されど4分2020年01月07日 06時37分36秒

そういえば、以前妙な時計を買いました。



ご覧のとおり詳細な星座早見盤を組み込んだ、なかなか星ごころに富んだ時計なんですが、要は中国で作られた、アストロデア(シチズン)の‘ぱちもん’です。

(左がアストロデア。アストロデアのことは、こちらから3回シリーズで書きました。)

これのどこが妙かというと、その星座盤のつくりです。
この星座盤はただの見かけ倒しではなく、確かに自動でゆっくり回転しており、そこは立派なのですが、その回転周期は、実際の星空の23時間56分ではなく、24時間ちょっきりです。

これだと何か月経っても夜空の景色は変わらず、同じ星空を眺め続けなければいけません。そのため、星座盤の位置をときどき手動で調整しなさい…という指示が、説明書には書かれています。

何だか変だなあと思います。
購入する側も釈然としないし、作り手側の意識としても、不全感が残るんじゃないでしょうか。いかにも作り切ったという感じがありません。とはいえ、背に腹は代えられず、きっとこの4分差を組み込むと、コストがえらくかかるのでしょう。

たかが4分、されど4分。

繰り返しになりますが、この4分の差は、地球の公転が生み出しているものです。
この1日たった4分の「努力」が、つもりつもって季節の変化を生み、頭上では星座が移ろい、地上では雪合戦をしたり、スイカ割りをしたりすることになるわけですから、ましてや1日5分も努力すれば、腹筋が割れたり、英語が話せるようになったり、資格試験を突破できるのは当然だ…と主張する人がいるのも、うなずけます。

たかが4分、されど4分。
そのことを問わず語りに教えてくれるのが、この時計のいわば「徳」なのかもしれません。

(購入時の商品写真)

星時計(1)2020年01月03日 19時58分56秒

先日、「子の星(北極星)」のことを話題にしました。
不動の北極星を中心に、24時間でぐるっと空を一周する星たち―。

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まあ、大ざっぱに言えばそうなのですが、厳密に言うとちょっと違います。
北極星は決して不動ではなく、ほんのちょっと動いているし、星たちもきっちり24時間周期で回っているわけではありません。

真夜中に頭上にあった星が、次の日も、次の日も、そのまた次の日も、ずーっと真夜中に頭上に来るのだったら、その星に限らず、真夜中に見える星景色は、毎日そっくり同じはずです。そこには、星座の季節変化の生じる余地がありません。
 
実際には、真夜中に頭上に輝いている星は、23時間56分で再び頭上に戻ります。
ちょっきり24時間後の位置で比べると、次の日には4分だけ先に(西寄りに)進んだ場所に位置することになります。

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これはもちろん、地球が公転しているからです。
地球は自転しながら、同時に同じ向きに公転もしているので、両者の「合成回転速度」は、自転速度(や公転速度)単独よりも、ちょっぴり早くなります(エスカレーターを駆け上がっている人を想像してください)。

こうして、1日に4分、1か月で120分、半年経つ頃には12時間もずれて、かつて頭上にあった星は、今度は地面の真下となり、空を彩る星座はすっかり入れ替わってしまいます。そして1年たつと、ちょうど24時間ずれて、再び懐かしい星が頭上に輝く…というわけです。

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以上のことは小中学校の理科のおさらいです。

上の説明は、太陽や月と同じく、星が「東から昇って西に沈む」イメージで語っています。その方が何となく分かりやすいからですが、これは南向きに空を見上げたとき限定の話です。

北極星周辺の「こぐま座」や「カシオペヤ座」なんかは、そもそも地面に沈まないし、方角で言うと西から東に動いて見える時もあって、上の説明は一寸そぐなわいところがあります。

でも、「星が天を一周する時間は23時間56分」で、「1日4分ずつ天球上の位置がずれていく」という事実は、北の星にも完全に当てはまります。

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これを利用したのが、こぐま座やカシオペヤ座、あるいは北斗七星の位置から時刻を知るための「星時計」です。古くは「ノクタラーベ」「ノクターナル」と呼ばれました。

