彗星ゲームをめぐる旅 ― 2024年07月14日 10時46分22秒
このブログも長くなったので、最近は何を書いても二番煎じのような気がします。限られた世界で右往左往しているので、やむを得ない面もありますが、それでも単なる二番煎じではなく、少しずつ前に進もうという殊勝な思いもあります。
実際ちょっとは前進しているぞ…と最近思ったことがあります。
10年前のことですが、自分は下のような記事を書きました。
■ちょっと気取った彗星ゲーム
イギリスのゲームメーカーが1996年に発売した「ロイヤル・コメット」というボードゲームを紹介したものです。
そしてゲームの内容もさることながら、そのデザインが天文古玩的になかなか典雅で好いね…ということを書きました。
それから5年が経ち、今から5年前、その続報を書きました。
「ロイヤル・コメット」のパッケージデザインの元絵を見つけたという内容です。
■古画発見
元絵は1766-1775年ごろロンドンで出版された、ずばり「Astronomy」というタイトルの版画で、オックスフォード科学史博物館に収蔵されている一枚が、現在オンラインで公開されていることを紹介しつつ、あの典雅な絵の出所が分かって、まずは良かったと胸をなでおろしたのでした。
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それからさらに5年が経った今年、問題の版画が売りに出ているのを見つけました。しかも非常にリーズナブルな価格で。もちろん、これを買わない手はありません。
(ガラスの反射がきついので、不自然な構図になっています)
手彩色なので、色合いには個体差がありますが、まぎれもなくあの「Astronomy」の現物です。18世紀のロマンチックな、そしておそらくは理想化された天文学の営みが、こうしてわが家にやって来たのです。
なんとなく落ち着くべきところに落ち着いたと言いますか、「ロイヤル・コメット」に始まった旅は、10年かけて今ようやく目的地に着いた感があります。やっぱり長く続ければ、続けただけのことはあります。
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でも、10年前に記事で紹介した「ロイヤル・コメット」の版元解説↓に出てくる、18世紀のオリジナルのゲーム盤とはどんなものか、その現物はどこで見られるのか、はたまたそれを入手するなどということは可能なのか…と、まだまだ旅は続きそうな気配もあります。
「1682年のハレー彗星出現後、イギリスの上流階級の間で天文学への関心が高まり、それは宮廷での娯楽の在り方にも広範な影響を及ぼしました。「ロイヤル・コメット The Royal Game of Comette」の名で知られるカードゲームが、英国の宮廷に紹介されたのも、こうした天文ブームの一例です。
1684年までには、ロイヤル・コメットは「ご婦人方も含め…宮廷における最も熱い流行」となっており、ずっと後の1748年になっても依然として愛好されていました(この年に、ゲーム盤を用いる、より複雑な遊び方が流行りだしました)。」
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お茶の二番煎じはあまり感心しませんが、世の中には徐々に味わいの濃くなる「蔗境(しゃきょう)」という言葉もあります(サトウキビをかじるとき、あえて甘みの薄い先端部からかじり始める理由を問われ、「漸入佳境」と答えた六朝時代の画家・顧愷之(こがいし)の逸話に由来)。
「天文古玩」もこんなふうに蔗境を楽しみつつ、「まだ見ぬ目的地」に向けて、終わりなき旅を続けたいと念じています。
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【補遺】
ちなみに、ゲーム盤が生まれる以前の「ロイヤル・コメット」は、こちらのページで解説されている、単に「Comet」と呼ばれるトランプゲームと同じものだと思います。
17世紀のフランスで考案された遊びで、手札をルールに従い数字の小さい順に場に捨てていき、最初に手札をなくした人が勝ち…というのは、20世紀の「ロイヤル・コメット」ゲームと共通です。「Comet」の名は、場に捨てられた自分のカード列がだんだん伸びていく様を、彗星の尾に見立てたのが由来だとか。
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