カテゴリー新設…星のめぐりに「時」を知る2020年08月19日 09時33分05秒

夏休みを利用して、ブログでこれまで不便を感じてきた点に、修正を加えることにしました。いわば、自らに課した夏休みの宿題です。

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不便というのは、天文学と不可分である「暦」の話題が、独立のカテゴリーとして存在しなかったことです。現状でもカテゴリーが多すぎて、自分以外の人には(自分にとっても)何だか訳が分からないと思うんですが、これはどうしても欲しかったので作りました。

新カテゴリー「暦・編暦・改暦」がそれです。
時代や国を問わず、暦に関する話題はすべてここに入れることにします。

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そしてもう一つ、これも今まで無かったのが不思議ですが、「暦」と縁の深い「時計」のカテゴリーを新設しました。ロングスパンの時を知る「暦」と、ショートスパンの時を知る「時計」は表裏一体だからです。

図式的にいえば、天体の年周運動と月の満ち欠け(=地球と月の公転)の定式化が「暦」であり、天体の日周運動(=地球の自転)のそれが「時計」です。それらを目指して古代の天文学は発展した…と、天文学史の本を開けば、一様に書かれています。


実は、これまでは「アクセサリ・ウォッチ」として、腕時計だけはアクセサリと抱き合わせでカテゴライズされてたんですが、私が持っている腕時計は、どれも宝飾品とは程遠い品なので、この際、置時計や掛け時計、それに天文時計や日時計とひっくるめて、シンプルに「時計」と呼ぶことにします。(アクセサリの方も、単に「アクセサリ」と純化しました。)

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昨日の天文スライドも、もうちょっと工夫すると、立派な「星時計」になりますね。実際、既存の星時計(ノクターナル)は、1日に空を1回転する北斗七星の動きを見て、時刻を知る仕組みのものが大半です。

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来月の予定を書き込むカレンダーや、会議の終了を気にして目をやる腕時計。
それらと天体運行の関係は、ややもすると意識の表面から遠のきがちですが、一皮めくれば「ズブズブの関係」と言ってもよいです。

太陽シミュレーター2020年01月08日 21時12分34秒

先日来、星が空をぐるっと一周する時間は23時間56分だという話をしています。
では、改めて24時間は何を意味してるのか…といえば、こちらは太陽が空を一周する時間です。そもそも太陽の日周運動を基準に、昔の人が編み出したのが、24時間制です。

ただ、これも厳密に言うと、太陽の日周運動にも季節による遅速があって、常に24時間というわけではありません。平均すると24時間ということです(地球の楕円軌道や地軸の傾きのせいです)。

そうした太陽の動きを、いちばん単純に模した時計を見つけました。


24時間表示の1本足の時計。時針のみで分針はありません。
これ以上ないというぐらいシンプルな構造ですが、これを見ていると、いろいろ考えさせられます。


真ん中を水平に区切る境界は大地です。
大地より上に太陽があれば昼、地面の下に沈めば夜で、それが太陽と月の絵でシンボライズされています。

そして、太陽の動きを表現するのは、この針の動きそのものです。
この時計の中の世界では、毎日朝6時に日が昇り、12時に南中し、18時に日没を迎えます。

実際、赤道付近や、日本でも春分や秋分の頃は、こんな風に太陽が動くわけで、太陽は天然の巨大な時針であり、太陽の動きを模して時計が生まれたことが、これを見ると素直に納得できます。

でも、ここから先はどうか?
この単純なからくりを、さらに正確な太陽シミュレーターとするには、どこを改良すればよいのか?…ということになると、話は途端に難しくなります。私にも何をどうればいいのか分かりませんが、その試みは、たぶん古代の天文学の発展のあとをなぞることになるでしょう。


ちなみに、メーカーはスヴァールバル社(Svalbard Watches Ltd.)。
タックス・ヘイヴンの関係で、キプロスが会社所在地になっていますが、実際の本拠はイギリスのようです。

されど4分2020年01月07日 06時37分36秒

そういえば、以前妙な時計を買いました。



ご覧のとおり詳細な星座早見盤を組み込んだ、なかなか星ごころに富んだ時計なんですが、要は中国で作られた、アストロデア(シチズン)の‘ぱちもん’です。

(左がアストロデア。アストロデアのことは、こちらから3回シリーズで書きました。)

これのどこが妙かというと、その星座盤のつくりです。
この星座盤はただの見かけ倒しではなく、確かに自動でゆっくり回転しており、そこは立派なのですが、その回転周期は、実際の星空の23時間56分ではなく、24時間ちょっきりです。

これだと何か月経っても夜空の景色は変わらず、同じ星空を眺め続けなければいけません。そのため、星座盤の位置をときどき手動で調整しなさい…という指示が、説明書には書かれています。

何だか変だなあと思います。
購入する側も釈然としないし、作り手側の意識としても、不全感が残るんじゃないでしょうか。いかにも作り切ったという感じがありません。とはいえ、背に腹は代えられず、きっとこの4分差を組み込むと、コストがえらくかかるのでしょう。

たかが4分、されど4分。

繰り返しになりますが、この4分の差は、地球の公転が生み出しているものです。
この1日たった4分の「努力」が、つもりつもって季節の変化を生み、頭上では星座が移ろい、地上では雪合戦をしたり、スイカ割りをしたりすることになるわけですから、ましてや1日5分も努力すれば、腹筋が割れたり、英語が話せるようになったり、資格試験を突破できるのは当然だ…と主張する人がいるのも、うなずけます。

たかが4分、されど4分。
そのことを問わず語りに教えてくれるのが、この時計のいわば「徳」なのかもしれません。

(購入時の商品写真)

