蚤(ピュス)ゲーム 再考2016年10月19日 07時05分59秒

唐突ですが、懐古&回顧モードで、長野まゆみさんのことに話題を横滑りさせます。

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以前、長野氏の『天体議会』を取り上げ、作中に出てくるモノを考察するという、我ながら閑雅な試みをしましたが、そこに「蚤(ピュス)ゲーム」というのが登場しました。

天体議会の世界…蚤〔ピュス〕ゲーム(1)(2)
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/08/20/6952680
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/08/22/6954016

記事で取り上げたのは、フランス製のピュスゲームで、チップをはじいてボード上の「上がり」を目指す遊びでしたが、その遊び方とゲーム史をめぐって、コメント欄では長大なやりとりがあったのでした。

ただし、ピュスゲームには、もっと単純な遊び方――すなわち、チップをはじいてカップインさせるというのもあります。そちらはあまり触れませんでしたが、『天体議会』のメインキャラである水蓮が遊んでいたのも、カップインさせるタイプですから、それについても一瞥しておきます。

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ふと、そんなことを思いついたのは、下のようなゲームを最近手にしたからです。

(箱の大きさは、タテ横約8.5cm×12cm)

石版刷りの箱絵からして時代を感じますが、おそらく1910年代の品。
タイトルにはTidley Winks とあって、ピュスとはうたってませんが、これは英語とフランス語の違いで、遊びとしては同じものです。(Tidley Winksとは「おはじき」の意。直訳すれば「ほろ酔いのウィンク」?)

これは英米向けの輸出仕様なので、英語表記になっていますが、メーカーはドイツ・バヴァリア地方を本拠とするSpear社で、バヴァリアと聞けば、足穂チックな連想も働きますし、そんなところも『天体議会』の世界と親和性が高い気がしました。


箱を開けると、ボール紙製のカップと、白・黒・赤・黄・緑の5色のセルロイド製チップが入っています。各色とも、大きいチップ(20ミリ径)は1個、小さいチップ(15ミリ径)は3個あって、プレイヤーは箱絵のように、大きいチップで小さいチップをパチンとはじき飛ばして、カップに入れる技を競う…というのが、ゲームの狙いです。


説明書を読むと、プレイヤーはめいめい好きな色のチップを選びなさい、そしてチップがよく飛ぶようテーブルにはクロスを掛けなさい…という指示に続いて、2種類の遊び方が紹介されています。

すなわち、各プレイヤーが順番にチップをはじいて、最もたくさんカップインした人が勝ちというのと、丸テーブルを囲んだプレイヤーが一斉にチップをはじいて、最初にカップインした人が勝ちというのと、2つのルールがあったようです。

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水蓮が一人で遊んでいたのは、「白磁のチップを容器めがけて指ではじき、チップの色や形で点を数える」というもので、チップを指ではじくところも、点取りの仕方も、上の2つの遊び方とはまたちょっと違うので、この件はさらに考究を続けねばなりませんが、ピュスゲームの外延は少しずつ見えてきた気がします。

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蚤の慣用句を検索したら、まっさきに「蚤の息も天に上がる」というのが出てきました。
蚤のような取るに足りないものでも、一心に努力すれば何事もなしとげることができるたとえ」だそうです。蚤もなかなか馬鹿にはできません。

ソォダ色の少年世界…カテゴリー縦覧:長野まゆみ編2015年04月18日 12時35分57秒

自民党の面々はよくやるなあと思います。
右派の論陣を張るのは、健全な政治活動である限り結構なことですが、その行動面に注目すると、最近はまさに「やりたい放題」で、これは「おごっている」と言われても仕方ないんじゃないでしょうか。おごれる者は何とやら。

現今の政権は、「改革」を目指すのだと言います。
江戸の昔から「改革」といえば「「経済改革」と「文化統制」が2枚看板で、その背骨が「復古主義」だというふうに相場は決まっています。今の「改革」もまさにそんな塩梅ですね。

江戸の改革は、ただちに目に見える効果を挙げようとして、思いつきの政策を乱発した結果、かえって混乱を招き、最後には人心が離れて終息するというパターンをたどったようです。今の「改革」は、財政の緊縮を唱えず、むしろ進んで放漫なことをやっている点が、江戸の改革にはない新味ですが、いっそう刹那的な感じがして、政体の延命を図るよりは、むしろ死期を早めるのに手を貸している観があります。

