パサチョフ博士の夏休み2025年07月26日 09時46分45秒

ジェイ・パサチョフ(Jay Myron Pasachoff 、1943 –2022)という人がいます。

主に太陽と惑星大気の研究で知られた天文学者です。ハーバードで学んだ後、マサチューセッツのウィリアムズ・カレッジに籍を置きながら、サバティカルを利用して各地の大学や天文台で研究生活を送り、また天文教育にも情熱的で、多くの教科書を著した…というのは主にWikipediaの同氏の項目の受け売りですが、そこには彼がルネッサンス期以降の絵画における日食描写の分析といった、いわば「天文美術史」的研究にも手を染めていたことが書かれており、その関心の幅広さを知ることができます。

そのパサチョフ博士の書斎に置かれていたであろう、かわいい品を見つけました。

(台座の長辺は約18cm)

望遠鏡を操作する女性をかたどったオブジェで、その銘板に博士の名前があります。


アメリカで1959年以来続いている「サマー・サイエンス・プログラム(SSP)」という教育プログラムがありますが、その2004年の開講時に、博士がゲスト講師として招かれた際、記念品として博士に贈られたものです。


SSPは、アメリカ内外から集まった優秀な高校生が、5週間の共同生活を送りながら、第一線の研究者をはじめ、大学院生や学部生のサポートを受けつつ、専門的な研究を体験するプログラムです。研究や講義の合間には、各種のレクリエーションも用意されており、ここで共に学んだ仲間とは一生の友情がはぐくまれる…と聞くと、自分もそんな体験がしてみたかったなあと、羨ましい気がします。(プログラムについていく能力があれば、の話ですが。)

   ★

ときに、この小像のテーマになっている望遠鏡は何だ?ということですが、これはWikipediaの「Summer Science Program」の項に掲載されているのと同じものです。


昔はこの画像がSSPのシンボルであり、ロゴでもあったようですが、現在のSSP Internationalの公式サイトからは消えています。

たぶん…ですが、最近になってプログラムの内容が天文学にとどまらず、生物学や化学分野にまで広がったこと、そして開催地も南カリフォルニアのハイスクールを間借りする形から、全米各地の大学キャンパスを使った大規模なものに変わったことから、SSPのシンボルとして、最早そぐわなくなったからだろうと想像します。

以前のSSPの様子が、「Sky & Telescope」の2001年3月号にリポートされており、この望遠鏡も写真に写り込んでいます。それによれば、この望遠鏡は最初カリフォルニア州オーハイのサッチャー・スクールに置かれ、その後近くのベサントヒル・スクール(旧称ハッピーバレー ・スクール)に移設された、口径7インチのツァイス製アストログラフ(=写真撮影専用望遠鏡)で、ガイド用の屈折望遠鏡を同架しています。SSPの参加者はこれで小惑星を撮影し、位置測定と軌道計算をするのが定番だったようです。



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アメリカも最近は貧乏くさい話が増えてきましたが、こういう物心伴う豊かさは、多様性を当然のものとして受け入れる度量の広さとともに、失ってほしくないものです。
(ちなみに、望遠鏡の操作者が女子学生として造形されているのは、1969年以来女性に門戸を開放してきたSSPの矜持でもあり、開明さの表明でもあるのでしょう。)

コメント

_ S.U ― 2025年07月26日 12時45分09秒

アメリカでは、「高校生向け」の科学実習プログラム(合宿)が1959年からあったのですね。日本では、私たちが子どもの時にそういうものはなかったように思います。
 私の知る限り、国立機関ではそういうのは、2000年ごろまでなかったと思います。そのころにドッと始まったように思います。東京の博物館や私学ではあったかもしれませんが、それも記憶にありません。

_ 玉青 ― 2025年07月27日 07時56分05秒

全然不案内なのですが、日本でも最近はこういう体験プログラムがあちこちで行われているのでしょうか。でも5週間の合宿とかは、さすがに日本では無理な気もしますが、意外にそうでもないでしょうか?
もし、「還暦からの学び直しプログラム」とかあれば、参加してみたい気もしますが、日本の現状を鑑みると、何となくその辺に商機が潜んでいるかも…(^J^)

