ジョセフ・エルジー『夜ごとの星』2021年11月20日 09時06分08秒

先日の「小さな星座早見盤」の話題が、あまりにもあっけなかったので、罪滅ぼしではないですが、ちょっとそれらしいものを載せておきます。


■Joseph H. Elgie(著)
 The Stars Night by Night.
 C. Arthur Pearson Ltd. (London), 1914. 247p.


巻頭にいきなり広告が出てくる、雑誌めいた造りの本ですが(ちなみに裏表紙はココアの広告です)、そのタイトルページをめくると、


こんな星座早見が付録に付いています。


この円形星図の直径は11cm弱ですから、確かに「小さな星座早見盤」の仲間に入れてもいいでしょう。


肝心の本の中身は…と、書き継ごうと思ったんですが、私はまだ中身を読んだことがなくて、今の今まで「おまけに星座早見が付いた本」という以上の認識はありませんでした。まあ、よくある星座解説書の類だろうと思っていたわけです。

でも改めて目を通すと、これは作者による1年間の星日記という体裁をとった、星のエッセイ集であり、なかなか滋味に富んだ内容だと知って、改めて読んでみようかなという気になりました。

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作者のジョセフ・エルジーは、王立天文学会(RAS)と英国天文学協会(BAA)の会員で、天文と気象に関する一般向けの本を何冊か出している人のようですが、詳細な伝は不明。

なお、この『The Stars Night by Night』は、先にエルジーが私家版で出した『The Night Skies of a Year』(1910)の廉価普及版であり、再版に際して新たに星座早見盤を加えたことが序文に記されていました。

ポケット・プラネタリウム2021年11月21日 18時15分55秒

星座早見盤というのは本当によくできています。
円盤をくるくる回すだけで、星々が24時間で一周する「日周運動」も再現できるし、特定の時刻に見える星座が、1年かけてゆっくり空を一周する「年周運動」も再現できます。そして両者を組み合わせれば、24時間・365日、いついかなる時の星空でも、たちどころに教えてくれるのです。まさに電気不要の「手の中のプラネタリウム」

ただし語義を考えると、これは若干不自然な言い方です。
ふつうの星座早見盤は、星座(恒星)の位置だけを示し、惑星の位置は省略されているのに対して、プラネタリウムの本義は、文字通り惑星の位置を示す「惑星儀」だからです。

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そうした星座早見盤の弱点を補う「ポケット・プラネタリウム」を見つけました。
こちらは文字通り「懐中惑星儀」―― 惑星の位置を知るためのものです。

(サイズは17.8×13cm)

(表紙を開いて伏せたところ)


中身はこんな構造になっていて、向かって右がプラネタリウム本体、左に使用法の説明が書かれています。


1959年にロサンゼルスのスペース・テクノロジー・ラボラトリーズ(STL)が発行したもので、値段の表示がどこにもないので、あるいはノベルティグッズだったかもしれません。(STLはアメリカの初期航空宇宙産業を支えた企業のひとつで、親会社の合併に伴い、その後TRW 社の一部門となりましたが、そのTRW社も今はなく、まこと有為転変の世の中です。)


本体はヴォルヴェル(回転盤)が多層構造になっており、左に見える色付きの円盤群が「惑星盤」、右側の透明な円盤が「地球盤」です。

くだくだしい説明ははぶきますが、まず各惑星盤(水・金・火・木・土)を、盤上の目盛をたよりに、そのときどきの位置に合わせ、次いで地球盤を回すことで、各惑星が地球から見てどちらの方向に見えるか(すなわち黄道12星座のどこに位置するか、そして特定の時刻にそれが東西どちらの方角になるか)を判別する仕組みです。


惑星盤の中心にあるのが太陽で、今、我々は太陽系を真上(北)から見下ろしている格好になります。そして太陽を中心に惑星がくるくる回り…となると、要はこれは「ペーパーオーラリー」です。ただし、地球が常に下部中央―下のハトメの位置―にくるところが、普通のオーラリーと異なります(したがって各惑星の位置は、あくまでも地球を基準にした相対的なものです)。

もちろん、普通のオーラリーのように、地球も太陽の周りを回転するように作れば、その方が感覚的にも分かりやすいのですが、そうすると全体が嵩張ってポケットサイズにならないので、次善の策として上のような構造にしたのでしょう。