それにしても、この理科趣味ブログが、こんなエセ政治評論のようなことまで書き付けねばならぬこと自体、今の世の中のおかしさを雄弁に物語るものでしょう。

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…と、かように現実とは中々ムズカシイものです。

しかし、人の心の中に分け入れば、そこには人殺しも、破廉恥漢もいない、いつだって涼しい風が吹き渡り、甘い匂いの漂っている世界が確かにあります(同時にその正反対の世界もあります)。


平成の初め、1991年から92年にかけて出た、長野まゆみさんの「天球儀文庫
「月の輪船」夜のプロキオン「銀星ロケットドロップ水塔」から成る四連作です。


長野作品の定番である、二人の少年を主人公にした物語。
本作では、それぞれアビと宵里(しょうり)という名を与えられています。

二人が暮らすのは、波止場沿いの町。

(イラストは鳩山郁子さん)

物語は夏休み明けから始まり、再び夏休みが巡ってきたところで終わります。
例によって、筋というほどのものはなく、二人の会話と心理描写で物語は進みます。

その世界を彩るのは、ルネ文具店のガラスペンであり、スタアクラスタ・ドーナツであり、プロキオンの煙草であり、砂糖を溶かしたソーダ水です。


学校の中庭で開かれる野外映画会、流星群の夜、銀星(ルナ)ロケットの打ち上げ。
鳩と化す少年、地上に迷い込んだ天使、碧眼の理科教師、気のいい伯父さん…


永遠に続くかと思われた、そんな「非日常的日常」も、宵里が遠いラ・パルマ(カナリア諸島)への旅立ちを決意したことで、幕を閉じます。

宵里が去って数週間後、アビが宵里から受け取ったのは、「手紙のない便り」でした。
それは、どこかでまた「はじめて逢おう」と告げるメッセージであり、アビもあえて返事を書きません。その日が来ることを期待して、二人はそれぞれの人生を再び歩み始める…というラストは、なかなか良いと思いました。


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これはひたすら甘いお菓子のような作品です。
格別深遠な文学でもなく、そこに人生の真実が活写されているわけでもありません。
(いや、真実の断片は、やはりここにも顔を出していると言うべきでしょうか?)

とはいえ―。
お菓子は別に否定されるべきものではありませんし、どちらかといえば、私はお菓子が好きです。

アオイカメラ2014年08月24日 08時36分53秒

青い光を切り取るカメラが欲しいと思いました。
といって、カメラ趣味はないので、実際に切り取ることはしません。
イメージの中での話です。


真っ青なボディの35ミリ二眼レフ。


旧ソ連(現ウクライナ)にあったカメラメーカー、FED(F.E. Dzerzhinsky factory)が、1959年に発売した普及機、「FED Zarya」をベースにした、スプートニク打ち上げ記念モデル。


スプートニク1号は1957年10月4日に打ち上げられた、人類初の人工衛星。
その製造年からいって、このカメラはスプートニク打ち上げと同時ではなく、それよりも後に作られたものと思いますが、いかにもその時代の空気をまとっている感じがあります。




長野まゆみさんの『天体議会』の少年たちは、ぜひこんなカメラを手にして、ライカ犬のタバコをくわえながら、シャッターを切ってほしい。

天体議会の世界…十月の星図(3)2013年09月30日 18時15分36秒

9月も残り1日あるので、おまけとして第2章の冒頭に戻って、銅貨が10月の星図を眺めていたシーンについて、もう1回だけ書きます。

問題のシーンは、「十月の星図(1)」↓の中でも引用しましたが、こんな具合でした。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/08/24/6956879

少年〔ガニュメデス〕の持つ水瓶から零れる水を、南の魚が飲んでいる。ひときわ煌〔かがや〕く一等星は、魚の口〔フォーマルハウト〕。十月の星図を眺めていた銅貨は、それを折りたたみ、まだ星などひとつも見えない真昼の天〔そら〕を見あげた。(p.40)

ここに出てくる星図について、以前の記事の中では、「プラネタリウムで配られたか、少年雑誌の付録についていたような、1枚ものの星図」という推理をしました。ちょうどそんな感じの10月の星図を見つけたので載せておきます。
アメリカの「Boy’s Life」という少年雑誌の1959年10月号の1ページです。


