銀河鉄道の道しるべ ― 2023年06月29日 06時09分25秒
昨日の黒い帽子の下には、この黒いビニール製のフォルダーが写っていました。
中身はこんな黒々とした星図です。
素材はプラスチックで、大きさは24.5×38.7cm。
表現されているのは、明るく目立つ星だけなので、何となくおもちゃめいた感じもします。
でも、それだけに星の並びが鮮明で、右下の北十字(はくちょう座)からさそり座を経由して左上の南十字に至る「銀河鉄道」のルートが一目瞭然です。
付属の透明グリッド板を重ねれば、星の方位や距離を読み取ることもできるし…
惑星の位置を書き込めるよう、レモンイエローの油性鉛筆(chinagraph pencil)まで付属していることを考えると、この星図はおもちゃどころか、相当渋い品です。
(星図裏面に書かれた惑星の記入要領)
★
改めてこの星図が何かといえば、英国空軍省(Air Ministry)が発行した天文航法用星図――すなわち、飛行機乗りが星を頼りに方位を見定めるためのツールです。
英国空軍省は、第一次世界大戦末期の1918年に創設され、1964年に海軍本部および戦争省とともに、現在の国防省に統合された…という主旨の記述がウィキペディアにあります。本体がプラスチック製ということを考えると、これは戦後の1950~60年頃に作られたもののようです。
賢治と軍隊というと。いかにも縁遠い気がしますが、これはずばり「空を飛ぶための星図」ですから、銀河鉄道の旅にはいっそふさわしいかもしれません。
コメント
_ S.U ― 2023年06月29日 08時16分50秒
_ ピノ助 ― 2023年07月01日 09時28分26秒
賢治さん没後90年で「読み直し」をしています。
「天気輪の柱」を検索していてこちらにたどり着きました。
これからも楽しみに拝読させていただきます。
「天気輪の柱」を検索していてこちらにたどり着きました。
これからも楽しみに拝読させていただきます。
_ 玉青 ― 2023年07月01日 12時27分34秒
○S.Uさま
この星図盤には、当然マニュアルのようなものが付属していたと思うんですが、手元のものにはありません。したがってお尋ねの件については情報ゼロです。
○ピノ助さま
コメントをありがとうございます。
ご覧の通り話題が絶えず浮動していますが、賢治のことは間欠的に常に話題になっていますので、今後も折に触れてお立ち寄りいただければ幸いです。
この星図盤には、当然マニュアルのようなものが付属していたと思うんですが、手元のものにはありません。したがってお尋ねの件については情報ゼロです。
○ピノ助さま
コメントをありがとうございます。
ご覧の通り話題が絶えず浮動していますが、賢治のことは間欠的に常に話題になっていますので、今後も折に触れてお立ち寄りいただければ幸いです。
_ S.U ― 2023年07月01日 14時35分02秒
ご回答ありがとうございます。
しつこくご確認のお願いですみません。星図本体には、”MIMOSA" "HADAR"の文字列はないのですね。
"ACRUX"はなんとなく読めます。"α Cen"は何と書いてあるかはわかりませんが、何か書かれていますでしょうか。
しつこくご確認のお願いですみません。星図本体には、”MIMOSA" "HADAR"の文字列はないのですね。
"ACRUX"はなんとなく読めます。"α Cen"は何と書いてあるかはわかりませんが、何か書かれていますでしょうか。
_ 玉青 ― 2023年07月02日 12時28分34秒
取り急ぎお尋ねの件について。Mimosaは42、Hadarは41という数字が振られていますが、固有名の記載はありません。「ACRUX」はおっしゃるとおりですね。また「α Cen」には「RIKENT」と書かれています(Rigil Kentaurus の略でしょうか)。
_ S.U ― 2023年07月02日 14時59分19秒
ありがとうございます。ここで、Rigil Kentaurus らしき名があるのは、貴重な情報かもしれません。
この命名の経緯については、日本語版ウィキペディアの
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9%E5%BA%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A1%E6%98%9F
の 名称>リギル・ケンタウルス に、西洋語版のアッ=スーフィーの星図や「ウルグ・ベグの星表」にこの星名があったが、20世紀まで一旦廃れた? という意味の興味深い記述を見つけました。
この命名の経緯については、日本語版ウィキペディアの
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9%E5%BA%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%82%A1%E6%98%9F
の 名称>リギル・ケンタウルス に、西洋語版のアッ=スーフィーの星図や「ウルグ・ベグの星表」にこの星名があったが、20世紀まで一旦廃れた? という意味の興味深い記述を見つけました。
_ S.U ― 2023年07月02日 15時14分21秒
上記訂正です。ウィキペディアをちゃんと読むと、かつて「リギル・ケンタウルス」の名が、西洋語のアルファベットで綴られて載っているのは、西洋語版「ウルグ・ベグの星表」のほうだけのようです。
ラテン語なら Centaurusとか Centauri っぽく思うのですが、アラビア語の音訳ということなんでしょうね。
ラテン語なら Centaurusとか Centauri っぽく思うのですが、アラビア語の音訳ということなんでしょうね。
_ 玉青 ― 2023年07月03日 06時00分24秒
S.Uさんが言及されたページには、「リギル・ケンタウルス〔…〕は〔…〕リギル・ケント〔…〕と呼ばれることもあった。これは、20世紀の中頃、航海暦において再命名されたもの」云々の記述がありますが、この航空用星図なんかは、まさにその直接的影響下で作られたものかもしれませんね。
