透かし見る空…透過式星図(1)2020年09月23日 06時48分40秒

しばらく前に『ウラニアの鏡』――すなわち、小穴を透かして星座の形を楽しむカードセットの話題を取り上げました。

■ウラニアの鏡

あのとき十分書けずにスルーしてしまったことがあります。
他でもない、この「透過式星図」という形態そのものについてです。上の記事では、ウィキペディアの「ウラニアの鏡」の項を参照しましたが、実はそこにはこういう注目すべき記述がありました。

 「イギリスの科学史家イアン・リドパス〔…〕によれば、こうした仕掛けをもった星図集は他に Franz Niklaus König Atlas céleste (1826年)Friedrich BraunHimmels-Atlas in transparenten Karten (1850年)Otto MöllingerHimmelsatlas (1851年)の3つがあるが、これらには「『ウラニアの鏡』のような芸術性が欠けている」と述べている。」

ウィキペディアは、イアン・リドパス氏の解説ページにリンクを張っており、そこには確かに同旨の記述があります。

   ★

私が透過式星図に興味を覚えるのは、それが星図史における「色物」以上の存在だと思うからです。

たしかに、透過式星図は、第一義としては天文学の基礎を学ぶためのツールであり、それを効果的なものとする工夫として、ああいう形式は編み出されたのでしょう。

しかし、れが同時代人の心を捉えたのは、それが「教具」である以前に、一種の「視覚玩具」として受容されたからだと思います。つまり、一見普通の星図が、一瞬で輝く星空に変わるという驚きは、ステレオ写真や幻灯、パノラマ、キネオラマといった、同時代に流行った視覚的娯楽と同質のものであり、透過式星図は、「19世紀視覚文化史」の文脈で捉え返して、はじめてその姿が見えてくる…というのが私見です。(さらに一歩踏み込むと、「見る」ことへのオブセッションこそ、当時の天文趣味隆盛の要因なのでしょう。)

   ★

さて、前口上はこれぐらいにして、リドパス氏が挙げた3種の星図を順々に見てみたいのですが、透過式星図といえば、以下の星図も絶対に外せないので、まずそちらを一瞥しておきます。

■James Reynolds(著)
 『Reynolds' Series of Astronomical and Geographical Diagrams』
 (レイノルズ天文・地学図譜)
 James Reynolds(London)、1850頃

(右下にちらりと見えているのは、英語原版を元にしたスウェーデン語版)

この本ははるか昔(2006年)に登場済みです【LINK】。が、話の流れとして、新たに写真を撮り下ろして再登場させます。

この本の書誌や、レイノルズその人について、依然はっきりしない点もあるんですが、彼は「絵解きもの」を得意とした人らしく、1840年代後半から1860年代前半にかけて、各種の科学図解やロンドン市街地図など、ヴィジュアルな出版物を続けざまに出しています。まさに「視覚文化」の潮流に乗った人。本書は彼の代表作で、出版後すぐに各国語版が出ました。12枚セットがオリジナルですが、版によって図版数は異同があります。


天の川の横切る天球図を光にかざせば…


一転して星空へと変化します。

この「透過式天球図」という趣向は、後で見るように、ドイツのフリードリッヒ・ブラウンも1850年に試みていますが、どちらかが模倣したのか、それとも相互独立に考案したのか、年代の先後が微妙なので、今のところ真相は不明です。ただ、レイノルズはなかなか創意に富んだ人で、星図のみならず惑星や月の姿も透過図版化しているのは、ブラウンに見られない工夫です。





これらの画題や構図は、当時流行した天文をテーマとした幻灯講演会の演目ともかぶります。本書は、「特別な装置の要らない幻燈会」として、家庭の夕べを楽しいひとときにしたことでしょう。

(この項つづく)

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログのタイトルを平仮名で書くと、「○○○○こがん」です。○○○○に入る4文字は?

コメント:

トラックバック