ある日、ある時刻における、星座の位置は既知ですから、逆に日付と星座の位置が分かれば、そのときの時刻を知ることができます。(原理的には南の星座でもいいのですが、北の星座は、北極星との位置関係から、天球上の位置を見定めやすいので、いっそう便利です)。


上はニューヨークのヘイデン・プラネタリウムが1950年に発行した星時計(ずばり「スター・クロック」とネーミングされています)。

(全体は3層構造)

使い方は至極簡単。まず最外周の日付目盛りに、黄色い回転盤の「12」の位置を合わせます(これは時刻目盛りの基準となる「深夜12時」を表します)。

(1月3日に盤を合わせたところ)

この状態で、東西の水平・南北の垂直を保ちながら、中心孔に北極星を入れ、次に紺色の回転盤を回して、実際の星座の位置に合わせればOK。この星時計では、北斗のマスの先端の2星(ドゥーベとメラク)を結ぶ線が時針になっており、その指し示す数字が現在の時刻です(目盛りは午後6時から午前6時まで、反時計回りに振られています)。

(画像は1月3日、午後8時半の星座位置。北極星からこぐま座がぶら下がり、カシオペヤ座は北極星の左上、北斗は右下に位置します。)

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よくよく考えると、この星時計は、普通の星座早見の北極星付近を拡大しただけのもので、普通の星座早見盤を星時計に使うこともできるわけですが、関係部分を拡大した分、こちらの方が使い勝手が良いのが味噌です。

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ボーイスカウトのキャンプとかを除けば、これを実用にする現代人はいないでしょう。でも、持ち運びのできる時計がなかった頃は、昼間の日時計と併せて、なかなか重宝されたものだそうです。

(この項つづく)

ネズミの星2020年01月01日 07時29分03秒

新年明けましておめでとうございます。
あっというまに1年が過ぎ、干支もイノシシからネズミにバトンタッチです。

(イノシシ頭骨(奥)とマウスの全身骨格(手前))

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子年ということで、ネズミに関する星の話題がないかな…と思いましたが、どうもネズミの星座というのはなさそうです。(さっき検索したら、尾っぽの長いネズミのような形をした「マウス銀河」というのが出てきましたが、もちろんこれはごく最近ネーミングされたものでしょう。)

でも、日本にはちゃんと「子の星(ねのほし)」というのがあって、これは誰もが知ってる星です。十二支を方位に当てはめると、「子」は真北になるので、子の星とはすなわち北極星のこと。(真北の「子」と真南の「午」を結ぶのが「子午線」です。)

野尻抱影によれば、これは青森から沖縄まで全国的に広く分布する名前で、渡辺教具の和名星座早見盤(渡部潤一氏監修)にも、ずばりその名が載っています。

(元旦22時の空。中央上部に「ねのほし」)

「子の星」の名が、かくまで広く普及しているのは、漁師や船乗りにとって、それが操船上不可欠な目当てとして重視されたからでしょう。

その光は、決してまばゆいものではありません。それでも波立ち騒ぐ海をよそに、常に天の極北に座を占め、人々の指針となる姿は実に頼もしい。
今のような混乱した世の中にあっては、そうした存在を、人間社会にも求める気持ちが切です。

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さあ、新しい年への船出です。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

南の空を想う2019年02月27日 09時56分47秒

時代が平成に替わった1989年、沖縄の地元出版社である「むぎ社」から、沖縄用の星座早見盤が発行されています。

(狩野哲郎(著)『沖縄県版学習星座早見セット』)

これは、私が持っている星座早見盤の中でも、その夜空の範域が非常にローカルで、ピンポイントであるという点で、かなり特徴的なものです。著者の狩野氏は、当時、本島北部にある国頭(くにがみ)村立辺士名(へんとな)小学校の先生をされていた方だそうで、その辺もローカルな香りに満ちています。

