ソビエトの星2023年07月25日 19時32分07秒



旧ソ連の星座早見盤です。1980年製なので、ソ連の歴史もだいぶ終わりに近い方ですが、もちろん同時代の人間は、ソ連が間もなく消滅するとは、知る由もありませんでした。


裏面のラベルをGoogleに訳してもらうと、これは「ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国 教育省技術教材製造局」が発行したものだそうで、このお硬い感じがいかにも旧共産圏です。


ベースはプラスチック製で、そこに紙の星図をはさみ、さらに表面を薄いビニールシートの回転盤で覆っています。もちろん、実用面からいえば、そこに何の問題もありません。ただ、デザイン面からいうと、何となく1950~60年代チックなアナクロ感が漂います。素材のチープさ、印刷のかすれ、そっけないフォント、そして地味なカラーリング―それらが相まって、そうした印象を生んでいるのでしょう。今となっては、それが「旧共産圏グッズ」に共通する、ひとつの味ともなっています。

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この早見盤は、北緯55°±5°用で、北緯55°とはモスクワの緯度です。北海道のてっぺん、宗谷岬が北緯45°ですから、それよりもずっと北の星空を表現しています。


北極星の高度は、すなわちその土地の緯度で、東京付近なら地上から35度、北方のモスクワなら55度の北の空に見えています。さらに北極点まで行けば、北極星は天頂に輝き、目に見える星はすべて大地に沈まぬ周極星になります。

この早見盤も、普段使っている日本の星座早見より、ずいぶん北極星が天頂に寄っていて、しかも星の見える範囲を示す「窓」も、見慣れた楕円ではなく、真ん丸に近いです(北極点まで行くと「窓」は文字通り真円になります)。

星座早見盤の使い方は万国共通ですし、星座名や月名もなんとなく(発音はできないまでも)類推で分かるので、普通に使うこともできます。ただ、そこには自ずと時代と国を違えた異国感があって、見えている星までも何だかソビエトっぽい感じがします。

(ここまで星座境界を正確に区切ってある星座早見盤は珍しいでしょう。その点も特徴の1つだと思います。)

金と銀2023年06月24日 06時28分23秒

昨日の金色の世界時計から、似たような姿かたちの星座早見を連想しました。


ただし、こちらはクロームメッキの銀の円盤です(以前の記事にLINK)。


厚みは違いますが(星座早見はガラスがドーム状に大きく盛り上がっています)、それ以外はほぼ同大。


外周の時刻表示を見ると、24時のところが三日月マークになっている点までそっくりです。ただし、金のほうは時計回りに「1、2、3…」、銀の方は反時計回りに「1、2、3…」と数字が振られています。

最初は「これって、実は同じ工場で作られたんじゃないか?」とも思いました。
でも、星座早見盤は2000年代の日本製であり、世界時計の方は、流通した国こそアメリカですが、実は台湾製です(この事実も、この品が東西冷戦期の、つまり中国が「世界の工場」になる前の時代の産物ではないか…と思った理由のひとつです)。
結局、生まれた国も時代も違うので、これはやっぱり他人の空似なのでしょう。

いずれもペーパーウェイトですから、自ずと適当な大きさというのは決まってくるでしょうし、24時間の回転盤を組み込んだ実用品でもあるので、互いにデザインを真似たり、真似されたりしているうちに、似たような姿になることもあるのでしょう。


これが日米台を超えて再会を果たした生き別れの兄弟だったら、もちろん感動的ですし、まったくの他人の空似だとすれば、それはそれで不思議です。プロダクトデザインにも、収斂進化や擬態がある例かもしれません。

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さあ、これから足穂の待つ京都に行ってきます。

山の星空2023年03月01日 19時03分36秒

いつのまにか3月。あれ?と思いますが、2月は寸が詰まっているので、するりと月が替わってしまう感じがいつもします。何だか手妻を見せられているようです。
今年の啓蟄は3月6日、今度の月曜日。いよいよ本格的な春の訪れです。

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「山の星空」と題された、こんな星座早見盤を見つけました。

(高さは15cmと小ぶり)

名前のとおり、登山の際の星見の友として作られたものです。

(裏面)

製造元はビクセン、販売元はエイコーですが、企画したのは電通系の「電通プロモーションプラス」という会社で、同社が展開する「Yamasanka(山讃歌)」というブランド(LINK)の製品です。


