パリ天文台、華やぐ。2022年09月25日 18時42分56秒

時はおよそ200年下って、西暦1874年
ナポレオン3世が退場し、フランスは第3共和政の時代です。日本では明治7年、西郷隆盛が前年に下野し、佐賀では不平士族が反乱を起こすという世上騒然とした時代。

その頃、パリ天文台で紳士淑女を集めた、優雅な科学の催しがありました。

(版面サイズは31×21cm。周囲をトリミングしてありますが、ページサイズは38×27cmあります)

題して「Une Soirée à l'Observatoire(天文台の夕べ)」

掲載誌の「ル・モンド・イリュストレ」は、当時流行の絵入り雑誌のひとつで、関連記事が併載されているはずですが、版画の裏面は別記事なので、これがいったいどういう機会に行われたイベントかは不明です。

ただ、いずれにしても19世紀後半のフランスは、ジュール・ヴェルヌの時代であり、カミーユ・フラマリオンの時代であり、いわばポピュラー・サイエンスの黄金時代でしたから、こういう科学趣味の夜会が開かれ、そこに好奇心に富んだ紳士淑女が押しかけても、別段不思議ではありません。

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場所が天文台ですから、天球儀があったり、星図を前にしての講演があったりしたのは当然です。


でも、この晩の出し物はそればかりでなく、物理万般に及んでいたようです。
たとえば下はガイスラー管のデモンストレーションのようです。


ガイスラー菅は、低圧の希ガス――というのは古い表記で、今は「貴ガス」と書くのが正しいそうですが――を封入したガラス管の両端に電圧をかけ、放電発光させる実験装置。見た目が派手で美しいので、こういう折にはぴったりの演目です。


こちらは何でしょうか?
中央の2本のチューブをつないだ大きな実験装置は、かなり大掛かりですが、残念ながら正体不明です。左の装置は風力計っぽい姿ですが、室内に風力計を持ち込んでもしょうがないですね。向かって右手から、ライムライトの強烈な光で照射しているのが、何かの実験になっているんでしょうか? 

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…というわけで、いくぶん謎めいた感じはあるんですが、会場が賑やかなことは驚くばかりで、盛装した男女と実験装置の取り合わせに、科学趣味がファッショナブルであった時代の空気を感じます。