那覇の緯度は北緯26度。
東京の北緯35度から遠いのはもちろん、鹿児島の北緯31度と比べても、さらに5度南に寄った土地ですから、本土の早見盤はそのままでは通用しがたく、こうした教育目的の早見盤が必要となるわけです。(ちなみに、この本は「定価800円」となっていますが、奥付には「学納価500円」とあって、学校で共同購入することを念頭に置いた出版物のようでもあります。)


肝心の早見盤は、この本文12ページの薄い冊子体の本の裏表紙に付属しています。
使い方は当然ふつうの早見盤と同じですが、違うのはそこを彩る星空です。

(10月1日午前0時、11月15日午後9時頃の空)

南国沖縄の海辺に立って、さらに南に目をやれば、北辺に住むヨーロッパ人の視界には入らなかった、「つる座」や「ほうおう座」が悠然と羽ばたいているのが見えます(いずれも星座として設定されたのは16世紀末)。その脇には、海と空を結ぶようにエリダヌスが悠然と流れ、さらにその先端には、アラビア語で「河の果て」を意味するアケルナルがぼうっと輝いています。


そして、7月の宵ともなれば、北十字(はくちょう座)から南十字までを一望に収め、銀河鉄道の旅を追体験することができるのです。

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アームチェアー・アストロノマーよろしく安楽椅子に腰かけて、こんな風に想像するのは、実に甘美なひとときです。しかし、その美しい空の下で現に行われていることは、甘美さとはおよそ程遠い醜悪なものです。

訳知り顔に日米と東アジアの政治力学を振り回す人もいますが、仄聞するところ、辺野古の工事に関しては、政治力学の問題だけでなしに、大きな利権が渦巻き、例によってその渦中には安倍氏とその取り巻きが蟠踞しているんだ…などと聞くと、人間の業の深さを嘆くほかありません。

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こうしている間にも、空の上でジョバンニは「たったひとりのほんとうの神さま」について思いを凝らし、「ほんとうのさいわいは一体何だろう」と親友に問いかけています。もちろん、ここに唯一絶対の正解はないでしょう。問われたカムパネルラにしても、「僕わからない。」とぼんやり答えるのみです。

そして、分からないことにかけては、私もカムパネルラと同様ですが、でも、こんな地上の醜状は、「ほんとうの神さま」とも、「ほんとうのさいわい」とも、はなはだ遠いものであることだけは確かに分かります。

世界最大の星座早見盤2018年06月27日 20時50分54秒

さて、そろそろ地上の花から天上の花に話題を戻します。
うっかり忘れそうになりますが、そもそも「星のおもちゃ」の話題を書いている途中で、おさる計算機やギッシングの話題になったのでした。
おもちゃの話に戻る前に、肩慣らしに星座早見盤をめぐる話題をひとつ。

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以前、「世界最小の星座早見盤」という記事を書いたことがあります。

世界最小の星座早見盤(前編)

当然、世界最大の星座早見盤は何か?という疑問が続きますが、それについては書いたことがありませんでした。でも、大きな星座早見盤自体は何度か登場しています。

たとえば、フランスのカミーユ・フラマリオンが監修して、19世紀末に出た早見盤は、 56cm 四方という大きさを誇っていました。


さらに、上の記事のコメント欄で、「パリの暇人」さんから、フランスの Haguenau による直径約 61cm という巨大な早見盤(1830年代)や、さらに完成品ではないものの、フランス製の早見盤用星図(19世紀)に、直径約 68cm という大物があることをお知らせいただきました(いずれもパリの暇人さんご自身のコレクションの一部)。

それらには及びませんが、手元の品としては、ドイツのフォン・リトロー(Joseph Johann von Littrow、1781-1840)の『天界の驚異(Wunder des Himmels)』の1910年版――この本は、著者の死後も他の人が改訂を続け、長く版を重ねました――の巻末付録に、直径 52cm という早見盤用星図が付いていることにも触れました。


