鉱物古玩…缶入り鉱物標本セット ― 2021年03月19日 19時20分52秒
年度替わりの時期、面倒な仕事の山を片づけながら、「これもプチ終活みたいなものか…」とひとりごちています。ただ、実際の終活とはちがって、こちらはやり残しが許されないムードがあるので、いっそう人生に倦み疲れた気分になっています。
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さて、いつもの机の上にポンと置いた木箱。
大きさは15.5×19cm、高さは4cmほどですから、そう大きなものではありません。新書版よりは大きい、ほぼ選書サイズ(四六版)です。
蓋をぱかっと開けると、中には鉱物標本が20種、円筒形の容器に入って、きっちり収まっています。
中身とラベルをじっくり照合したことがないので、正体不明の点もありますが、ラベルのほうは19種の鉱物名が挙がっているので、どれか1個重複しているようです。
(ガラスの反射を避けて、正面から見たところ)
それにしても、この風情はどうでしょう。
まず、このきっちり感がいいですね。そして「マホガニーケースに入った19世紀の鉱物標本セット」という存在自体が、主役であるはずの鉱物以上に魅力を放っています。こういう鑑賞態度は、純粋な「鉱物趣味」とも言い難く、いわば「鉱物古玩趣味」でしょうか。
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この標本セットに関して、もう1つ強い興味を覚えたのは、この収納容器。
鉱物コレクターの中には、小さなガラス蓋のついたアルミケースを標本入れにしている方もいらっしゃるでしょう。100均とかだと、「ティンケース」の名称で売られています。
(ネットショップで見かけたティンケース。 出典:https://store.shopping.yahoo.co.jp/biwadaya/6ari15-5.html#)
あれは小さな標本の整理にはなかなか便利なものですが、ただ、古い標本は紙箱入りというイメージがあるので、ティンケースの使用は何となく新しい習慣のように思っていました。でも、実際にこういう例があるので、その使用は少なくとも19世紀の末に遡ることになります。
ティンケースは今ではアルミ製ですが、本来は文字通り「ティン(tin)」、すなわち錫ないしブリキ製だったのでしょう。この標本に使われているのがまさにそれです。
当初は白銀の輝きとガラスの透明感にあふれていたものが、100年以上の歳月を経て、すっかりアンティークの表情となり、鉱物古玩趣味に強く訴えかけてきます。
コメント
_ S.U ― 2021年03月21日 06時56分26秒
_ 玉青 ― 2021年03月22日 06時44分57秒
ありがとうございます。
なるほど、アルミ製ティンケースという不思議な存在の背後には、金属市場の複雑な動きも絡んでいるのですね。
ときに、そもそも錫とアルミニウムって、この星にどれぐらい存在するんだろう…と思ったら、「地殻中の元素の存在度」という便利なページがありました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/地殻中の元素の存在度
地殻の中でも表面付近の岩石圏を「リソスフィア」というそうですが、そこに占める質量比でいうと、アルミニウムは8.13%。これは酸素、ケイ素に続いて堂々の第3位です。一方錫はというと、パーセントでは到底表示できず、「痕跡量」と何だか心細いことが書いてあります(地殻全体で考えても2.2ppm)。精錬のことさえ考えなければ、アルミニウムは鉄以上にありふれているし、錫は超レアな貴金属扱いをされてもおかしくありません。その意味で、この錫製のティンケースこそ宝石箱にふさわしいのかも。
そういえば、過去にはこんなやりとりもありましたね。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2014/11/02/7480697
あれからもう7年です。嗚呼…。
なるほど、アルミ製ティンケースという不思議な存在の背後には、金属市場の複雑な動きも絡んでいるのですね。
ときに、そもそも錫とアルミニウムって、この星にどれぐらい存在するんだろう…と思ったら、「地殻中の元素の存在度」という便利なページがありました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/地殻中の元素の存在度
地殻の中でも表面付近の岩石圏を「リソスフィア」というそうですが、そこに占める質量比でいうと、アルミニウムは8.13%。これは酸素、ケイ素に続いて堂々の第3位です。一方錫はというと、パーセントでは到底表示できず、「痕跡量」と何だか心細いことが書いてあります(地殻全体で考えても2.2ppm)。精錬のことさえ考えなければ、アルミニウムは鉄以上にありふれているし、錫は超レアな貴金属扱いをされてもおかしくありません。その意味で、この錫製のティンケースこそ宝石箱にふさわしいのかも。
そういえば、過去にはこんなやりとりもありましたね。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2014/11/02/7480697
あれからもう7年です。嗚呼…。