結構大判の雑誌で、誌面サイズは約31.5×24cmありますが、ペラペラの紙なので、これなら折りたたんでポケットにしまうことも簡単です。


水瓶とフォーマルハウト。残念ながら星座絵はありません。


この色づかい、文字、少年の風体…すべてが50年代のアメリカそのもの。


雑誌の切り抜きなので、当然裏面にも記事があります。「猟は安全が大事」という絵入りの記事ですが、アメリカでは子供の頃からポンポン鉄砲を撃つことに慣れ親しんでいるようで、銃規制がなかなか進まないのも分かる気がします。

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1956年、57年の号にも、それぞれ夏の星座、冬の星座の図が載っていました。



こちらは北と南を向いた時の星空を、背中合わせに描いています。矢印は星座の日周運動の方向でしょう。

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50年代アメリカのパワフルな文化が、繊細な『天体議会』の世界と馴染むかどうかは微妙ですが、少年たちが元気に少年をやっていたという点では、相通じる部分があるかもしれません。

天体議会の世界…水蓮の目から零れた碧い石(3)2013年09月29日 11時42分41秒

自分で言うのもなんですが、この一節を再現するために、私はかなり努力しました。
まず「瑠璃青の円い罐」を見つけるまでが一苦労。


実際には、作者は「浅田飴」の青い缶あたりをイメージしたのかもしれませんが
、それではあんまりなので、瑠璃青のコフドロップの缶を求めて東奔西走(そのときの自分がなぜそこまでこだわったかは謎)、下のような試行錯誤を繰り返しました。

(左はフランス、右はドイツののど飴の缶)

そしてやっと見つけたのが昨日の品で、まさに「瑠璃青の円い罐」(と自画自賛)。


そこに並べた蜜色の粒と碧い粒。

ここではシトリン(黄水晶)を、シトロンキャンディに見立ててみました。
ちなみに、シトロンとシトリンは同じ語源の言葉です。いずれも、ラテン語のシトラス(レモン系柑橘類)に由来し、それがフランス語を経由して英語に入ったもの。
一方の碧い結晶はフローライト(蛍石)です。
シトリンも、フローライトも、安価なタンブル(大量の小石を回転容器で一斉研磨したもの)ですが、こうして見るといかにもドロップっぽい感じです。

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鷹彦にとってはもっけの幸い、碧い謎の結晶の効果は歴然としており、彼はふたたび美声を取り戻すことができました。その美声に聞きほれながら、銅貨と水蓮が一服つけるところで第2章は終わっています。

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以上、第1章「鉱石倶楽部」、第2章「天体議会」を一通り見ました。

この後、作品は第3章「変わり玉」、第4章「天河市場〔てんがプラザ〕」、そして第5章「水先案内人〔カノープス〕」と続きます。そちらにも心惹かれる理科趣味的なモノやエピソードは点綴されていますが、そろそろ9月も終わりですし、元々夏休みの宿題として始めた「天体議会の世界」は、この辺でひとまずピリオドを打つことにします。

いずれまた機会を見つけて、全章を完結させられればと考えています(いくつかのモノはすでに準備済み)。


(※)【2013/10/20付記】
 コメント欄でレグルス様から「件のドロップのモデルは、ヴィックスのコフドロップではないか」とご教示いただきました。その蓋然性がきわめて高いと思いますので、ここに注記しておきます。

天体議会の世界…水蓮の目から零れた碧い石(2)2013年09月28日 15時03分36秒

「箸休め」が続きます。

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今回(2)と銘打ちましたが、「水蓮の目から零れた碧い石」の(1)は以下。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/08/23/6955616
謎の少年によって水蓮のまぶたから取り出された碧い石は、いったん水蓮のものとなったのですが、それが失われた顛末が、第2章の末尾に書かれています。

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きっかけはひょんなことです。
銅貨と水蓮は、議会に遅刻した「罰ゲーム」として海洋気象台屋上の手すりの外側を一周することになったのですが、そのとき鷹彦が声をかけました。

「水蓮、」
 うしろから鷹彦が呼びとめた。
「コフドロップ持ってないか。きみ、いつも持ち歩いているだろう。」
「あるよ。」
「分けてくれよ。咽喉が痛くなった。」
「ヤケになるからだ。」
 水蓮は片膝をあげて鞄を支え、中を手探りしていたが、すぐに瑠璃青〔るりあお〕の円い罐〔かん〕を見つけだし、鷹彦のほうへ投げた。(p.70)