その大きな特徴は、普通の星座早見盤とは逆に、北を向いて使うようにデザインされていることで、山行では北極星を目当てにすることが多いので、むしろこの方が使いやすいという配慮だそうです。

私はへそ曲がりなので、電通系というところが気に入りませんが、この四方をぐるりと高山に囲まれた星空は、なかなかいいと思いました。


山並みのデザインばかりではなく、この凡例を見ると、小さな盤面に非常に多くの情報を盛り込んでいることがわかるし、


経度差の調整機能もしっかりしていて、単なる色物的な早見盤ではなさそうです。
電通に乗せられるのも癪ですが(しつこい)、これはデザイン勝ちでしょう。

なお、これは現行の製品なので、ネットで普通に購入できます(LINK)。

ハレー彗星の星座早見盤2023年02月15日 06時02分45秒

ハレー彗星の話題の続き。
1986年のハレー彗星接近を当て込んだ星座早見盤を見つけました。


同様の品としては、オーストラリア製の南天用早見盤を採り上げたことがありますが(LINK)、それと似たようなものが日本にもあった…というのが、今回の発見です。

(右がオーストラリアのカルテックス社の早見盤。一辺30cnとかなり大型です。対する日本製は幅19cm)

(星図部拡大)

同年の3月から4月にかけてぐんぐん尾を伸ばしていくハレー彗星の予想図に、当時の天文ファンは胸を高鳴らせたと思いますが、このときは観測条件が悪く、特に日本からは、ほとんどその姿が見えなかったと聞きます(以前の記事にも書いたように、このとき私は天文から遠ざかっていたので、リアルな記憶がありません)。

ここに描かれているのは、現実のハレー彗星というよりも、人々の心の中を飛んだ幻の大彗星であり、それだけに一層愛おしいものを感じます。

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なお、この早見盤は単体で販売されたのではなく、以下の紙工作本に含まれるコンテンツの1つのようです。

■藤井旭(構成)
 『切りぬく本 ハレー彗星観測ガイド』
 誠文堂新光社、1985

一枚の星座早見盤が開く遠い世界2022年12月26日 06時33分29秒

皆さんのところにサンタクロースは来ましたか?
私のところにはちゃんと来ました。
今年、サンタさんから届いたのは一枚の星座早見盤です。


これは世界にまたとない品です。なぜならこの早見盤が表現しているのは、紀元137年のアレクサンドリアの星空なのですから。


「紀元137年のアレクサンドリア」とは、何を意味するのか?
それはアレクサンドリアで活躍した、かのプトレマイオス(紀元100頃-170頃)の大著『アルマゲスト』に含まれる星表のデータが記録された年であり、この早見盤はそのデータを元に作られた、いわば「アルマゲスト早見盤」なのです。この円盤をくるくる回せば、「プトレマイオスの見た星空」が、文字通り“たなごころに照らすように”分かるわけです。

(今からおよそ1900年前、12月25日午後8時のアレクサンドリアの空)

この早見盤は、元サンシャインプラネタリウム館長を務められた藤井常義氏から頂戴したもので、藤井氏こそ私にとってのサンタクロースです。この早見盤のオリジナルは、藤井氏がまだ五島プラネタリウムに勤務されていた1976年に制作されたものですが、最近、私がいたくそれに感動したため、藤井氏自ら再制作の労をお取りいただいたという、本当に嬉しいプレゼントでした。

(早見盤の裏面)
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アレクサンドリアの位置は北緯31度、日本だと九州最南端の佐田岬付近に当たるので、今でもそこから見える星空は、東京あたりとはちょっと違います。でも、1900年の歳月はそれ以上の変化を星空にもたらしました。


こぐま座のしっぽの位置に注目。今では北極星として知られる尻尾の先端の星が、天の北極からずいぶん離れてしまっています。言うまでもなく地球の歳差運動によるもので、当然プトレマイオスの頃は、この星はまだ「北極星」と呼ばれていませんでした。


あるいは、先日のオジギソウの記事(LINK)のコメント欄で、みなみじゅうじ座β星「ミモザ」の由来が話題になったときに、古代ローマ時代にはすでに南十字が知られていたという話が出ました。早見盤を見ると、そこには南十字こそ描かれていませんが、位置関係からいうと、ケンタウルス座の足元に、今では見えない南十字の一部が確かに見えていたはずです。

