He will be back.2023年02月16日 20時44分44秒

昨日のハレー彗星の早見盤をゆずっていただいたとき、もう1つ興味深い品がオマケに付いてきました。


それは私の机の上では広げることもままならない大きな星図で(45×120cm)、科学雑誌「ニュートン」(1985年11月号)の付録についてきた、素性からして正真正銘のオマケです。

しかし、これは決して軽んずべき品ではありません。
ここにはハレー彗星の天球上の位置変化が詳細にプロットされており、その意味では昨日の早見盤も同じですが、大きく違うのは、そのタイムスパン。この星図には、実に1909年から2063年まで、つまり前々回(1910)と前回(1986)、そして次回(2061)の近日点通過を含む、彗星の2周期分の見かけの位置が、まるごと描かれているのです。


上の説明にあるように、その軌跡は、順行と留、逆行と留を繰り返す何重ものループで表現されます。

そして近日点付近では――ということは、地球から比較的近いときは――彗星の絶対的な速度が極大となり、しかも地球から近い分、その見かけの位置もめまぐるしく変化します。一方、太陽系の果て、遠日点付近を進むときは、彗星の歩みはのろのろと遅く、地球の公転による年周視差によって、いくぶん目につく変化が生じるだけとなります。

その振る舞いをまとめて図示すると、こんなダイナミックな曲線になるというわけです。

   ★

1986年に最接近したハレー彗星は、その後、長大な尾も消え失せ、徐々に暗く小さくなっていき、その姿が最後に目撃されたのは、ウィキペディア情報によれば、2003年の観測記録だそうです。その後、彗星の姿を見た人はいません。

しかし、これぞニュートン力学の精華。彗星の位置は厳密に計算されており、現在どこにいるかといえば、うみへび座の北西の角、こいぬ座・かに座との境界付近です。


そして、ハレー彗星が遠日点をゆっくりと回り込むのは、2023年11月。
そう、今年はハレー彗星が箱根芦ノ湖の折り返し点に到着し、復路のスタートを切る記念すべき年に当たるのでした。

これぞ「目に見えない天体ショー」です。それは望遠鏡を使っても見えませんが、海王星軌道のさらに先、宇宙の箱根付近に住む人たちは、今頃歓呼して彗星を迎えていることでしょう。


来年以降、彗星は徐々にその速度をはやめながら地球に近づいてきます。
そして東京大手町でテープを切るのは、2061年7月29日。地球の箱根駅伝と違ってこちらはエンドレスですから、彗星はその後も走るのをやめず、地球で応援している我々の目の前を通過するのは、翌日の7月30日です。

前回よりもずっと明るくなると予想されている、この「目に見える天体ショー」を、期待して待ちましょう。それは宇宙のタイムスケールでいえば、ほんの寸秒の先です。


【オマケのオマケ】
このオマケ星図の裏面には、過去のハレー彗星の軌道変化が、これまた詳細に図示されていました。


以下、解説文から引用します。

「ハレー彗星の軌道は、惑星の引力の影響を受けてたえず変化している。この現象を摂動という。また太陽に近づくと、彗星が物質を放出することによって非重力効果が生じる。その結果彗星の運動が変化し、軌道の形もかわる。〔…中略…〕1981年にアメリカのドナルド・ヨーマンスは紀元前1404年までさかのぼってハレー彗星の軌道要素を計算した。その計算にもとづき、ここでは紀元前1404年から2061年までのハレー彗星の軌道と、近日点通過の日(世界時)、ハレー彗星と地球の相対位置を示した。」

それにしても、ニュートン編集部の力の入れようがすごいですね。それはハレー彗星ブームの熱気の反映でもあるのでしょう。

コメント

_ S.U ― 2023年02月17日 10時19分43秒

これは、かなりマニアックであり、かつ、天文初心者をもワクワクさせる素晴らしい企画の品ですね。

_ 玉青 ― 2023年02月18日 11時42分30秒

これは力作ですよね。紙媒体というのが、またいい感じです。

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