龍を思う ― 2024年01月28日 08時02分54秒
(龍紋の入った古写経)
中国古代の龍の本を読んでいました(こちらのコメントで言及した本です)。
込み入った話に頭を悩ませつつ、最終的に分かったことは「龍については分からないことだらけだ」という事実です。西方のドラゴンやインドのナーガと切り離して(切り離せるかどうかは分かりませんが)、中国の龍だけに目を向けても、その正体は謎が多いです。
龍は先史時代の遺物にも登場するので、人間との付き合いはおそろしく長いです。その資料(画像や文献)が増えてくるのは、ようやく紀元前2000年以降で、よりはっきりするのは紀元前500年以降のことですから(おおむね殷代・周代にあたります)、今の我々からすれば、それでも十分に古い時代のことですけれど、龍の出現自体は、そこからさらに2000年も3000年もさかのぼるわけで、その間のことはすべて想像で埋めるほかありません。
…というと、学者に与えられた仕事は、今では失われた龍の古伝承を、比較神話学やら何やらを援用して、何とか再構成することと感じられるかもしれませんが、そもそもそんな体系立った古伝承があったのかどうか? 思うに昔の人にとっても龍はあいまいで多義的な存在だったんじゃないでしょうか。そのルーツ・姿形・基本的性格を探るべく、仮にタイムマシンで先史時代に飛んで昔の人にインタビューしても、たぶん人によって言うことは違うんじゃないかという気がします。
太古の豊饒な「龍観念」は歴史の中で滅失し、今はその上澄みだけが辛うじて残っている…というわけでは決してなく、むしろ龍という存在は時代とともに洗練され、その神話体系も整えられて現在に至っている…と考えた方が自然です。
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しかし、そんな中でも龍は水界と天界をその住まいとし、その間を飛行して往還する存在であり、神霊の気を帯びた異獣である…という点は動きません。(龍は水性であるのに対し、ドラゴンは火性であるというのが、両者の最大の違いかもしれませんね。)
その背後には、農耕と天体の結びつきに関する知識があって、古代エジプトではシリウスがナイル河氾濫の目安となったように、古代中国ではさそり座のアンタレスが農事の目安であり、西方の人がサソリと見たその曲がりくねった星の配置に龍の姿を重ねた…というのは、これも結局推測に過ぎないとはいえ、非常に説得力のある説だと感じます。
そんなわけで、四方神のうち青龍は、今のさそり座に当たる「房宿」「心宿」「尾宿」を中心とする東方七宿を統べて、春を支配する存在となったわけです。
(…と青龍を登場させたところで、龍の話題をもう少し続けます)
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