ノドを大切にしないといけないはずの音楽部の鷹彦が、やたらと煙草を吸っていたのは、彼が変声期を迎え、自慢の美声が出なくなったのを悲観したためです。
やがて罰ゲームを終えた二人に、鷹彦は再び屈託のない声をかけます。

「助かった。これ、よく効くな。咽喉が急に楽になったよ。なかなか溶けないから飲みこんぢゃったけどさ。碧玉〔アクアブルー〕のをもらったよ。ほかは全部蜜色だったけど、碧のは一粒しかなかったから悪かったかな。」
「碧玉〔アクアブルー〕。」
 水蓮は俄に顔いろを変え、手にしていた罐の蓋をあけた。銅貨も一緒になって覗きこんだ。罐の中には柘榴石とそっくりな形をした蜜色の粒が揃っている。半透明で、微かに檸檬〔シトロン〕の芳薫〔かおり〕がする。(p.73)


そう、ご想像の通り、水蓮はのど飴と一緒に碧い結晶を缶に入れておいたのです。

「ぢゃあ、鷹彦がのみこんだっていうのは、あの結晶。」
「しッ。」
 しまいまで云わないうちに水蓮の手がのび、銅貨の口を塞いだ。
「この際、黙っておこう。石をのみこんだと知ったら鷹彦の奴、大騒ぎしかねないからな。」
 水蓮は微笑みながら囁いた。(p.74)

(この項続く)

天体議会の世界…Smoking Boys(2)2013年09月25日 21時49分34秒

(昨日のつづき)


これもWillsのスターマークがついた逸品、「FOUR ACES」。


これまた「天体議会」の世界にふさわしいスマートさが感じられるのでは。


こちらはライカ犬のスプートニクと対になる、群青色の「ボストーク」。
キラキラした星、青い月の前で紅の焔をあげて翔ぶロケット。スマートさはありませんが、一種武骨なカッコよさがあります。


スプートニクとボストークのツーショット。

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さて、この辺までは私の勝手な想像ですが、『天体議会』には、ライカの他に、もう1つ固有名を持ったタバコが登場します。それが「帆船(ジャンク」。こちらは銅貨の兄・藍生と、例の謎の少年が愛好しています。

〔…〕彼は背もたれに掛けてあった上衣を手探りし、ポケットから煙草の包みを取り出した。しかし、それは空だったようで、忌々しそうに捩って近くの屑入れへ投げこんだ。
「銅貨、返せよ。帆船〔ジャンク〕、居間の円卓〔テーブル〕の上に置いていたのを、おまえ持ち出したろう。まだ封を切ったばかりだ。」
「知らないよ。ぼくは喫ってない。」(p.83)


〔…〕少年はそう云って淡紫色〔ヘリオトロオプ〕の烟を吐き出した。帆船〔ジャンク〕という名を持つこの煙草の特徴は、うっすらたちのぼる烟が淡い紫をしているところにある。南方への出荷専用で普通に出まわることはないのだが、銅貨の兄はこれをどこかから調達してくるのだった。(p.101)


作者である長野氏が実際に参照したタバコかどうかは不明ですが、現実に「ジャンク」というタバコの銘柄は存在します。下は以前オークションに出され、画像だけ保存しておいたもの(現物は落札しそびれました)。どうやら戦前の中国製のようです。


もっとも、中国帆船をデザインしたタバコは、他にもいろいろあります。
下は青一色刷りのカラーリングが涼しげで、いかにも淡い紫の煙が立ち昇りそうな「民船牌香煙」の包装紙。もちろん、こちらも中国煙草です。


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他にも洒落たパッケージはたくさんありますが、それは足穂やクシー君の話題のところで取り上げた方が良さそうなので、後日に回します。

天体議会の世界…Smoking Boys(1)2013年09月24日 20時14分20秒

「天体議会」の銅貨と水蓮、あるいは「クシー君シリーズ」に登場するクシー君とイオタ君のふたりが、「銀河鉄道の夜」のジョバンニとカンパネルラのふたりと大いに異なるのは、彼らがやたらにタバコをふかすところ。
この点において、彼らは「賢治の子」であるばかりでなく、「足穂の子」たる資格をも十分備えています。

(「まあ一服」とクシー君とイオタ君。鴨沢祐仁作「流れ星整備工場」より)