_ S.U ― 2025年07月27日 11時13分17秒

私もよく知りませんが、日本では、対象を高校生に限ると、4日程度のようです。大学生や大学院生向けならもっと長いのがあるでしょうが、それは別物とみるべきでしょう。受験を控えた高校生の負担を考えると、このへんが限度ではないでしょうか。下は、天文と素粒子実験の例です。

https://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/OUTREACH/GS/index.html
https://www.kek.jp/ja/event/20250805b-camp

離島での自然観察系はもう少し長いのがあるかもしれません。
こういうのは、若者の進路誘導になっているようで、学び直しの合宿というのは聞きません。教員(免許)研修というのはありますが、これは専門職用ですし。

_ 玉青 ― 2025年07月28日 06時06分06秒

ありがとうございます。なるほど、こういう感じで開催されているんですね(KEKの催しでは、S.Uさんも忙しい夏を過されているのではありませんか?)。
たとえ5週間といわず数日間でも、こういう体験をすることは、若く柔らかい心にとって得難い機会ですよね。理系に限らず、いろいろな分野でこうした催しはあってよいし、ぜひ多くの人に参加してほしいと思います。そしてまた参加費無料あるいはごく低廉な価格で運営されているのは、主催者側の度量といいますか、そうした活動の公益性を認められてのことだと思いますが、多くの若者に参加機会を保障するためにも、この点をぜひ堅持していただくことを期待します。

_ S.U ― 2025年07月28日 08時52分35秒

ありがとうございます。
先ほどの「学び直し」(中高年向け)の件ですが、大都市圏ではなく、遠隔地の自然観察系なら、旅行会社とタイアップとかであるかもしれません。一般向けは、「生涯学習」に相当しますが、補助が限られるので有料でしょうが、温泉やクルーズ旅行などよりは安いでしょう。(具体的には調べていませんが、おっしゃるように将来性は有望と存じます)

私は、もう限定職務なので、そういう将来にある人向けの仕事に関わっていません。中高年向けの仕事があれば考えないでもありませんが、中高年の方も自分と同世代の人が講師では面白くなく集客上問題かもしれません(笑)。とにかく、講師や自然ガイドの確保がネックになるでしょうね。

_ 玉青 ― 2025年08月01日 17時50分59秒

>中高年の方も自分と同世代の人が講師では面白くなく

いやあ、やはり老練な方の含蓄のあるお話のほうが(私だったら)伺ってみたいですね。ましてやS.Uさんが講師をされる折あらば、真っ先にはせ参じたく存じます。

_ S.U ― 2025年08月02日 07時36分28秒

これはどうも赤面の至りでありますが、そういう機会はもうあまりないようです。せめてその能力が極端に低下しないように努めたいと思います。

_ 玉青 ― 2025年08月03日 16時42分03秒

うーむ、残念。でもS.Uさんのご講義は、引き続き「銀河鉄道」で拝読できるものと期待しております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

_ S.U ― 2025年08月04日 05時59分37秒

引き続きのご支援よろしくお願いします。ネタ切れの心配がありますが、「天文古玩」さんからのインスピレーションがある限りは大丈夫か?

できれば、口頭も能力的には残したいです。だんだん頭の回転が遅くなるので、高齢者調になっていくでしょうなあ。

_ 玉青 ― 2025年08月04日 08時00分39秒

>頭の回転が遅くなる

S.U大人におかれては当分心配ご無用かと思いますが、でも仮にそうだとしても、話し手と聞き手が双方同じ割合で減速するなら、両者まったく違和感のない講義になるはずで、中高年の中高年による中高年のための教室は、いよいよ現実味を帯びてくるかもしれませんね。

私の方の駄弁は、まだまだ続きそうです。

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