすれば、狼にも当然そうした基本語彙があるべきですが、それがないのは、よっぽど「忌み言葉」の意識が強かったのでしょう。
_ S.U ― 2020年08月23日 08時37分36秒
日本語で、オオカミはもともとなんと言ったのでしょうね。
「遠野物語」で「御犬の経立」というのがあって、オオカミと言うのも恐ろしいので「御犬」と呼んだのでしょうが、イヌとオオカミは人間にとっては文化的も言語的にもぜんぜん違うものだと思います。
星座名では、おおいぬ、こいぬは Canis で、オオカミは Lupus です。生物の学名では、イヌもオオカミも同じ種で、 Canis Lupusですが、これは、イヌ属オオカミ種 と和訳するのでしょうか?
オオカミ→イヌに限らず、家畜化された動物は元とはぜんぜん違う名前で呼ばれていますね。家畜化されたのを輸入した民族においてはそれで当然なのでしょうが、家畜化した当の民族の言語においては何らかの連携が残っているのでしょうか。まったく茫洋として想像もつきません。
「遠野物語」で「御犬の経立」というのがあって、オオカミと言うのも恐ろしいので「御犬」と呼んだのでしょうが、イヌとオオカミは人間にとっては文化的も言語的にもぜんぜん違うものだと思います。
星座名では、おおいぬ、こいぬは Canis で、オオカミは Lupus です。生物の学名では、イヌもオオカミも同じ種で、 Canis Lupusですが、これは、イヌ属オオカミ種 と和訳するのでしょうか?
オオカミ→イヌに限らず、家畜化された動物は元とはぜんぜん違う名前で呼ばれていますね。家畜化されたのを輸入した民族においてはそれで当然なのでしょうが、家畜化した当の民族の言語においては何らかの連携が残っているのでしょうか。まったく茫洋として想像もつきません。
_ 玉青 ― 2020年08月23日 12時49分33秒
日本語の方はいったん棚上げにして、英語のwolfも調べてみたら、これまたえらく古い言葉らしくて、古英語からゲルマン祖語を経て、さらに遠い歴史のかなたの印欧祖語にまでさかのぼる語で(根本語意は「危険」を意味するらしいです)、結局ラテン語のlupusも同根なんだという話でした。狼と人間のかかわりは本当に古く長いですね。
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1949年では、参戦の恨みはあっても、軍備的には、まだソ連の核開発ニュースは広まっていなくて、ICBMもまだなかったので、その脅威はまだ深刻に見られていなかったのではでしょうか。また、私の子どもの頃はスプートニックショックの後で、誠文堂新光社から「ソビエトの少年科学」というシリーズも出ていて、むしろ科学を学ぶべき国と見られていたように思います(秘密主義だったので、学べる範囲は限られていました)。以来、ロシアの科学の日本での評価はかなり変わったと思いますが、実際のロシアではソ連時代の性格を今も案外引き継いでいるのではないかと思います。
さて、星図を見ると、ロシア語で熊が「メドベーチ」(ラテン文字転記で Medved)と言うのがわかりますが、関連してこんな解説を見つけました。
https://taishu.jp/articles/-/43420?page=1