星のかさね色目(後編)2024年04月09日 05時37分41秒

夜空を彩る星のかさね色目の続きです。


キャプションには、「7 Étoile double du Navire(船の二重星)」とあって、「?」と思いますが、「Navire」とは、今は廃された「Navire Argo(アルゴ船座)」のこと。現在のりゅうこつ座、とも座、ほ座の3つの星座を合わせた巨大な星座です。その二重星といえば、まず「りゅうこつ座イプシロン星」に指を屈さねばなりませんが、正しい答は未詳。


色目としては「紅菊(くれないぎく)」が好いですね。


ギユマンの図とはだいぶ違いますが、現実の「りゅうこつ座イプシロン星」はこんな配色です。


「8 エリダヌス座32番星」
図版の印刷がかすれているのか、このままでいいのか、判然としない図ですが、


色目を当てるなら「柳」でしょうか。


「9 カシオペヤ座シグマ星」


すっきりとした寒色の取り合わせなので、「夏萩」を選んでみました。


「10 はくちょう座ベータ星」。言わずと知れたアルビレオです。


あまりしっくりきませんが、とりあえず「移菊(うつろいぎく)」を当てておきます。
主星と伴星の関係を考えると、これは表地と裏地を入れ替えた方がいいのですが、残念ながら、そういう色目が見つかりませんでした。


天上の宝石にたとえられるアルビレオ。今だと「ウクライナカラー」が真っ先に連想されるかもしれません。


「11 しし座ガンマ星」、固有名はアルギエバ。なんだか妙ちきりんな図ですが、これはいったいどういう状態を表現してるんですかね?


望遠鏡で覗くとこんな感じで、何も妙なことはないんですが…。


この奇妙な図とぴったり同じものはありませんが、このトリコロールに注目して「比金襖(ひごんあお)」を挙げておきます。これは表地と裏地に中倍(なかべ)を加えた3色のかさね色目です。

袷(あわせ)を仕立てるとき、裏地を表地よりちょっと大きくして、表地のふちを覆うように折り返して縫い合わせると、裏地が表地のへり(袖口や裾)を彩ることになりますが、中倍とは、表地と裏地の間に、さらにもう1色加えた布地のことをいいます。


「12 ヘルクレス座アルファ星」


とりあえず「青朽葉(あおくちば)」とします。緑にもう少し青みがあるとなお良かった。


とはいえ、写真でも伴星の青はそれほど感じません。


最後は「13 ペルセウス座イータ星」です。


赤と青で「薔薇(そうび)」

   ★

こうして星のかさね色目は、「桜」で始まり「薔薇」で終わりました。

改めて見返すと、かさね色目の名称はすべて植物にちなむものばかりです。
衣服の染料や、繊維そのものが植物由来だから…ということもあるかもしれませんが、日本にだって鉱物顔料の伝統はあるし、美しい色合いを表現するのに、瑠璃やら辰砂やら碧玉やらを登場させない法はないと思うんですが、まあこの辺が日本らしい感覚なのでしょう。

天上には豊かな山野があり、あまたの花が咲き誇るかと思えば、若葉が芽吹き、濃い樹陰をつくり、やがて紅葉して朽葉となり、静かな冬木立の季節を迎える…。星を眺めながらそんな想像をするのも、王朝人にインスパイアされた風雅な天文趣味のありようだという気がします。

コメント

_ S.U ― 2024年04月09日 07時47分44秒

これは優雅でよろしいですね。
平安時代に安倍晴明が望遠鏡を発明して二重星を見ていたら、宮中の女官たちに「ふたへ星の色合はせ」などという優雅な遊びが起こったかもしれません。

 鮮やかな紺青は日本には昔はなかったのですね。江戸時代に「ベロ藍」ということで登場したと理解しています。へび座デルタ星は、いちど望遠鏡で見てみたいです。アルマクは、経験では、本当にこのような黄色と緑に見えました。伴星はスペクトルでは白色に違いないと思いますが、白色に何らかの光のにじみが入ると緑に感じるのだと思います。りゅうこつ座のイプシロンは、フランスはおろか日本でも見られません。アルギエバは、かつてご紹介された星座カードに「黄緑」ということで載っていたと思います。印刷で表現できない微妙な色なんでしょうか。

_ 玉青 ― 2024年04月11日 05時50分48秒

「星はすばる。彦星。夕づつ。よばひ星、すこしをかし」と、眼視でもなかなかの見巧者ぶりを発揮した清少納言。もし平安時代に望遠鏡があったら、彼女は必ずやプレアデスの美観や、視界一面の銀河、それに金星の満ち欠けなんかを観測して、美しい天文随筆をものしたでしょうね。

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