一枚の紙片の向こうに見える風景2024年12月05日 18時17分22秒

韓国の大乱。
過ぎてみればコップの中の嵐の感もありますが、人の世の不確実性を印象付ける出来事でした。我々は今まさに歴史の中を生きているのだと、ここでも感じました。

師走に入り、業務もなかなか繁忙で、これで当人が「多々益々弁ず」ならいいのですが、あっぷあっぷっと流されていくばかりで、どうにもなりません。世界も動くし、個人ももがきつつ、2024年もゴールを迎えようとしています。

   ★

さて、そんな合間に少なからず感動的な動画を見ました。
今から4年前、2020年6月にアップされたものです。


■I bought a medieval manuscript leaf | (It got emotional...)

動画の投稿主は、ブリジット・バーバラさんというアメリカ人女性。
彼女は古い品や珍奇な品に惹かれており、動画の冒頭はニューヨーク国際古書市(New York International Antiquarian Book Fair)の探訪記、後半はそこで彼女が購入した品を紹介する内容になっています。

(主催者である米国古書籍商組合のブログより)

バーバラさんは古書市の会場で、マルチン・ルターやアブラハム・リンカーンのような偉人の手紙や、1793年に書かれた無名の子供の学習帳のような、「肉筆もの」に強い興味を持ちました。そう、100年も200年も、あるいはもっと昔の人がペンを走らせた紙片や紙束の類です。

(話の本筋とは関係ありませんが、バーバラさんの動画に写り込んでいた17世紀の美しい星図、Ignace-Gaston Pardies(著)、『Globi coelestis in tabulas planas redacti descriptio』。バーバラさん曰く“If you can afford it, you can own it”.)

この動画が感動的なのは、バーバラさんがそれらの品を紹介するときの表情、声、仕草が実に生き生きとしていて、見る者にも自ずと共感する心が湧いてくるからです。

そして彼女が古書市で購入したのも、そうした肉筆物した。


時代はぐっとさかのぼって、1470年頃にイタリアで羊皮紙に書写された聖歌の楽譜、いわゆるネウマ譜です。バーバラさんは素直に「いいですか、1470年ですよ?1470年に書かれたものが、今私の手の中にあるんです!」と感動を隠せません。

もちろん事情通なら、15世紀のネウマ譜の写本零葉は、市場において格別珍しいものではないし、値段もそんなに張らないものであることをご存知でしょう。でも、「ありふれているから価値がない」というわけでは全くないのです。

バーバラさんが言うように、それは確かに昔の人(無名であれ有名であれ)が、まさに手を触れ、ペンを走らせたものであり、それを手にすることは、直接昔の人とコンタクトすることに他ならない…という気がするのです。

そして、そこからいかに多くの情報を汲み出せるかは、それを手にした人の熱意と愛情次第です。バーバラさんは、この写本に書かれた聖歌が何なのか、ラテン語のできる友人に読んでもらい、これが四旬節の第 2 日曜日の早課で歌われた聖歌であることを突き止めます。さらに、そのメロディーはどんなものか、同時代の宗教曲に耳を傾けながら、さらなる情報提供を呼び掛けています。たった1枚の紙片も、その声に耳を澄ませる人にとっては、実に饒舌で、心豊かな会話を楽しませてくれます。

   ★

バーバラさんの感動や興味関心の在り様は、私自身のそれと非常に近いものです。私もこれまで断片的な資料から、いろいろ空想と考証を楽しんできました。以前も書いたように、それは旅の楽しみに近いものです。

人生という旅の中で、さらに寄り道の旅を楽しむひととき。
忙しいからこそ、そんなひとときを大切にしたいと思いました。

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