波乗り兎のこと2023年01月02日 11時02分24秒

ウサギと天文といえば「うさぎ座」という、そのものズバリのものがありますけれど、ここではちょっと方向を変えて、月のウサギにちなむ品を採り上げます。

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私の趣味嗜好として、月をかたどった品は昔から気になるもののひとつで、特に集めているわけでもないんですが、目についたものをポツポツ買っているうちに、少しずつ集まってきました。


そうしてやってきたひとつが、この月と兎のかんざしです。


全体は銀製。文字通り「銀の月」に赤珊瑚の兎が乗っています。


角度をちょっと変えると、兎の造形も達者だし、


正面から見ると、鼻先から口元にかけて珊瑚の白い部分が生かされていて、なかなか芸が細かいです。かんざしの細工が高度に発達したのは、江戸時代よりもむしろ明治の末~大正頃で、これもその頃のものだろうと売り手の方から聞きました。

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「波乗り兎」は和の文様としてポピュラーですが、この「月・兎・波」の3点セットは、謡曲「竹生島」の以下の詞章に由来します。


 「緑樹影沈んで 魚木に登る気色あり 
 月海上に浮かんでは 兎も波を奔るか」

琵琶湖に浮かぶ竹生島明神へ参詣の折、船からあたりを眺めると、島影と月が湖面に鮮やかに映り、あたかも魚が木に登り、月に棲む兎が波の上を走るようだ…という美辞です。

岩波の日本古典文学大系の『謡曲集』注解は、同時代の文芸作品にも似たような表現が複数見られることを指摘していますが、いずれにしてもこれは中国に典拠のない、純国産の表現のようです。そして近世以降、謡曲の知識が庶民層に普及する中で、それに基づくデザインの方も人気を博すようになったのでしょう。


このかんざしは、波の表現もダイナミックで、水上を奔る兎の勢いが感じられます。

(かんざしの裏面)

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こういう品を、あのジャパン・ルナ・ソサエティ(LINK)に持ち込んで、各人の評価を聞いてみたいなあ…と思います。