昔の鉱物趣味の七つ道具(後編)2021年04月14日 05時28分47秒

(前回の続き)

(画像再掲)

この27cm幅の木箱をパカッと開けると、


各種の器具と試薬がきっちり収まっています。


蓋の裏に貼られたラベル。この吹管分析セットは、イングランド西部・トルーローの町で営業していた「J.T. Letcher」という科学機器メーカーが、19世紀後半(1880年頃)に売り出したものです。

ラベル中央には、"SOCIETY OF ARTS. SUPERIOR BLOWPIPE SET WITH EXTRA APPARATUS"と麗々しく書かれており、「ソサエティ・オブ・アーツ監修・特上吹管セット。付属装備一式付き」といった意味合いでしょう。

「Society of arts」というのは、「Royal Society of Arts」のこと。
この「アーツ」は芸術に限らず、広く専門技術の意味で、「王立技芸協会」と訳されます。現在は対貧困やSDGsといった、社会改良運動に力点を置いているようですが、19世紀には科学教育の普及にも熱心で、リーズナブルな価格の顕微鏡のコンテストを開いたりしていましたから、この吹管セットも同じ文脈で考案されたのだと想像します。


こう見ると完品ぽいですが、この下段にもいろいろ備品を収納するスペースがあって、そちらが何点か欠失しています(だから私にも買えました)。

(右端はアルコールランプ)

内容のいちいちについては、私自身よく分かってないので立ち入りませんが、セットの主役である吹管がこちら↓になります。


ラッパだったら、この反対側に口を付けてプーと吹くわけですが、気流を集中させたい吹管の場合、それでは役に立ちません。吹管はこの「ラッパ」に口を付けて息を吹きます。


これが吹管の全体。「ラッパ」の反対側、L字型に横に突き出た尖端から空気が噴出します。


試薬一式の入ったトレーを取り外すと、その下にガラス管や小さな管ビンが収まっています。またその脇に真鍮製の円筒缶が見えますが、その中身は木炭です。そこに試料を入れたり載せたりして、吹管の炎で強く熱し、試料の変化を観察するわけです。

   ★

鉱物趣味とは、言うまでもなく鉱物を愛でること。
でも鉱物に限らず、趣味人は同じ趣味の人とつながり、互いに経験を分かち合うことことで、一層趣味に味わいが出るように思います。

そして、そうした人とのつながりは、ときに時代をも超えます。こういう古い品を前にすると、異なる時代を生きた鉱物趣味人の肉声が聞こえてくるような気がします。

朋あり遠い過去より来たる、また楽しからずや。

コメント

_ S.U ― 2021年04月14日 06時42分03秒

吹管、木炭をベースというのは初めて知りました。この趣味は必要に迫られてということだったのでしょうが、ついには道具自体も趣味になったのでしょうね。

 「炎色反応」は化学の試験で憶えされられました。現象としてはきれいで面白いのですが、試験で憶えないといけないとなると別問題です。今でも、入試で出うるのではないでしょうか。そうそう、地学で、金属鉱石では「条痕板」というのを使っていました。これは今は使われず、もう試験にも出ませんでしょうか。
 
 なお、今なら、蛍光X線分析装置を使えば早いのですが、これは、趣味で設置できるか聞いたことはありません。

_ 玉青 ― 2021年04月17日 18時22分09秒

日常些末のことですが、鍋を火にかけていて、吹きこぼれの跡から黄色い炎が上がっていると、すぐに炎色反応のことを思い出します。あれはナトリウムの色ですね。お手製の簡易分光器で、そのスペクトルを観察したこともあるような…。ささやかな理科趣味です。

花火で遊んだり眺めたりするときにも、炎色反応のことは頭をよぎりますし、科学を語るにはなかなか良い入口ですよね。

過去記事だと、こんな話題もありました。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2016/01/13/7989946

条痕板については、中学の理科でも高校の地学でも、授業で使われる可能性はあると思いますが、その辺は担当する先生の裁量ですから、実際に授業で見聞きする生徒さんは少ないでしょう。(習うとすれば、相当マニアックな先生ですね。私自身も授業で学んだ覚えはありません。)

_ S.U ― 2021年04月19日 12時25分04秒

>条痕板~担当する先生の裁量

 金は金色だが、黄銅鉱は黄または緑がかった黒色。黄鉄鉱はただの灰色または黒色。

 輝きの化けの皮がはがれる教訓話のようで、こういうのけっこう好きです。

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