さらに、日本に目を転じると、京都のLagado研究所の淡嶋さんが、アンティーク商売の傍ら営まれているゲストハウスに飾られている、昔の理科教材とおぼしい早見盤があります(昭和30年代?)。その正確な大きさは聞き漏らしましたが、おそらく 7~80cm 四方はあろうかという大物で、これまでのところ、これが星座早見盤の暫定世界王者でした。
 

   ★

しかしです。
ついにその記録を上回る大物が名乗りを挙げました。それがこちら。


どうです、唖然とするほど大きいでしょう。その直径は人の背丈ほどもありますから、おそらく直径 180cm 内外。現時点では、文句なしの世界王者です。

これは1997年に、イギリスのBBCが開局75周年を記念して作った絵葉書で、写っているのは、天文啓発家として名高いパトリック・ムーア氏(1923-2012)の壮年期の姿です。


この1997年というのは、BBC開局(1922)75周年であると同時に、ムーア氏がプレゼンターを務める名物番組「Sky at Night」が、放映開始40周年を迎えた年でもあり、絵葉書はそれを記念する意味もあったようです。

ちなみに、この星座早見盤はフィリップス社のヴィンテージ早見盤(仮称「ラウンドタイプ」→こちらの記事を参照)を、そのまま大きくした姿をしています。もちろん正規品ではなくて、ディスプレイ用に、あるいは番組用に特注した品でしょうが、それにしても大きいですね。

飛行機から見た星(後編)2018年01月23日 21時30分39秒

この星座盤は、4層(4ページ)から成っています。

まずは星座盤のページ。丸い星座盤本体は、普通の星座早見同様、日にちと時刻を合わせられるよう、真ん中の鋲留めを中心にぐるぐると回転します。

(北天用星図)

その次に、星の見える範囲をぐるっと切り抜いたマスクページが来ます。
日にちと時刻をセットした星座盤に、マスクページをかぶせれば、その日・その時、空に見える星たちが、そこに表示されます。


マスクページと星座盤は、さらに南天用のものが1セットあるので、合計4ページというわけです。


ちなみに、この星座盤が表現しているのは、北緯50度(ヨーロッパ北部とアメリカ中北部)と、南緯35度(オーストラリア南部、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチン)から見た空です。厳密には、そこから外れるとマスク盤の「窓」の形状を変えないといけないのですが、著者のチチェスターは、「南緯35度~北緯70度の範囲ならば実用に差し支えない」と書いています。

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ところで、前回、この星座盤を見て大いに感ずるところがあった…と書きました。
それは、星座盤の裏面解説で「星の覚え方」という解説を読んだときのことです。


チチェスター大尉は、こんな手順を推奨しています(以下要旨)。

(1)まず南北両天の「マスターグループ(MASTER GROUP)」を覚えなさい。
(2)次いでマスターグループに付随する「キーグループ(Key Groups)」を覚えなさい。
(3)次いでそれらに属する航行指示星(navigation stars)を覚えなさい。
(4)さらに、それ以外の航行指示星を、最寄りのキーグループとの位置関係で覚えなさい。

ここでいう「マスターグループ」や「キーグループ」というのは、通常の星座とはちょっと違います。

北天でいうと、「北斗グループ(The Plough Group)」がマスターグループになります。北を見定める一番の手掛かりというわけでしょう。この北斗グループには、北斗七星と、ひしゃくの柄を伸ばした先にあるアークトゥルス(うしかい座)やスピカ(おとめ座)が含まれます。

さらにキーグループに挙がっているのは、「大鎌グループ(The Sickle Group、しし座のいわゆる「獅子の大鎌」の星々)」、「ペガススグループ(The Pegasus Group)」、「オリオングループ(The Orion Group)」、「北十字グループ(The Northern Cross Group、はくちょう座の「北十字」を中心とした星々」といった区分けです。