…とすると、ミモザの件も含めて「20世紀中頃の航海暦」というのが、実はいろいろな星名由来、特に南天の星名由来において、重要なバイプレイヤーを演じているのかも。。。当該航海暦の成立事情と併せて気になるところです。
…とすると、ミモザの件も含めて「20世紀中頃の航海暦」というのが、実はいろいろな星名由来、特に南天の星名由来において、重要なバイプレイヤーを演じているのかも。。。当該航海暦の成立事情と併せて気になるところです。
_ S.U ― 2023年07月03日 06時07分18秒
「ウルグ・ベグの星表」(下はラテン語訳1665年版)の星表138~145ページ(ケンタウルス座)に、
https://archive.org/details/bub_gb_k9tJAAAAcAAJ/page/n175/mode/2up
上記4星はすべて含まれている模様(つまり、このケンタウルス座はみなみじゅうじ座を含んでいる模様)ですが、固有名らしきものが与えられているのは、リギル・ケンタウルスだけです。
https://archive.org/details/bub_gb_k9tJAAAAcAAJ/page/n175/mode/2up
上記4星はすべて含まれている模様(つまり、このケンタウルス座はみなみじゅうじ座を含んでいる模様)ですが、固有名らしきものが与えられているのは、リギル・ケンタウルスだけです。
_ S.U ― 2023年07月03日 06時21分21秒
コメントが行き違いになりましたが、いずれ整理したいと思います。
野尻抱影にも山本一清にもアレンにも現れない1等星4星の固有名の起源は、
おおもとは、
リギル・ケンタウルス -- 「ウルグ・ベグの星表」
ハダール -- 未詳
アクルックス -- バイエル名からの転化(結構古い?)
ミモザ -- 20世紀に英国(海軍?海運業?)で、同名の同国の歴史上の船名から命名?
と考えますが、いずれも普及したのは、20世紀後半で、普及の最初のきっかけになったのは、1950年代頃の国海軍と空軍の手引き書(英国航海暦も?--未確認)だった可能性が高い
と、現時点では、しておきたいと思います。また、よろしくお願いします。
野尻抱影にも山本一清にもアレンにも現れない1等星4星の固有名の起源は、
おおもとは、
リギル・ケンタウルス -- 「ウルグ・ベグの星表」
ハダール -- 未詳
アクルックス -- バイエル名からの転化(結構古い?)
ミモザ -- 20世紀に英国(海軍?海運業?)で、同名の同国の歴史上の船名から命名?
と考えますが、いずれも普及したのは、20世紀後半で、普及の最初のきっかけになったのは、1950年代頃の国海軍と空軍の手引き書(英国航海暦も?--未確認)だった可能性が高い
と、現時点では、しておきたいと思います。また、よろしくお願いします。
_ S.U ― 2023年07月03日 08時54分56秒
たびたびすみません。
アレンの1899年版の”Star-names and Their Meanings”に Mimosa以外の3星名は出ているようですので、訂正しておきます。所有されていましたら、ご確認お願いします。
だとすると、20世紀中葉に出た山本一清『天体と宇宙』、野尻抱影『天体と宇宙』に4星とも固有名が出ておらず、その後も日本では1980年頃まで普及しなかったのが謎です。
アレンの1899年版の”Star-names and Their Meanings”に Mimosa以外の3星名は出ているようですので、訂正しておきます。所有されていましたら、ご確認お願いします。
だとすると、20世紀中葉に出た山本一清『天体と宇宙』、野尻抱影『天体と宇宙』に4星とも固有名が出ておらず、その後も日本では1980年頃まで普及しなかったのが謎です。
_ 玉青 ― 2023年07月04日 19時32分34秒
現状報告ありがとうございます。謎は謎なりに、だいぶ視界がクリアになりましたね。
_ S.U ― 2023年07月05日 07時01分51秒
別の方向から考えると、この謎は、今やIAUが公認した星名の根拠に関わるものですから、IAUに「説明責任」があると言えるかもしれません。ぜひ、1等星と2等星だけでも、起源の研究レポートを出してほしいものです。
https://www.iau.org/static/science/scientific_bodies/working_groups/280/WGSN_bulletin1.pdf
実際には、現代人による公募と合議で決めたらしいので、個別に、起源に根拠を求めることは難しいのかもしれませんが、後世の人々に残すためにはあってよい努力と責任だと思います。
https://www.iau.org/static/science/scientific_bodies/working_groups/280/WGSN_bulletin1.pdf
実際には、現代人による公募と合議で決めたらしいので、個別に、起源に根拠を求めることは難しいのかもしれませんが、後世の人々に残すためにはあってよい努力と責任だと思います。
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抱影の星座解説本に、抱影の知り合いの飛行機乗りが機上でみた星の印象について、夜、突然に抱影に報告に来た話がありますが、賢治の『銀河鉄道』はもちろん、足穂にも何か関連するネタがあってもよさそうですね。
めぼしい恒星に赤い丸があって、固有名と番号が書かれているようですが、これは星表めいたものがついているのでしょうか。1950~60年代の英国軍ということで、例の星名「ミモザ」(β Cru)の命名、普及関連で気になりました。それから、「ハダール」(β Cen)についてもお願いします。 (一応、1950年代の海軍本部の「航海手引」を暫定的に初出とみたことになっています)