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プトレマイオスの威光のせいで、当時のアレクサンドリアは栄光の絶頂期のようなイメージを個人的に持っていましたが、話を聞いてみると、アレクサンドリアが文化・経済の中心として繁栄したのは紀元前2世紀頃のことで、プトレマイオスの時代には有名なアレクサンドリアの大図書館も、ずいぶん寂しいことになっていたらしいです。まあ今の日本のようなものかもしれませんね。

それでも古代ローマの残照はいまだ眩しく、この早見盤の向こうには遠い世界の華やぎと、星座神話が肌感覚で身近だった時代の息吹が感じられます。

ガラスの底の宇宙2022年02月04日 18時14分19秒

大自然の猛威を前に、人々はなすすべもなく立ち尽くしていた…。
今回のコロナ騒動を眺めていると、そんなステロタイプな言い回しが自ずと心に浮かんできます。確かにcovid-19も自然の一部には違いありません。

でも、それを言うなら、我々だって自然の一部です。
人は自然を何となく自分の外にあるものと思って、「ヒト 対 自然」の構図で物事を考えがちですが、covid-19の場合、外にあると思っていた自然が、実は自らの肉体の内部にまで広がっていることを痛感させてくれました。人とウイルスの主戦場は、ワクチン接種会場や医療機関などではなくて、我々自身の肉体の内部です。ウイルスにとっては、我々の肉体そのものが広大な「環境」であり、我々は宇宙の階層構造にしっかり組み込まれているのでした。

オミクロンに振り回されて、この間まったくブログも放置状態でしたが、ようやく第6波もピークが近い兆しがあります。何とかこのまま終息し、我々を取り巻くささやかな宇宙に早く平穏が戻ってきてほしいです。

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そんなこんなで、久しぶりに自ブログを開いたら、新しいコメントを頂戴しているのに気づきました(尚桃さま、ありがとうございました)。それは実に16年前の記事へのコメントで、内容は星座早見盤を組み込んだペーパーウェイトの紹介記事です。


■銀河鉄道の地図

読み返すまでもなく、記事を書いたことも、記事を書いたときの気分もはっきり覚えています。と同時に、しみじみ懐かしさを感じました。文章もそうだし、書き手である私も、今よりずっと素朴な感じがします。


この16年間、何が変わって、何が変わらないのか?
変ったものは、何といってもモノの量です。まあ、16年間も天文古玩周りの品を探し続けていれば、いい加減モノも増えます。それにまつわる知識の方は、必ずしもモノの量に比例しないので、増え方は緩やかですが、これもまあちょっとは増えました。


一方、変わらないもの。それはやっぱり「星ごころ」であり、賢治や足穂を慕う思いです。だから例のペーパーウェイトを前にすれば、昔と同じようにいいなあ…と思うし、銀河を旅する少年たちの面影をそこに感じるのです。その気持ちがある間は、まだまだ天文古玩をめぐる旅は続くでしょう。


部屋の窓から見上げれば、そこには宇宙がどこまでも広がっています。
そして机上のガラス塊を覗き込めば、その底にも漆黒の宇宙があり、銀河が悠然と流れているのが見えます。そのとき銀河は私の瞳や心の中をも同時に流れ、そこを旅する少年たちの声が、すぐ耳元で聞こえるのです。

2022年の空を楽しむ2022年01月04日 20時59分49秒

高価な機材をそろえ、国内外のあちこちに遠征しないと楽しめないような、マニア向けの天体ショーは毎年いろいろあって、もちろんそれはそれで楽しみなものです。
その一方で、街中でも、そして誰にでも楽しめる「万人向けの天体ショー」というのもあります。まあ、気軽に空に親しむ機会を求める人のほうが、むしろ潜在的には多いでしょう。

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ルーチカ【LINK】のTOKO(とこ)さんから、素敵な新年の贈り物を頂戴しました。私にとって今年の初荷です。


『星狩りガイド 2022』と題された、この三つ折りのカードには、今年のそんな「万人向け天体ショー」が詰め込まれています。

その最大の特長は、中に小さな星座早見盤が仕込まれていること。

(純白の紙に天河石(アマゾナイト)色の星図がさわやかな印象)

これは非常に優れた工夫だと思いました。静的な「星見カレンダー」は世間によくありますが、こんなふうに早見盤をくるくる操作すると、いつ、どの空域でお目当てのショーが見られるのか、感覚的・具体的につかむことができます。


