キエフだより ― 2022年03月15日 06時14分00秒
現代を生きるアストロラーベ作者、ブセボロードさんのキエフだより。
私にはそれを伝える義務があるように感じるので、再度ここに紹介します。
以下は、「くれぐれも命を大切に。命さえあれば希望もあります」という私のメッセージへの返信です。
「国民を洗脳して狂信へと駆り立て、他国を自らの「勢力圏」と見なし、核兵器で世界を脅かす政治家がいる限り、世界のどこにいても安全とは言い難いでしょう。
私は自分にできる限りの手伝いを続けています。一日中ビーチ〔註:キエフは内陸なので湖畔が河原でしょう〕で過ごしましたが、残念ながら日光浴のためではありません。要塞用の土嚢を作っていたのです。一体いくつ作ったでしょう。少なくとも3桁の数字です。トラックでも全部は運べず、明日運ぶ分が、さらに何百も残っています。一日の終わりに、「砂の男爵」と称して、自分の写真をウェブに投稿しました〔註:土嚢の山に寄りかかるブセボロードさんの写真が添付されていました〕。50kgもある袋を担いだせいで背中が痛いです。
作業中、銃やライフルを打つ音が遠くに聞こえました。より経験豊富な仲間が、さまざまな兵器システムの轟音の違いを説明してくれたおかげで、今ではロケットの発射音と榴弾砲の音の違いも分かるようになりました。そんなこと、分かりたくはなかったのですが。
悲しく思うのは、私たちが2020年の初めにエネルギー効率に関する調査をした小児病院が、キエフ防衛軍の防衛境界外にあることです。犠牲者が出ないよう、全員が退避していることを心から望んでいます。でも仮に退避済みだとしても、そこがすぐに瓦礫の山になることは明らかです。」
私は自分にできる限りの手伝いを続けています。一日中ビーチ〔註:キエフは内陸なので湖畔が河原でしょう〕で過ごしましたが、残念ながら日光浴のためではありません。要塞用の土嚢を作っていたのです。一体いくつ作ったでしょう。少なくとも3桁の数字です。トラックでも全部は運べず、明日運ぶ分が、さらに何百も残っています。一日の終わりに、「砂の男爵」と称して、自分の写真をウェブに投稿しました〔註:土嚢の山に寄りかかるブセボロードさんの写真が添付されていました〕。50kgもある袋を担いだせいで背中が痛いです。
作業中、銃やライフルを打つ音が遠くに聞こえました。より経験豊富な仲間が、さまざまな兵器システムの轟音の違いを説明してくれたおかげで、今ではロケットの発射音と榴弾砲の音の違いも分かるようになりました。そんなこと、分かりたくはなかったのですが。
悲しく思うのは、私たちが2020年の初めにエネルギー効率に関する調査をした小児病院が、キエフ防衛軍の防衛境界外にあることです。犠牲者が出ないよう、全員が退避していることを心から望んでいます。でも仮に退避済みだとしても、そこがすぐに瓦礫の山になることは明らかです。」
私の中には当然、ブセボロードさんを応援したい気持ちと、危険を冒してほしくない気持ちの両方があります。家族や友人・知人のすべてが、たぶんそうでしょう。その2つの気持ちの間で、何とも言えない重苦しいものを感じています。いずれにしても、彼の無事を祈り続けるばかりです。
アストロラーベ再見(5) ― 2022年03月15日 19時48分35秒
アストロラーベと星座早見盤には、もう一つ大きな違いがあります。
それは日時の指定法の違いです。
星座早見盤を使う場面を思い浮かべてください。星座早見盤だと、星図盤の外周に日付目盛が、また地平盤の外周に時刻目盛があって、両者を組み合わせることで、任意の日付の任意の時刻の空を再現することができます。
(3月15日の20時に合わせたところ。2月28日の21時や、3月30日の19時に合わせても同じことです)
しかし、アストロラーベの場合、マーテルの外周部に時刻目盛(と方位目盛)はありますが、マーテルにもレーテにも、日付目盛に相当するものが見当たりません。
(①時刻目盛、②方位目盛)
では、アストロラーベには日付目盛がないのかといえば、ちゃんとあります。
それは、天球上を1年で1周する太陽の位置を日付目盛の代わりに使うというものです。
そのため、レーテには黄道が目立つ形で描かれており、そこに黄経が度盛りされています。こんなふうに、天球上での太陽の位置を重視する点が、アストロラーベの大きな特色で、それによって、アストロラーベは日時計の代わりにもなるし、星座早見盤以上にいろいろな天文現象をシミュレートすることができます。
任意の日付の太陽の位置を知るには、マーテルの裏面を使います。
裏面の周縁には、カレンダーと太陽の位置(黄経)が並んで書かれており、アリダードを使って、その日の太陽の位置を簡単に読み取ることができます。例えば3月15日の太陽は、黄経355°の位置にあります(上図)。
次いで、裏面で読み取った値を、表面の黄道目盛に当てはめれば、その日の天球上での太陽の位置が即座に分かります。
上の写真は3月15日、すなわち黄経355°の太陽が地平線上に来たところ。その地上座標から、日の出の方角も分かります(ほぼ-90°つまり真東です。本当に真東から日が上るのは3月21日の春分の日ですが、これぐらいは許容範囲でしょう)。
補助具であるルーラーを使えば、3月15日の日の出は、ちょうど6時頃と分かるし、そのままルーラーを黄経355°の位置に固定して、レーテと一緒にぐるぐる回してやれば、ルーラーの指す時刻に応じて、夜8時の星空だろうと、深夜0時の星空だろうと、お好みのままです。この辺の操作感は、星座早見盤とほとんど同じです。
また、これらの応用として、「日没とともにシリウスが東の地平線から上るのは何月何日か?」とか、「〇月〇日に太陽が40°の高さにあるとき、その時刻は?」という問いにも答えられます(後者は要するに日時計としての用法です。なお天体の高度を測るのにも、裏面のアリダードを使います)。
(アリダードの両端に付いた木片のV字形の切れ込みが、高度測定の視準孔になります。)
実際には、さらに均時差とか、不定時法とか、各種の薄明線とか、いろいろな小技や応用技があって、それらを極めると、いよいよアストロラーベ使いの達人になるわけですが、アストロラーベの基本的な用法は、以上に尽きると思います。
★
どうでしょう、ここまでくると、アストロラーベが「昔の人が使った何だか不思議な道具」ではなくて、明快な輪郭を備えたデバイスと感じられないでしょうか。
…でも、ロマンというのは神秘のベールに包まれてこそ輝くものですから、不思議な感じがなくなると、それはそれで淋しい気もします。
(この項おわり)
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