例えば「ペガススグループ」は、星座のペガスス座に限らず、その周辺に広がる一大グループで、ペガスス座の大四辺形と、その上底を伸ばした先にあるミラク(アンドロメダ座)、ミルファク(ペルセウス座)、その近傍に光るハマル(おひつじ座)、アルゴル(ペルセウス座)、四辺形の向って右辺を南に延長したフォーマルハウト(みなみのうお座))、さらにペガススの北に固まるカシオペヤ座のWを含んでいます。

ここでもう一度同じ星図を掲げます。


チチェスター大尉の説明を読み、この星図を眺めているうちに、「うーむ、これこそ現代の我々に必要な星座早見盤ではあるまいか…」と思ったのが、今回私が深く感じたことです。

(星座盤の星名一覧)

通常の星座早見盤に比べて、1等星と2等星の一部しか載っていないこの星図は、いかにもスカスカです。でも、最近の都会地で見上げる空は、ひょっとしたら、これよりもっとスカスカです。街中で暮らす子供たち(大人も)に必要なのは、実はこういう星座早見であり、そして大尉が推奨する星の覚え方なんじゃないかなあ…と思ったわけです。

そしてまた、星の乏しい環境では、星座名を覚えるよりも先に、恒星の固有名を覚える方が簡単だ――少なくともリアリティがある――ということも同時に感じました。「本当はあそこに星があって、あっちの星と線で結ぶとこんな形になって…」と、見えない星座のことをあれこれ考えるのは侘しいものです。だったら、いっそありありと目に見える恒星の名を先に覚えてしまえ…という、これはちょっとしたコロンブスの卵。

   ★

結論として、この星座盤は昔の飛行機乗りだけではなく、現代を生きる我々にピッタリの、チチェスター大尉からの素敵な贈り物じゃないでしょうか?

飛行機から見た星(前編)2018年01月21日 08時47分40秒

星座早見盤は、もちろん天文趣味人が星見の友に使うものですが、昔の早見盤を探していると、それとはちょっと違う性格のものに頻繁に出会います。

それは飛行機乗りのための星図盤です。
その方面にうといのですが、おそらく1950年代、朝鮮戦争のころから、飛行機の世界では電波航法が主流となり、天文航法はすたれたように思います。でも、それ以前は、夜間飛行の際、星を手掛かりに方位を見定めたので、飛行機乗りには星の知識と専用の星図盤が不可欠でした。

eBayによく出品されているのは、主要な星を印刷した円盤と、緯度に応じた方位グリッドを印刷したプラ板を重ねて用いるタイプの品です。

(eBayの商品写真を寸借)

星と飛行機に縁のあるもの…という点では、一寸気になりましたが、さすがに本来の蒐集フィールドとは遠いし、プラスチックの質感も気に入らないので、これまで手にすることはありませんでした。

でも、先日こんな素朴な紙製の星図盤を見つけました。


■Francis Chichester
 The Observer’s Planisphere of Air Navigation Stars
 George Allen & Unwill Ltd. (London), 1942.

著者のフランシス・チチェスター(1901-1972)は、手練れのパイロットにして天文航法の専門家。星図出版当時は、英国空軍志願予備軍(Royal Air Force Volunteer Reserve)に所属する空軍大尉でしたが、年齢と視力の関係で、大戦中、実戦に就くことはありませんでした。そして、戦後は空から海に転身し、ヨットマンとして後半生を送った人です。(英語版Wikipedia「Francis Chichester」の項を参照)

   ★


で、この飛行機乗り向けの簡便な星図盤を眺めていて、大いに感ずるところがあったので、以下そのことを書きます。

(この項つづく)

