人は問い、石は答える2023年05月25日 06時30分58秒

島津さゆり(時計荘)さんの作品展が、一昨日から始まっています。


■島津さゆり(時計荘)個展  「石はすべて答えのかたちをしている」
○会期 5月23日(火)~28日(日) 11:00-19:00(最終日17:00まで)
○会場 アートコンプレックスセンター
     東京都新宿区大京町12-9-2F
     (最寄駅はJR信濃町、または丸の内線「四谷三丁目」)
     会場公式サイト→ 
 
その巧緻で幻想的な作品については言うもさらなり、今回、私の心にひときわ強く響いたのは、その個展タイトルです。


「石はすべて答えのかたちをしている」

この謎めいたフレーズは、いろいろな連想を誘うし、いろいろな解釈が可能だと思いますが、素朴に捉えると、人は折に触れて石に問いをかけ、石は惜しみなくそれに答えてくれる…という意味ではなかろうかと思います。

人には人のドラマが、石には石のドラマがあり、さらに両者が交わるところには第3のドラマが生まれ、それは美しかったり、恐ろしかったり、平凡だったりするでしょうが、いずれも我々の人生になにがしかの意味を与え、それを豊かにしてくれるものでしょう。

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人間と石の関わりをぼんやり考えているうちに、シュティフター(Adalbert Stifter、1805-1868)の滋味ゆたかな短編集、『石さまざま』を思い出して、この機会に再読しています。


Day and Night2023年05月27日 09時13分27秒

しばらく前に、ちょっと変わったものを見つけました。

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上は1880年代頃の機械式幻灯(メカニカル・マジック・ランタン)です。


ひっくり返すとこんな感じ。


ハンドルを回すと、このラック・アンド・ピニオンによって、彩色した図柄がくるくる回る仕掛けです。


同種の製品には、いろいろな絵柄のものがありますが、この品は「地球の自転」及び「昼夜の変化」を説明するためのものです。

ガラス絵は2層になっており、昼と夜の絵は固定、歯車で回るのは地球の絵を描いたガラスだけです。ハンドルを回すと地球(北半球)がゆっくり回転して、各地域が順々に昼になり、夜になり、時刻が移り変わっていくのが分かるという、まあ単純といえば至極単純な内容ですが、その絵柄がいかにも美しいです。


メーカーはロンドンの「カーペンター&ウェストレー(Carpenter &Westley)」社
ただし、天文学をテーマにした機械式幻灯は、当時複数のメーカーから売り出されており、ほかにもNewton & Co、Watkins & Hill、Charles Baker…等々、さまざまなメーカー名をオークションでは目にします。でも、メーカー名を除くと、相互にほとんど区別がつかないので、たぶん製造元は1箇所で、各社はそれぞれ販売時に自社の名前を入れて売ってたんじゃないかなあ…と想像します。

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美しくも愛らしい1枚の天文幻灯。
でも、しばらく前に見つけた「ちょっと変わったもの」というのは、実はこれではありません。では何か?というのは、また次回。

(この項つづく)

夜と昼の幻を追って2023年05月28日 11時25分50秒

(昨日のつづき)

しばらく前に見つけた、「ちょっと変わったもの」とは、これです。


世の中には「絵の絵」もあるし、「写真の写真」もあるので、「幻灯の幻灯」があってもちっともおかしくはないですが、これまで類例を見たことがないので、一瞬虚を突かれました。「幻灯」といい、「マジックランタン」といい、要は「夢幻の映像」の謂なのでしょうが、夢幻の映像の向こうに、さらに夢幻があることの不思議さに、何だか頭がぼんやりとします。

このスライドが、いったい何のために作られたかは不明です。
あるいは天文学史の授業や、スライドの進化を説明する講義で使われたのかもしれません。いずれにしても、当時(このスライドは1940~50年代のイギリス製のようです)、木枠に収まったヴィクトリア時代の幻灯は、すでに遠い過去の存在であり、こうしてスライドで紹介するに足るものと見なされていたのは確かでしょう。

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被写体の細部に注目してみます。


この幻灯は、昨日登場したものと同じです。


まあ「同じ」といいながら、比べてみると絵柄の違いが目立ちますが、


木枠に貼られたラベルを見ると、両方とも、「〔MOVABLE〕 ASTRONOMICAL SLIDERS. NO.7」という同じタイトルを持ち、その下の解説も同文ですから、要は同じ製品の別バージョンなのでしょう。

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形あるスライドは真であり、そこに写った映像は幻なのだ…と頭では理解しても、こうして新旧ふたつのスライドを並べると、徐々に真と幻の境が曖昧となり、頭はますますぼんやりするばかりです。