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それにしても、タバコほど、ここ四半世紀で、その社会的意味合いを大きく変えた嗜好品も珍しいでしょう。ちょっと前まで喫煙は「大人の象徴」であり、成長過程における通過儀礼的意味合いすらありましたが、今やスモーカーは社会的不適合者と見られかねない勢いです。

私自身は昔も今もタバコをやらないので、そうむきになってタバコ擁護論を展開するつもりはありませんが、しかし、かつては確かに<喫煙文化>や<紫煙の美学>というものがあり、社会の側もそれを公認していた事実は、はっきり指摘しておかねばなりません。

(ロボットも一服。鴨沢祐仁作「1001 bit STORY」より)

「足穂の子」がシガレットを口にするのも、それが明らかに「カッコいい所作」と受け取られていたからで、こういう当たり前のことも、今のような状況が続くと次第に分からなくなっていくかもしれません。

(ちょっぴりへそ曲がりなことを言うと、社会的害悪という点では、アルコールの方がはるかに罪深いはずで、その怖さは脱法ドラッグの比ではないでしょう。そのことは酒毒で苦しみぬいたタルホ御大自らが証明しています。)

そんなわけで、昔のタバコのパッケージは、実力派デザイナーの腕の振るいどころであったとおぼしく、今の目で見ても「うわ、カッコいいな」と思うものが多くて、その方面のコレクターも大勢いるはずです(eBayではそれ単独でカテゴリーが作られています)。

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以下に、天体議会のメンバーが好んで吸っていた(と私が想像する)銘柄を挙げておきます。


まずは「STAR FIELD」。これは言うまでもなく議会メンバー御用達のブランドで、議会招集の折には絶対に欠かせない品(のはず)。


箱の裏側中央に注目。ちょっと見にくいですが、「Star Field」の文字の下に、スターシガレットでおなじみの(http://mononoke.asablo.jp/blog/2011/01/15/5637492)イギリスのWills社の星マークが見えます。もちろんこの「STAR FIELD」も同社の製品です。


厚地のパッケージの他に、薄紙の包装紙も見つけたました。

(この項つづく)

天体議会の世界…ライカ犬の煙草2013年09月23日 09時05分28秒

こうして水蓮と銅貨はちょっとした「事件」を体験し、ふたたび天体議会の会場である海洋気象台まで引き返してきたのですが、時計はすでに7時過ぎ、完全に遅刻です。

屋上には天体議会のメンバーで、音楽部に所属する鷹彦が、たった一人居残り、両名が来るのを待っていました。「遅刻、ふたりともどこへ消えてたんだ。だいたい水蓮は自分で招集したくせに、責任取れよ。」と相当の腹立ちです。

「きみは帰らなかったのか。」
「待ってたのさ、きみたちを。皆が罰ゲームの監視をしとけって。ぼくがもう少し屋上で暇をつぶしてから帰るって、云ったものだからさ。」
 鷹彦は短くなった煙草を捨て、また新しく取り出して火を点けた。彼の傍まで螺旋階段を昇った水蓮は、鷹彦の手から煙草の包みを取って、それを眺めた。
「見かけない包装だな、これ。」
 夜天〔よぞら〕に氷河碧〔アイスブルー〕のロケットと人工天体の飛んでいる絵を背景に、大きく凛とした犬の貌〔かお〕が描いてある図案だった。文字は形も配置も見慣れないものである。
「ライカって読むのか、この文字〔アルファベット〕。ライカ犬の絵だな。人工衛星〔スプートニク〕に乗って宙〔そら〕を飛んだ犬だろう。この犬って回収されたっけ。」(p.68)

(原文通りのデザイン)

『天体議会』の世界は、物質文化の進展の様相が、現実世界とはかなり異なるので、一種のパラレルワールドのように思えるのですが、他方、このライカ犬とスプートニクのエピソードは、現実世界との接点を強く感じさせもします。

(薄紙製のパッケージの全体を開いたところ)

そして、この煙草は後ほどもう1回作中に登場します。
以下、音楽部の手伝いを自ら買って出た水蓮に、鷹彦が礼を言う場面。

「頼んだよ。劇が無事終了したら、何か奢るからさ。」
「それなら、いつかの煙草〔ライカ〕をくれよ。」
「気に入ったのか。」
「図柄がとくにね。」
 水蓮はライカ犬の絵を気に入って、包装紙を保存していた。彼は大変な犬好きなのだが、去年、愛犬〔ピカス〕を喪くしたときの落ちこみようがあまりにひどかったので、以来飼うことを禁じられている身だ。
「了解。父は近々、また衛星〔サテライト〕Aに行くと云ってたから頼んでおく。」(p.124)


