鉱物趣味のアイコンとは ― 2021年03月24日 06時54分34秒
河の流れは常に一方向ですが、仔細に見れば早瀬もあり、淀みもあり、中には渦を巻いて、全体の流れとは逆行する動きも生じます。
常に動き行く世界の片隅で、生活の糧を得るために今も呻吟していますが、河が全体としてどちらに向かって流れているのか、それを見失わないようにしたいものです。
…とひとりごちたところで、暢気な話のつづきです。
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「昆虫好きな人」といっても実態は多様でしょう。
でも、依然として最もポピュラーなのは、「昆虫採集趣味の人」じゃないでしょうか。つまり、自ら野山で網を振るって、せっせと標本をこしらえる人。最近だと、捕虫網をカメラに持ち替えて、昆虫写真のコレクションに励む人も多いかもしれません。その場合も、虫たちの住む場所まで出かけて、その場の空気を肌で感じながら…という点は同じです。要するに「現場派」ですね。
昆虫標本のコレクションを形成するには、自分で採集する以外に、よその土地の同趣味の人と標本を交換したり、専門の業者から購入することも実際多いのでしょうが、依然として「捕虫網と毒びんと三角紙が昆虫趣味のアイコンだ」というのが、当事者を含む多くの人の共通理解じゃないでしょうか。
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そんなことを持ち出したのは、鉱物趣味の立ち位置を考えたかったからです。
鉱物趣味の場合も、過去のある時期、たぶん昭和の頃までは、「自採」という活動が非常に大きなウェイトを占めていたと思います。しかし、現在、「趣味は鉱物集めです」と聞いて、リュックをしょって山に分け入る姿をイメージすることは、ほとんどありません。
もちろん、自由に動き回る昆虫と、地面にひっついている岩石や鉱物とでは、採集にあたってのハードルが異なる(=地上権や採石権が発生して、ややこしい)ので、ひとくくりにはできませんし、辺境の地に産する珍奇で美しい鉱物を入手しようと思ったら、業者からの購入に頼らざるを得ないのは当然です(後者の点は昆虫趣味も同じです)。
しかし、金銭と引き換えに手に入れた美しい鉱物を眺めながら、その産地のことを全く考えないとしたら、それはいささか寂しいことです。
そこに広がっているであろう景色、風の音、土の匂い、遠い山並みの稜線、そして鉱物の生態環境たる地質条件。そうしたものを思い浮かべつつ鉱物を手にしてこそ、大地(geo)の学問たる地質学(geology)の愛好者と称するに足るのではないか…と、地質学のことを何も知らない私が力説してもしょうがないんですが、そんなことを思います。(もっと言ってしまうと、新派の鉱物好きの人の視線が、宝石箱を覗く貴婦人のようになっているのが気になっています。)
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上のような印象は、以前も文字にしました。
■「鉱石倶楽部」の会員章(後編)
その中で書いたように、昆虫趣味のアイコンが「捕虫網、毒びん、三角紙」ならば、「ハンマー、つるはし、スコップ」が、旧来の鉱物趣味の三種の神器。鉱物趣味に憧れる者として、私も象徴的にその神器を手にすることにしました。
ひとつはアメリカ生まれで、
もうひとつはオーストリア生まれです。
かつて正真のミネラロジストが手にし、あまたの岩肌に触れたであろう、古い鉱物採集用のハンマーとつるはし。自分がこれらを手にして山に行く可能性はゼロだし、全く意味のない買い物とえばそうなのですが、それを鉱物標本の傍らに置けば、石たちの声がより明瞭に聞こえてくるような気がします。
コメント
_ S.U ― 2021年03月24日 12時30分14秒
またも無粋な話ですみません。昨今、日本の山林が「負動産」として買手市場になっているのをよいことに、これを購入して1人キャンプなどを楽しんでいる人が増えているといいます。鉱物採集趣味の人にはチャンス到来ではないでしょうか。
_ 玉青 ― 2021年03月26日 06時48分58秒
おお、一山買ってひとり採鉱。
そのためには少量でも多種の鉱物を産する場所が良いので、場所選びからいろいろ知恵を絞って楽しめそうです。花崗岩体周辺の熱水鉱脈を含む地域が狙い目でしょうか…
そのためには少量でも多種の鉱物を産する場所が良いので、場所選びからいろいろ知恵を絞って楽しめそうです。花崗岩体周辺の熱水鉱脈を含む地域が狙い目でしょうか…
_ S.U ― 2021年03月26日 08時52分13秒
>花崗岩体周辺の熱水鉱脈を含む地域
そういうものですか。
では、ここだけの秘密の話ですが、
http://sanbesan.web.fc2.com/shimane_library/geology_map.html
この辺りでしょうか。
そういうものですか。
では、ここだけの秘密の話ですが、
http://sanbesan.web.fc2.com/shimane_library/geology_map.html
この辺りでしょうか。
_ 玉青 ― 2021年03月27日 06時38分00秒
いけません、そういうことは他聞をはばかるので、鳩の肢にくくりつけて知らせていただかなくては…
ときに、ブラタモリのネタ帳的な、古今の鉱山分布と地質図を重ねて、いろいろ蘊蓄を語ってくれているページがあったら面白いな…と思って探したのですが、パッと出てきませんでした。もうちょっと探してみます。
ときに、ブラタモリのネタ帳的な、古今の鉱山分布と地質図を重ねて、いろいろ蘊蓄を語ってくれているページがあったら面白いな…と思って探したのですが、パッと出てきませんでした。もうちょっと探してみます。
_ S.U ― 2021年03月27日 07時27分09秒
すみません・・・ では、ただちに削除をお願いします・・・
実は、その地図の中央付近の火山は私には印象深いというか恨み深い場所で、火口の底の池まで下りたことがあるのですが、そこで休憩してどっと疲れが出てしまい、また登らないと帰れないということで、火口の恐ろしさを知ったところです。
実は、その地図の中央付近の火山は私には印象深いというか恨み深い場所で、火口の底の池まで下りたことがあるのですが、そこで休憩してどっと疲れが出てしまい、また登らないと帰れないということで、火口の恐ろしさを知ったところです。
_ 玉青 ― 2021年03月29日 06時42分10秒
そんな陥穽を仕掛けて人間を待ち設けているとは、火山とは何と怖ろしい相手なのでしょう。それにしても、這い上る途中で突如火山が目覚めず、何よりでしたね。。。
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