『日本産有尾類総説』を読む(1) ― 2024年07月23日 17時46分20秒
学校が夏休みに入りました。今や長期の夏休みとは無縁ですが、それでもこの時期は電車も空いているし、通勤の道々、蝉時雨を聞きながら歩いていると、やっぱり夏休み気分を感じます。
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季節柄、水に関係のある話題です。
以前、戦時下の日本の出版事情を調べていて、平成17年に国会図書館で行われた「第135回 常設展示<戦時下の出版>」の解説パンフレットを目にしました。
そこに書かれた往時の出版事情は、もちろんそれ自体興味深かったですが、そこに挙がっている書物の中で『日本産有尾類総説』というのが、ぱっと目に飛び込んできました(「有尾類」とは両生類の下位区分で、イモリやサンショウウオの仲間をいいます。もう一群がカエルの仲間である「無尾類」)。
「15. 『日本産有尾類総説』
佐藤井岐雄著 日本出版社 昭和18年3月 <487.8-Sa85ウ>
日本出版会第 1 回表彰図書(昭和 19 年 4 月発表)。美しい彩色の図版が豊富に入った本書は、戦況厳しい折の出版とは思われないほどであるが、序文には、当初欧文で出版の予定であったところ、時局をはばかり邦文での上梓となった経緯が記されている。」 (上掲資料p.8)
佐藤井岐雄著 日本出版社 昭和18年3月 <487.8-Sa85ウ>
日本出版会第 1 回表彰図書(昭和 19 年 4 月発表)。美しい彩色の図版が豊富に入った本書は、戦況厳しい折の出版とは思われないほどであるが、序文には、当初欧文で出版の予定であったところ、時局をはばかり邦文での上梓となった経緯が記されている。」 (上掲資料p.8)
文中の「日本出版会」とは、昭和 18 年に設立された特殊法人で、要は出版統制のための国策団体です。出版企画の事前審査や印刷用紙の割当査定を行い、その背後では内閣情報局が目を光らせていました。…というと、非常にまがまがしい印象を受けますが、同会の推薦図書は、「必ずしも軍や政府の御用向の図書のみが候補にのぼるということはなかった」ともパンフレットには書かれているので、まあ一定の許容度はあったのでしょう。
とはいえ暗く重苦しい時代であったことは間違いなく、そんな時代に有尾類についての充実したモノグラフが出版され、国もそれを是としたということ、そしてその本が「美しい彩色の図版が豊富に入った」、「戦況厳しい折の出版とは思われないほど」のものであったというのですから、これは強い興味をそそられます。さらに「時局をはばかり邦文での上梓となった経緯」とは、どんなものであったのか…?
さっそく調べてみると、この本は昭和18年(1943)に出たオリジナルと、昭和52年(1977)に第一書房から出た復刻版があって、いずれも古書市場に流通していることが分かりました。ただ、オリジナルはもちろん、復刻版もずいぶん高価な本で、普通だったらあきらめるところですが、運良く手の届く範囲に1冊の出物を見つけました。しかもオリジナルです。こうなると辛抱することは難しく、また辛抱する理由もないので、早速注文することにしました。
(古書店がパラフィン紙のカバーをかけてくれました)
(B5判、本文520頁+カラー図版31葉+索引7頁の堂々たる本です)
(次回その中身を見にいきます。この項つづく)
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