戦火の工匠たち2022年03月10日 21時13分08秒

アストロラーベのことは、おいおい書きます。
その前に、ブセボロードさんから届いた便りを、まずご紹介しなければなりません。

ブセボロードさんは冒頭、日本政府がウクライナに防弾チョッキの供与を決定したことに感謝の意を表した上で、ご自分の身辺については、次のように書かれています。

 「今、キエフの町はあちこち掘り返されています。道路はコンクリートブロックと鉄の「ハリネズミ」で多くの場所が封鎖されています。車で街区を走るときは、まるで迷路を這い回るようです。私はバリケード建設のための土嚢運びで一日を過ごし、やっと背中を少し伸ばすことができました。その作業が明日まで繰り延べになったので、今度は(地元の図書館の地下にある)別のボランティア作業所に行き、迷彩ネットを編むのを手伝いました。その作業は、切った布から飛び散る細かい埃で咳き込むまで続きました。とはいえ、通信が遮断された村にとどまり、最前線で職務を果たしている人々にくらべれば、私はるかに良い状況にいます。

 私が最も心配しているのは、ヴィタリー〔註:アストロラーベを糸鋸で切り出していた、あの「宝石屋」の彼の名です〕が、ウクライナから逃げない道を選んだことです。クラクフでの連絡先〔註:ポーランドに住む、ブセボロードさんの親戚の家〕を彼に伝え、また彼にはそうする権利があったにもかかわらず(彼には3人の娘がいます)、彼はポルタバ地方にある故郷の村に戻ったのです。今、彼はそこで祖国防衛役にリクルートされ、持ち場で立哨警護にあたらなければなりません。彼の身にもし何かあれば、MaterTerebrusプロジェクトも終わるでしょう。それは私にとって、まさに最悪の事態です。」

(ウクライナ要図。ポルタバ周辺の赤線がポルタバ州境)

情勢はさらに緊迫の度を高めているようです。
これが本当に現実に起こっていることなのか、書きながら私自身、何だか映画の中にいるような気がするのですが、もちろんすべてこの世界で「今」起こっていることです。

ウクライナの国運や、この事件が世界に与える影響は、もちろんきわめて重大な問題でしょう。でも、1人の人間として考えると、こうしてひょんなことから縁が結ばれた人々の無事こそ一層気づかわしいし、あのMasterTereburus工房の運命が、心を離れません。

何はともあれ、彼らの無事を強く祈ります。
何といっても命あっての物種です。くれぐれも御身大切に。