小さな星座早見盤2017年10月11日 18時52分47秒

ドイツ南部、スイスとの国境・ボーデン湖に近いところに、ラーベンスブルクの町があります。この小さな町で、主に児童書を手がけていたのが、「オットー・マイヤー社」。

同社は今も健在で、最近はボード・ゲームやパズルが主力商品だそうですが、そのかわいらしい旧社屋は、現在「ラーベンスブルク博物館」に改装されています。

(オットー・マイヤー社・旧社屋。独語版wikipediaより)

この小さな町の、小さな出版社が出した、小さな星座早見盤を見つけました。

(使用説明書と、早見盤が入った外袋)


袋の中には縦長の早見盤本体が入っています。
なぜ縦長かといえば、この小さな星座早見を、いっそう小さくするために、本体が二つ折りになっているからです。


(広げたサイズは、約12.5cm四方)


星図は4等星まで表示。作られたのは1880年代と思います。

当時、こんな星座早見をポケットにしのばせた小さな天文家が、あちこちで星を眺め、夢と想像力だけは大きく――無限に大きく――膨らませていたのでしょう。
そう思うと、この早見盤がいっそう愛らしく、いとしく思われます。

「星座早見表」のこと(附・梶井基次郎の見た星)2017年10月04日 21時21分36秒

月さやかなり。
枝野氏の曇りなき決断を歓迎し、支持します。

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さて、本題です。
今さらですが、「星座早見」というのがありますね。あるいは「星座早見盤」とも。


その一方で「星座早見表」という言い方もあって、それを耳にする度に、「あれはどう見ても‘表’じゃないだろう」と、些細な点がこれまで気になっていました。

   ★

「年齢早見表」とか、「料金早見表」とか、はたまた「麻雀点数早見表」とか、「○○早見表」と称するものは世間に多いので、「星座早見表」もそれに引きずられて生まれた名称だろうと思うのですが、一体いつからある言い回しなのか?…と思って、Googleの書籍検索に当ってみました。

すると、長谷川誠也(編)『新修百科大辞典:全』(博文館、1934)という、戦前の辞典にも堂々と出ているのを発見。


辞典に載るぐらいですから、これは半ば公に認められた表現といってよく、今さらやかましく「言葉とがめ」をするには及ばないと思い直しました。

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そもそも、「表」という字を漢和辞典で引くと、「形声。もと、衣と、音符毛とから成り、下着の上に着てひらひらする「うわぎ」、ひいて「おもて」「あらわす」意を表す」と書かれていました。すなわち「表」の原義は「アウターウェア」で、そこから公にする」「明白にするといった意味が生じ、さらに転じて「めじるし」「文書」の意味を持つに至った…というわけです。

どうも「表」というと、「図(Figure)」に対する「表(Table)」、すなわち数字が縦横に並んだエクセルシートのようなものをイメージするため、そこに違和感があったのですが、「表」という字は、本来もっと意味が広くて、例えば「儀表」といえば「お手本となる規則」、「時表」といえば「日時計とするために立てた石柱」の意になります。

とすれば、「星座早見表」も、「星座をすばやく見つけ出すための目印」といった程度の意味に取ればいいのかもしれません。

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ところで、グーグルの書籍検索は、上記の辞典よりも、さらに古い用例も教えてくれます。

すなわち、梶井基次郎の短編「冬の日」
昭和2年(1927)に発表された作品です。
内容は、結核で肺を病んだ青年の、暗い倦怠に彩られた心象を延々と描いた私小説風の作品です(梶井自身も結核を患っており、本作発表の5年後(昭和7年)に没しています)。

その中に、次の一節があります。

 「彼が部屋で感覚する夜は、昨夜も一昨夜もおそらくは明晩もない、病院の廊下のように長く続いた夜だった。そこでは古い生活は死のような空気のなかで停止していた。思想は書棚を埋める壁土にしか過ぎなかった。壁にかかった星座早見表は午前三時が十月二十何日に目盛をあわせたまま埃ほこりをかぶっていた。夜更けて彼が便所へ通うと、小窓の外の屋根瓦には月光のような霜が置いている。それを見るときにだけ彼の心はほーっと明るむのだった。」

