九月の星の句2021年09月20日 11時41分47秒

久しぶりに俳句の話題です。
昨日の朝日俳壇を見ていて、深く感じ入ることがありました。

(稲畑汀子 選)
●母は子に 何かをささやく 星月夜 (静岡市 松村史基)

選者評は、「一句目。満天の星の光が月のように明るく見える。庭に出て、それを見上げる母子の会話が想像される」。いかにも穏やかで、平明な句ですね。と同時に、人生の一瞬を切り取って、その一瞬から人生そのものを想像させるような広がりがあります。

そしてさらに星の句を拾っていくと、次の句が目に留まりました。

(長谷川櫂 選)
●アフガンの 女性の上を 天の川 (高松市 島田章平)

私が深く感じたというのは、この2つの句が私の中で瞬間的に結びついたからです。
もちろん両句は独立に詠まれたもので、1句目の母子はアフガンの人ではないし、2句目の女性が母親とも限りません。しかし両句が一つになると、そこにはお二人の作者の意図を超えた、別の像が結ばれます。

荒廃した町並み、絶望に支配されそうな心、その中で母はわが子に何かをささやき、その上を銀河が無言で流れていく――。

俳句には「付け合い」ということがあります。
ふつうは五・七・五に、別の読み手が七・七を付けるという、座の文芸特有の形式を指すのだと思いますが、それに限らず、二つの句が唱和し、新たな意味を放つことが、この短詩形文学にはあります。

さらに紙面に目を走らせると、もうひとつ天の川の句がありました。

(大串 章 選)
●滑走路 天の川へと 灯をつなぎ (玉野市 勝村 博)

ここでまた、先日のアフガン避難行と、それにまつわる混乱や悲劇を思い起こすと、やっぱり抜き差しならない意味が、そこに生じてきます。

   ★

偶然に生じた三つの句の唱和。あまり独りよがりな読み方も良くないですが、俳句の妙味は、こういうところにもあるのだと思います。

(アフガニスタンの空を横切る天の川。Yunos Bakhshi 氏撮影。出典: UNIVERSE TODAY

コメント

_ S.U ― 2021年09月21日 08時01分34秒

芭蕉のわびさびの世界で復興した俳句ですが、現代にいたっても写生の精神と意気込みで現代的な文芸として生き残っていることに驚嘆します。ものを見て写すだけのことにこれだけの力があるということは心強いです。

_ 玉青 ― 2021年09月21日 21時13分31秒

自分で詠むことはしないんですが、随分昔から俳句には惹かれています。
今日の記事も俳句に絡めてみました。

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