_ S.U ― 2021年03月23日 08時27分31秒
錫は「貴金属」なみとは驚きです。
では、食器の名産工芸品とかあったら購入を考えたいと思います。
>過去にはこんなやりとり
例によって同じようなことを書いていますね。
おそらく、錫貨をいじっていた子供の頃に、祖母あたりに戦争後半に貨幣が変わってしまったという話を戦争の悲惨さと絡めて聞き、印象に残ったのだと思います。それで、アルミより錫は劣位の金属だとすりこまれてしまったのでしょう。実際は、ぜんぜんそんなことはないのですね。
錫は、アルミの代替品というには物理的性質、工業用途が違いすぎるので、材質として優劣は付けられず、市場価格の比較しかないと思うのですが、硬貨の材料としては硬度の点で相当劣るのは動かしがたいと思います。また脱線ですみませんが、逆に貴重だからこそ、硬貨の材料になるという例もあります。1933年のニッケル貨の発行は国内備蓄が目的とされています(私には信じがたいですがそういうことになっています)。
ところで、錫製の鈴は見つかりましたでしょうか。
では、食器の名産工芸品とかあったら購入を考えたいと思います。
>過去にはこんなやりとり
例によって同じようなことを書いていますね。
おそらく、錫貨をいじっていた子供の頃に、祖母あたりに戦争後半に貨幣が変わってしまったという話を戦争の悲惨さと絡めて聞き、印象に残ったのだと思います。それで、アルミより錫は劣位の金属だとすりこまれてしまったのでしょう。実際は、ぜんぜんそんなことはないのですね。
錫は、アルミの代替品というには物理的性質、工業用途が違いすぎるので、材質として優劣は付けられず、市場価格の比較しかないと思うのですが、硬貨の材料としては硬度の点で相当劣るのは動かしがたいと思います。また脱線ですみませんが、逆に貴重だからこそ、硬貨の材料になるという例もあります。1933年のニッケル貨の発行は国内備蓄が目的とされています(私には信じがたいですがそういうことになっています)。
ところで、錫製の鈴は見つかりましたでしょうか。
_ 玉青 ― 2021年03月24日 06時54分12秒
>錫製の鈴
なかなかありそうでないですねえ。錫単品ではなく、銅と混ぜた青銅ということなら、類例は一気に増えますし、銅鐸のことも念頭に浮かびます。では銅鐸と鈴の関係は…というと、以下のようなページがありました。
■古墳時代の鈴の音
https://www.kyohaku.go.jp/jp/dictio/kouko/97kofun.html
まあ解説を読んでも、錫と鈴の関係については、すっきりしないままですが、でも何となくどこかでつながっていそうな印象は残ります。それと、さっきふと思いついて「tin bell」で検索したら、画像がたくさん出てきました。本題とはずれますが、錫と鈴の相性は悪くなさそうです(でも、こちらのベルは「鈴」というより「鐘」かもしれません)。
なかなかありそうでないですねえ。錫単品ではなく、銅と混ぜた青銅ということなら、類例は一気に増えますし、銅鐸のことも念頭に浮かびます。では銅鐸と鈴の関係は…というと、以下のようなページがありました。
■古墳時代の鈴の音
https://www.kyohaku.go.jp/jp/dictio/kouko/97kofun.html
まあ解説を読んでも、錫と鈴の関係については、すっきりしないままですが、でも何となくどこかでつながっていそうな印象は残ります。それと、さっきふと思いついて「tin bell」で検索したら、画像がたくさん出てきました。本題とはずれますが、錫と鈴の相性は悪くなさそうです(でも、こちらのベルは「鈴」というより「鐘」かもしれません)。
_ S.U ― 2021年03月24日 12時23分16秒
>錫と鈴の関係については、すっきりしないまま
銅鐸や中に舌が入っているタイプの古代中国の鐘は、鈴の起源と見なしてよいのではないでしょうか。でも、青銅中の錫成分は多い必要はないので、これが錫と鈴の関係を意味するかどうかはまだわかりません。
、英語のほうは、tin というのは金属音由来のような気がしますし、Tinker Bellというのも錫で楽器を拵えた人に喩えたのかなと思えてきました。
銅鐸や中に舌が入っているタイプの古代中国の鐘は、鈴の起源と見なしてよいのではないでしょうか。でも、青銅中の錫成分は多い必要はないので、これが錫と鈴の関係を意味するかどうかはまだわかりません。
、英語のほうは、tin というのは金属音由来のような気がしますし、Tinker Bellというのも錫で楽器を拵えた人に喩えたのかなと思えてきました。
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またも、脇道ですみませんが、現在のティンケースがアルミ缶とは面白いです。最近、錫製品はあまり見ませんね。 昭和19年には逆に硬貨がアルミから錫に変わったことがありましたが、昨今のは価格の競合関係なのでしょうか。
https://ecodb.net/commodity/aluminum.html
https://ecodb.net/commodity/tin.html
錫は、アルミに比べて乱高下が激しく、ずっと高価になってしまったようです。(最近の高騰は、新型コロナでテレワークの増加→電子機器がよく売れる→はんだの需要増大 ということだそうです)。