しかも、カレンダーやスケジュール帳に貼るための備忘用のシールまでセットになっていて、かゆいところに手が届くとはこのことです。

惑星と月の邂逅も、惑星たちが一堂に会する豪華な空も、目ぼしい流星群も、このカードさえあれば見逃すことはありません。このカードは今年一年、今座っている机の脇に立てておくことにします。

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以下は公式の製品紹介ページ。オンラインストアから購入も可能です。

■星狩りガイド2022

ポケット・プラネタリウム2021年11月21日 18時15分55秒

星座早見盤というのは本当によくできています。
円盤をくるくる回すだけで、星々が24時間で一周する「日周運動」も再現できるし、特定の時刻に見える星座が、1年かけてゆっくり空を一周する「年周運動」も再現できます。そして両者を組み合わせれば、24時間・365日、いついかなる時の星空でも、たちどころに教えてくれるのです。まさに電気不要の「手の中のプラネタリウム」

ただし語義を考えると、これは若干不自然な言い方です。
ふつうの星座早見盤は、星座(恒星)の位置だけを示し、惑星の位置は省略されているのに対して、プラネタリウムの本義は、文字通り惑星の位置を示す「惑星儀」だからです。

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そうした星座早見盤の弱点を補う「ポケット・プラネタリウム」を見つけました。
こちらは文字通り「懐中惑星儀」―― 惑星の位置を知るためのものです。

(サイズは17.8×13cm)

(表紙を開いて伏せたところ)


中身はこんな構造になっていて、向かって右がプラネタリウム本体、左に使用法の説明が書かれています。


1959年にロサンゼルスのスペース・テクノロジー・ラボラトリーズ(STL)が発行したもので、値段の表示がどこにもないので、あるいはノベルティグッズだったかもしれません。(STLはアメリカの初期航空宇宙産業を支えた企業のひとつで、親会社の合併に伴い、その後TRW 社の一部門となりましたが、そのTRW社も今はなく、まこと有為転変の世の中です。)


本体はヴォルヴェル(回転盤)が多層構造になっており、左に見える色付きの円盤群が「惑星盤」、右側の透明な円盤が「地球盤」です。

くだくだしい説明ははぶきますが、まず各惑星盤(水・金・火・木・土)を、盤上の目盛をたよりに、そのときどきの位置に合わせ、次いで地球盤を回すことで、各惑星が地球から見てどちらの方向に見えるか(すなわち黄道12星座のどこに位置するか、そして特定の時刻にそれが東西どちらの方角になるか)を判別する仕組みです。


惑星盤の中心にあるのが太陽で、今、我々は太陽系を真上(北)から見下ろしている格好になります。そして太陽を中心に惑星がくるくる回り…となると、要はこれは「ペーパーオーラリー」です。ただし、地球が常に下部中央―下のハトメの位置―にくるところが、普通のオーラリーと異なります(したがって各惑星の位置は、あくまでも地球を基準にした相対的なものです)。

もちろん、普通のオーラリーのように、地球も太陽の周りを回転するように作れば、その方が感覚的にも分かりやすいのですが、そうすると全体が嵩張ってポケットサイズにならないので、次善の策として上のような構造にしたのでしょう。

そういえば、昔「プラネティカ」という品を紹介したことがあります。

(画像再掲。元記事 http://mononoke.asablo.jp/blog/2011/05/04/5845041

プラネティカもその時々の惑星の位置を知るための道具でしたが、プラネティカの歯車機構を手で代行し、さらに地球の位置が常に下(手前)にくるように持って使えば、このポケット・プラネタリウムと同じことになります。

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このポケット・プラネタリウムは、1959年1月から1969年1月までの10年間しか惑星の位置目盛がないので、すでに50年以上も昔に「賞味期限」が切れてしまっています。でも、そのデザインとカラーリングは今も清新で、当時の未来感覚と、スペースエイジの息吹を強く感じさせます。

ジョセフ・エルジー『夜ごとの星』2021年11月20日 09時06分08秒

先日の「小さな星座早見盤」の話題が、あまりにもあっけなかったので、罪滅ぼしではないですが、ちょっとそれらしいものを載せておきます。


■Joseph H. Elgie(著)
 The Stars Night by Night.
 C. Arthur Pearson Ltd. (London), 1914. 247p.