そういえば、昔「プラネティカ」という品を紹介したことがあります。

(画像再掲。元記事 http://mononoke.asablo.jp/blog/2011/05/04/5845041

プラネティカもその時々の惑星の位置を知るための道具でしたが、プラネティカの歯車機構を手で代行し、さらに地球の位置が常に下(手前)にくるように持って使えば、このポケット・プラネタリウムと同じことになります。

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このポケット・プラネタリウムは、1959年1月から1969年1月までの10年間しか惑星の位置目盛がないので、すでに50年以上も昔に「賞味期限」が切れてしまっています。でも、そのデザインとカラーリングは今も清新で、当時の未来感覚と、スペースエイジの息吹を強く感じさせます。

天候早見盤2021年11月23日 11時29分36秒

前回のポケット・プラネタリウムの色使いから連想した品。


■Raymond M. Sager(監修)
 Guest Weathercaster
 Dial Press(New York)、第4版1961(初版1942)、25p.

これは星座早見盤ならぬ「天候早見盤」です。
題名は「客員気象予報士」といった意味でしょうか。一瞬、キワモノ商品かと思いましたが、初版が1942年に出た後、少なくとも20年近く版を重ねているので、結構まじめに作られ、まじめに受容された品のようです。監修者のレイモンド・セイガーは、1937年から「ニューヨーク・デイリーニューズ」紙で天気予報を担当していた人の由。

(裏表紙を飾るのは、アメリカの気象警報信号旗の一部)

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「早見盤」は4層構造の円盤から構成されています。


これを外側から順に合わせることで、天候が予測できるというので、早速占ってみたいと思います。アメリカと日本では、気象条件がずいぶん違う気はしますが、表紙に「北緯25度以上用」とあるので、その言葉を信用しましょう。材料とするのは、本日午前6時の名古屋の気象データです(日本気象協会のページを参照)

(1)まず一番大きな「風向ダイヤル(WIND DIAL)」から合わせます。


名古屋の風は西北西。ダイヤルは8方位表示なので、とりあえず「WEST」に合わせてみます。さらに副目盛りとして、「BACKING-STEADY-VEERING」というのがあって、「steady」は一定方向の風が続いている状態、「veering/backing」は、過去数時間で風向きが「時計回り/反時計回り」に変化した状態を指します。名古屋では過去6時間で北西から西北西に風向が変化したので、「BACKING」を選んでみます。

(2)次は「気圧ダイヤル(BAROMETER DIAL)」です。
数値はアメリカ式に「水銀柱インチ(inHg)」で表示されています。1水銀柱インチ=33.86ヘクトパスカル(hPa)に相当します。名古屋の気圧は1002.7hPa=29.61inHg なので、「29.5 TO 29.7」の目盛に合わせます。

(3)次は「気圧変化ダイヤル(BAROMETER CHANGE DIAL)」です。
6時間前と比べて気圧が上昇しているか下降しているか、それを下図を手がかりに、気圧の日内変動も考慮して判別し、目盛を合わせます。

(赤線が通常の気圧の日内変動)

昨日24時の名古屋の気圧は、1001.1hPa=29.57inHgだったので、「RISING SLOWLY」を選びます。

(4)最後は「現在の天気ダイヤル(PRESENT WEATHER DIAL)」です。
名古屋は良く晴れているので、「CLEAR」に合わせます。

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(再掲)

こうして4つのダイヤルを合わせると、▼マークのところに「T521」というコードが読み取れます。このコード番号を、巻末のコード表を使って「天候予測キー(Weather Prediction Key)」に変換します。(「早見盤」と言いながら、あんまり「早見」になってない気がしますが、何しろ本品は科学的正確さを売り物にしているので、そこは我慢です。)


最終的に得られた予測は「CF7」

●最初のアルファベットは晴雨予想で、「C」は「Fair and cooler(晴れて寒い)」を意味します(coolerやwarmerというのは平年との比較においてです)。
●次いで2番目のアルファベットは、今後12ないし24時間の間に予想される風速で、「F」は「Fresh(やや強い風)」の意味。風速でいうと時速19~24マイル、すなわち秒速8.6~11mで、日本の天気予報だと「静穏」から「やや強い風」に相当します。
●そして3番目の数字は、今後12時間の風向予測で、「7」は「West or Northwest winds(西または北西の風)」を意味します。

(天候予測キー解説一覧)

日本気象会による12時間後予測、すなわち午後6時の天候は、「晴れ、気温10度、西北西の風4m」です。また、この間の最高気温は13度、風向は「北西ないし西北西」、風速は「3mないし5m」となっています。風速を除けば、全体としてこれは結構当たってるかもしれませんね。