(折り目に沿って再度パッケージを組み立てたところ。元はこんな感じだったようです。)

(同じく裏面)

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『天体議会』の世界に、モノを通して分け入るのは、正直なかなか大変な作業ですが、このライカ犬の煙草は「本当の本物」を目にすることができる、数少ない作中アイテム。そしてまた、水蓮が強く惚れ込んだだけあって、なかなか素敵なデザインです。

付記】 
 本文をよく見たら、ライカはさらにもう1か所登場していました。ライカ好きは水蓮から銅貨にも伝染したようです。

 〔…〕兄は煙草を探していたが忘れて来たらしく、諦めて銅貨のほうを見た。
「ライカならあると思うけど。」
 学校のある日の癖で無意識に制服を着ていた銅貨は、上衣をさぐってライカの碧い包みを取り出した。〔…〕
「水蓮がこの包装を気に入って、このところいつもライカなんだ。」(p.187)

天体議会の世界…信号燈2013年09月22日 19時51分38秒

ペンシルロケットを海洋気象台の屋上から発射した水蓮と銅貨。
しかし、どうやら打ち上げは失敗し、目標地点のはるか手前にロケットは落下してしまいます。

「高速軌道〔カプセル〕の橋のあたりじゃないか。」
 銅貨は北側の手摺に駆け寄り、山の方角に目を凝らした。
「かも知れない。行ってみよう。山の斜面まで届くと思ったのに、手前で落下するなんて予定外だ。人に当たってなきゃいいけど。」
「まさか、」
 少年たちは顔を見合わせたあとで、非常階段の方へ走り出した。(p.59)


この後、二人はロケットが落ちたとおぼしい、街の北側の峡谷越しに線路が伸びている陸橋付近まで様子を見に行きます。その夕闇の濃い谷あいの斜面で、ふたりは意外な人物に出会います。

「その後どうだ、眼の具合は。」
「何だって。」
 そろって声をあげた水蓮と銅貨の目の前に現れたのは、鉱石倶楽部で出逢ったあの少年だった。〔…〕額と両膝から血を流すほどの怪我を負っているのもわかったが、少年は平然としたようすで佇んでいた。(p.63)


謎の少年は、水蓮のペンシルロケットが足もとで破裂したはずみで斜面から転げ落ち、けがをしたのでした。それにしても、なぜ彼はこんなところにいたのか?
今、彼はもう一人の人物と、あるゲームをしている最中であり、そのゲームとは、当局の取り締まりの目をかいくぐって、鉄道の信号灯をいくつ壊せるかを競うものだ…と彼は言います。


「赤洋燈〔ランプ〕を狙っても意味はないよ。壊すのは青だけでいいんだ。」
〔…〕
「だってね、青なら十点、赤は一点、黄色は三点だ。そうなれば当然、きみだって青信号を狙うだろう。」
「何の話だ。」
「遊戯〔ゲーム〕だよ。さっきまで持ち点百五十点で勝っていたのに、谷底へ転落しているあいだに抜かれた。」(p.64)


呆然としている水蓮と銅貨をよそに、少年は懐中電灯を消し、さっさと斜面を昇った。そして橋の上を、声をたてて笑いながら走り去ってゆく。甃石〔しきいし〕を叩く足音がだんだん遠のき、続いてガチャン、と硝子の割れる音がした。再び号笛〔サイレン〕が鳴り響き、探照燈〔サアチライト〕がぐるぐるまわりだした。(p.66)


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画像はO(オー)ゲージ規格の古い鉄道模型用信号灯。コードが付いているので、豆球が生きていれば光るはず(未確認)。
私に鉄道模型の趣味はありませんが、以前、「銀河鉄道の夜」の世界を再構成するときに使えないかと思って購入しておいたのを、今回ちょっと流用してみました。

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上の信号灯のエピソードは、理科趣味とは縁が薄いですが、これによって例の少年をめぐる謎がいっそう深まり、彼はいったい誰とゲームをしているのか、それが物語後半に向けた重要な伏線ともなっているので、あえて記事として取り上げました。