巻頭にいきなり広告が出てくる、雑誌めいた造りの本ですが(ちなみに裏表紙はココアの広告です)、そのタイトルページをめくると、


こんな星座早見が付録に付いています。


この円形星図の直径は11cm弱ですから、確かに「小さな星座早見盤」の仲間に入れてもいいでしょう。


肝心の本の中身は…と、書き継ごうと思ったんですが、私はまだ中身を読んだことがなくて、今の今まで「おまけに星座早見が付いた本」という以上の認識はありませんでした。まあ、よくある星座解説書の類だろうと思っていたわけです。

でも改めて目を通すと、これは作者による1年間の星日記という体裁をとった、星のエッセイ集であり、なかなか滋味に富んだ内容だと知って、改めて読んでみようかなという気になりました。

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作者のジョセフ・エルジーは、王立天文学会(RAS)と英国天文学協会(BAA)の会員で、天文と気象に関する一般向けの本を何冊か出している人のようですが、詳細な伝は不明。

なお、この『The Stars Night by Night』は、先にエルジーが私家版で出した『The Night Skies of a Year』(1910)の廉価普及版であり、再版に際して新たに星座早見盤を加えたことが序文に記されていました。

懐中星座早見の世界(2)…飛行機乗りの友2021年11月14日 09時59分38秒

(前々回のつづき)


■Francis Chichester
 The Pocket Planisphere
 George Allen & Unwill Ltd. (London)

その名もずばり「ポケット星座早見盤」という名の、これまた二つ折り式のツイン早見盤です。サイズは約13×14cm、刊年が記されていませんが、ネット情報によれば1943年刊。

(おもて表紙と裏表紙を開いたところ)


先日の西ボヘミア製の早見と比べると、左右の円形星図と、それを覆う「窓」のページが独立しており、全体が4層構造になっている点がちょっと違います。

(「窓」を南北の星図にかぶせたところ)

違いは他にもあります。この前のは「ヨーロッパ目線で見た南の空と北の空」を2枚の星図に描き分けたものでしたが、今日のは文字通り「南天・北天」用で、北緯50度用と南緯35度用の2枚の早見盤がセットになっています。いわば世界中どこでも使えるユニバーサル早見盤です(「実用目的としては、北緯70度から南緯60度まで、どこでも使える」と作者は述べています)。

さらに円形星図の表現も大きく違います。

(北天用)

(南天用)

ご覧のとおり、そこには通常の星座がほとんど描かれていません。はくちょう座やオリオン座、さそり座なんかはありますけれど、それ以外はいくつかの明るい星と、それらを結ぶ曲線があるのみです。

この早見盤の最大の特徴は、それが通常の「星見の友」ではなくて、飛行機乗りが星を目当てに飛ぶ際のナビゲート目的で使うものであることです。そのため、目当てとなる明るい星を捉えやすいように、こうした表現をとっているわけです。


そして「窓」のページの裏側には、通常の星座名ではなく、輝星のみを大づかみにグルーピングした「北斗グループ」や「大鎌グループ」、「オリオン近傍グループ」といった名称が記されています。

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ここまで読んで、思い出された方もいるかもしれませんが、この早見盤はまったくの新顔ではありません。以前も、同じ作者、同じ用途、同じ構造の早見盤を取り上げたことがあり、今日の品はその小型版です(ですから、上の説明はちょっと冗長でした)。

(画像再掲)

■飛行機から見た星(前編)(後編)

以前の記事を引用すると、「著者のフランシス・チチェスター(1901-1972)は、手練れのパイロットにして天文航法の専門家。星図出版当時は、英国空軍志願予備軍(Royal Air Force Volunteer Reserve)に所属する空軍大尉でしたが、年齢と視力の関係で、大戦中、実戦に就くことはありませんでした。そして、戦後は空から海に転身し、ヨットマンとして後半生を送った人」です。

見かけはかわいい「飛行機乗りのための早見盤」ですが、時代を考えると「軍用機乗りのための早見盤」と呼ぶ方が正確で、かわいいとばかり言ってられない重みがあります。

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小さい早見盤(※)は他にもっとあるような気がしたんですが、手持ちの品を探してみたら、これで打ち止めでした。したがって、えらい竜頭蛇尾ですが、「懐中星座早見の世界」と称して書き始めたこの連載も突如終了です。

(※)差し渡し(四角いものなら一辺、円形のフォルムなら直径)が15cm以下のものを、「小さい早見盤」と仮に呼ぶことにしましょう。