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自前の観測設備がない限り、これを使うには気象サイトを参照せざるを得ず、そこには天気予報も当然載っていますから、この早見盤の出番は結局ないことになります。でも、実際にこれをくるくる回してみると、天候を予測するには、現在の気圧や風向だけでなく、直近6時間の変化が重要なパラメーターであることも分かって、にわか気象予報士の気分を味わえます。

こんなオーラリーが欲しかった。2021年11月27日 10時29分04秒

博物館を飾る優美なオーラリーの数々。
例えば、ケンブリッジ大学のホイップル科学史博物館が所蔵する、18世紀半ばに作られたグランドオーラリー。


盤面とともにゆっくり回転する、真鍮製の惑星たちの表情がなんとも良いですし、


その全体を覆う透明なドームも素敵です。さながら宇宙をよそながらに眺める神様になった気分です。「こんなものが我が家にもあったら…」とは、誰しも思うところでしょう。

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イギリス貴族や大富豪ならずとも、その夢が実現する時がついに来ました。

(机の上にちょこんと乗る、ほど良いサイズ)


olenoides(オレノイデス)社の「Stellar Movements(ステラムーブメンツ)」がそれです。私はつい先日まで知らずにいましたが、さまざまな試作を経て、昨年から本格的に販売が始まったと伺いました。

olenoides 社公式サイト https://olenoides.com/

(オレノイデスとは三葉虫の仲間(属名)です)


この製品については、私が余計なことを言わなくても、同社の解説をご覧いただければ十分なのですが、取り急ぎあらましだけ書いておくと、オーラリーの表面(天板)では、水星から天王星までの7つの惑星と、地球のまわりを回る月が、それぞれの公転周期の比を忠実に再現して回転します。電源はUSBで、回転速度は無段階可変。


これだけでもすごいのですが、オーラリーの下部にはさらにギミックがあって、上部の月と連動して月相を表示する月球や、海王星やテンペル・タットル彗星の公転を示す盤が独立して備わり、後者は楕円軌道を描くコメタリウムを兼ねています。もはや何をかいわんやという感じです。


コメタリウム部拡大。青い円盤の最外周は木星軌道で、その内側に火星以内の各惑星の軌道が書かれています。そしてその上方の銀色のバーが彗星の動きを制御しており、肝心の彗星はというと…


バーの左端に2本の尾を曳いた彗星が見えます(矢印)。今、彗星は遠日点を回り込むところです。


その後、時間の経過とともに彗星は地球に接近し(バー自体が動くと同時に、彗星がバーの上をスライドします)、やがて近日点を過ぎ、地球の脇を越えて再び遠ざかっていきます。

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これだけの機能を備えて税込み48,400円、組立キットだと同じく36,300円というのは、はっきりいって超の付くお値打ち価格。こうなると「過度にリーズナブル」であり、もはやリーズナブルとは言えないのでは…とすら思います。
多くの制約の中で、それを実現されたエンジニアの嶋村亮宏氏には、賛嘆の念しかありません。

三葉虫を懐かしむ2021年11月28日 15時54分52秒

昨日のオレノイデス社のロゴを見ながら、三葉虫のことを思い出していました。


三葉虫はその形態の多様性から、世界中にコレクターが多いと聞きます。
私ももちろん気にはなりましたが、集め出すとキリがないのを悟って、いわゆる「沼」に陥ることはありませんでした。それでも当時――というのは15年か20年ぐらい前、ゼロ年代のことです――の品が入っている引き出しを開けると、その頃の記憶や、さらに遠い理科室の思い出がよみがえってきます。


初期の小さくて単純な形状から適応放散により多様な形態へと分化し、中には驚くほど巨大な種も出現した三葉虫の仲間たち。



古生代に栄えた三葉虫は、私の個人史を1000万倍ぐらい引き延ばしたタイムスケールの存在なので、「三葉虫の化石を見て懐かしむ」なんて、考えてみればおこがましい話かもしれません。三葉虫に言わせれば、「お前さんなんかが懐かしむのは、1億年早い」といったところでしょう。

それでも、やっぱり三葉虫は懐かしいです。
何しろ、私だって10億年の生命進化の歴史を母胎内で経験しているし、生まれ落ちてからだって、三葉虫の1個体にくらべれば、優にその1000万倍を超える記憶を有しているはずだから、懐かしむ資格はあるぞ…と、三葉虫に理解を求めたいところです。