そこに登場する星座早見は、主人公が病苦に侵される前の「古い生活」の象徴です。新鮮な思想に憧れ、遥かな星空を眺めた、かつての若者らしい生気は失われ、深更に目が覚めても、今や天上の星よりも、地上の霜だけが慰めだ…というのです。

分かるような気もします。でも、いかにも切ないですね。
当時、いかに多くの若者が、結核という国民病で斃れたかを思い起こすと、改めて慄然とします(その後、さらに多くの若者が戦で命を落としたことについても又然り)。


10月20何日、午前3時。


かつて作者・梶井基次郎が見たであろう星空。

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上の写真は、いずれも三省堂版「星座早見」(日本天文学会編)の一部。
明治40年(1907)に出た後、昭和に至るまで版を重ねたロングセラーで、当時商品化されていた星座早見は、三省堂版のみですから、梶井が見たのもきっとこれでしょう。

さわやかな星座早見盤2017年03月01日 06時21分30秒

駄菓子的な天文アイテムといえば、この星座早見盤は、さしずめ薄荷味のお菓子。

(右側は早見盤が入っていた外袋)

シュトゥットガルトの老舗教育出版社、フランク出版(Franckh’sche Verlagshandlung、現・フランク・コスモス出版)が売り出した星座早見盤。

時代はさして古いものではありません。付属の説明書によれば、初版は1965年、手元のものは1974年に出た第8版です。


地平線を示す楕円の周囲に、地上の景色を描きこむのは、他にも例がありますが、窓自体が凹凸の不整形になっているのは、ちょっと面白い工夫です。
それに何といっても、この色合い。上品なペールブルーと純白のコントラストが、とても爽やかな印象を生んでいます。


洒落たコートを羽織った男が、じっと見入るのもむべなるかな。


裏面はこんな様子。


星座早見というのは、星を描いた「星図盤」と、その時見える空の範囲を示す「地平盤」の組み合わせから出来ており、北極星を中心に盤をクルクル回すことで、星空をシミュレートするわけですが、この製品は、地平盤から南北に伸びた「突起」の隙間を星図盤が回るようになっており、星座早見としてはわりと珍しい構造です。

(ヘルムート・シュミットさんというのは、たぶん元の持ち主)

さらに、星図盤をよく見ると、通常の「日付目盛り」の外側に「赤経目盛り」があり、最外周に「黄道十二宮」が表示されているのも、細かい工夫です。

黄道十二宮については、占星術に関心のある人以外、あまり使いでがないかもしれませんが、現在の黄道十二星座とのずれ具合から、地球の歳差運動に関心を持ったり、天文学の長い歴史に思いをはせる役には立つでしょう。

洒落たデザインばかりでなく、教育的配慮も行き届いた、これはなかなかの佳品です。

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…というようなことを書いて、事足れりとしてはいけないのでした。
実は、この爽やかな星座早見盤は、単に爽やかなだけの品ではありません。

先日、部屋の灯りを消して、ふと机の上を振り返ったら、この星座早見が微かにボーっと光っていて、一瞬ぎょっとしました。

(私のカメラは暗所では無力なので、画像をいじってコントラストをMAXにしました)

「え?!」と思って、読めないドイツ語を辞書で引いたら、この早見盤のタイトル、「Nachtleuchtende Sternkarte für Jedermann」というのは、「一般用夜光星図」の意味なのでした。


他にも夜光塗料を使った星座早見盤の例はあるでしょうが、それと意識せずに見せられると、やっぱりちょっとびっくりします。そして、「うむ、よくできている」と、ここで再び膝を打ったことは、言うまでもありません。確かにこれは佳品と呼ぶに足る品です。

(さらなる暗闇の中、鬼火のように燃える星たち)