阿呆船2020年09月17日 10時51分46秒

菅内閣が発足し、また新たな人間観察の機会が与えられました。
ここまで来たら、もはや動じることなく、腰を据えて観察したいです。

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ときに、一連のニュースを見ていて、思い浮かんだワードがあります。

  『阿呆船』

15世紀末にドイツで出版され、16世紀を通じて各国でベストセラーとなった風刺文学です。ちなみに、私はずっと「あほうぶね」と読んでいましたが、さっきウィキペディアを見たら、そちらでは「あほうせん」と読んでいました(この辺は好みでしょう)。

私はタイトルを聞きかじっただけで、これまで内容を読んだことはないんですが、ウィキペディアの記述【LINK】を見たら、ひどく面白そうに思えてきました。

 「ありとあらゆる種類・階層の偏執狂、愚者、白痴、うすのろ、道化といった阿呆の群がともに一隻の船に乗り合わせて、阿呆国ナラゴニアめざして出航するという内容である。全112章にわたって112種類の阿呆どもの姿を謝肉祭の行列のごとく配列して、滑稽な木版画の挿絵とともに描写しており、各章にはそれぞれに教訓詩や諷刺詩が付されている。〔…〕その他にも、欲張りや無作法、権力に固執する者などが諷刺されている。本書は同時代ドイツにおける世相やカトリック教会の退廃・腐敗を諷刺したものとされる。」

こういう本が好まれ、長く読み継がれたという事実は、これこそ人間社会のデフォルトであることを示しているのではありますまいか。
しかも、その阿呆の群れの先頭を行くのが、

 「万巻の書を集めながらそれを一切読むことなく本を崇めている愛書狂(ビブロマニア)であり、ここでは当時勃興した出版文化の恩恵に与りながら、有効活用もせず書物蒐集のみに勤しむ人々を皮肉っている。」

…というのですから、まさに私自身、阿呆船の一等船客の資格十分です。

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今回ウィキペディアに恩義を感じたのは、上の項目から「ナレンシフ(小惑星)」にリンクが張られていたことです。

「ナレンシフ(Narrenschiff)」は、『阿呆船』のドイツ語原題。
旧ソ連の女性天文家、リュドミーラ・ゲオルギイヴナ・カラチキナが1982年に発見命名した小惑星で、正式名称は「5896 Narrenschiff(1982 VV10)」。火星と木星の間の小惑星帯を回り、絶対等級は13.8となっています。光学的観察からは、サイズ・形状ともに不明ですが、小惑星イトカワ(絶対等級19.2)が直径330mですから、2、3km~数kmのオーダーでしょう。

それにしても、カラチキナはなぜこれを「阿呆船」と名付けたのか?
この空飛ぶ阿呆船が目指す阿呆国「ナラゴニア」はどこにあるのか?

たいそう気になりますが、皆目わかりません。
そして、カラチキナの機知に感心しつつも、『阿呆船』と優先して命名されるべき天体は、他にあるような気がします。

【2020.9.18付記】 ナレンシフの命名者と命名理由について、コメント欄でS.Uさんにご教示いただきましたので、併せてご覧ください。

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そんなこんなで、私は『阿呆船』を注文することにしました。
たとえ積ん読になっても、それ自体が『阿呆船』の世界に入り込む行為ですから、それもまた良いのです。いずれにしても、あの顔もこの顔も、みな同船の客と思えば、親しみを持って観察できようというものです。