星時計(4)2020年01月06日 06時54分12秒

一定の品質のものを、安価に安定的に供給するのも立派な技術ですから、ヘミスフェリウム社やアンティクース社を貶める必要は全くありません。とは言え、その製品はやはり土産物的な色彩があって、「本物」とは懸隔があります。

そうしたリプロメーカーとは一線を画すのが、スイスのアストロラーベ作家、Martin Brunold の衣鉢を継ぐ、ドイツのクロノス工房です(CHRONOS-Manufakturhttp://www.chronos-manufaktur.de/en/index.html)。

彼らは製品に古色を付けることを一切しません。彼らが作っているのは、「懐かしのリプロ」ではなく、「現代における本物のアストロラーベ」だからです。だからこそ、その製品はエレガントで美しい。ちょっと大げさに言うと、両者の違いは、観光地で売っている模造刀と、現代の刀工が鍛えた日本刀の差だ…というと、そのニュアンスをお分かりいただけるでしょうか。

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そのクロノス工房のノクターナルがこちら。


上述のMartin Brunold の設計になるもので、1520年ころのオリジナルを元に、新たに計算し直した目盛りを刻んであります。


これも実際に使うときは、取っ手を下にして、垂直に立てて使います。

この品で特徴的なのは、目当ての星がこぐま座の「コカブ」である点、そして最外周の目盛りは十二宮を表しているので、月日で合わせるには、更にその内側の各月の三分線(数字は書かれていません)を基準にしないといけない点です。

それ以外の操作法は、これまでの記事の内容から、贅言不要でしょう。

(ノックス・ポインタは4月7日頃、こぐま座の位置は午後8時を示しています。なお、ノックス・ポインタの他に、8時のところのギザが一寸飛び出しているのは、おおぐま座用です。おおぐま座で測時するときは、こちらを日付に合わせます。)

(木製台座付き)

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…というわけで、手元のノクターナルを一通り眺めてみました。
ノクターナルはわりと単純な器具だと思いますが、それでもここまで書いて、ようやく理解できたことも多いので、やっぱり書けば書いただけのことはあります。

(この項おわり)

星時計(3)2020年01月05日 08時51分52秒

今回の一連の記事は、我ながらかなりくどい感じがします。
自分でも分かってなかったことを、ひとつひとつ確認しながら書いているからで、どうにもやむをえません。

今日はアンティクース社のノクターナル。


アンティクース社のノクターナルは、付属の解説書を見ても、オリジナルの記載がありませんが、やっぱり16世紀あたりの品にモデルがあるのでしょう。
下の出っ張りは「持ち手」で、使うときはこの向きに立てて使います。

(付属解説書より)

このノクターナルの特徴は、おおぐま座α、β星の「ドゥーベ、メラク」以外に、こぐま座β星の「コカブ」や、カシオペヤ座α星の「シェダル」を使っても時刻が測れるようになっていることです。そのため、真夜中を示すノックス・ポインタの代わりに、3星座に対応した3つのポインタが、羽状に突き出ています。

(上に突き出ているのはおおぐま座、左側はこぐま座用のポインタ。画面の外にカシオペヤ座用のポインタもあります。)

2つの星を使う分、ドゥーベとメラクを目当てにするのが、たぶん最も精度がいいはずですが、観測条件によっては、建物や樹木、あるいは雲に隠れて、思うようにいかない場合もあるので、こういう工夫が求められたのだと思います。

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使用法は、まず3つの目当ての内、どれを使うかを決めて、そのポインタを外周の日付目盛りに合わせます。次いでハンドルを回して、そのエッジを目当ての星に合わせ、時刻盤の数字を読み取る…という操作法は、他のノクターナルと共通です。


昨日と同じく1月4日・午後9時に、おおぐま座で時を測ったと想定して、目盛りを合わせてみました。十二宮の内側の数字が時刻目盛です。当たり前ですが、昨日の画像↓とほとんど同じ配置になります。


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ここまでは特に問題ないでしょう。でも、この品には時刻目盛の内側にさらに目盛があって、1~29の数字が刻まれています。


目盛には小さなつまみが付いていて、「Index Lunae et Aspectuum Plan」と書かれています。当然、これは月齢を意味しているのでしょう。でも、この部分の使い方が、解説書を見てもさっぱり分かりませんでした(負け惜しみじゃありませんが、この解説の英文はかなり怪しげです)。


ハンドルをグルグル回すと、その付け根にある円孔にムーンフェーズが現れ、例えば23の位置に合わせると、確かに下弦の二十三夜月が見えます。

でも、それが星時計とどう関係するのか、そして、つまみに書かれた後半部分「惑星のアスペクト(Aspectuum Plan[etarum?])」は、一体どこに表現されているのか、たぶん占星術と関係するらしい、このパーツの用法は今のところ謎です。

(この項さらにつづく)

星時計(2)2020年01月04日 14時28分09秒

アストロラーベや、四分儀、八分儀、あるいは古い日時計とか、昔の測器や航海用具にロマンを感じる人は多いようで、そういう人向けに、お手頃価格でリプロを作っているメーカーがあります。まさに需要があるところに供給あり。

いずれもスペイン・マドリードに本拠を置く、ヘミスフェリウム社(Hemisferium)アンティクース社(Antiquus)はその代表です。

両社の製品は、ラインナップも、価格帯も、とてもよく似ているので、どっちがどっちか分からなくなることがあります。それも道理で、両社はもともと同じ会社でした。

1980年代に創業したビジャルコル社(Villalcor, S.L.)が双方の母体。
その後、経営をめぐってお家騒動があったらしく、創業社長のホアキン・アレバロ氏(Joaquín Carrasco Arévalo)が、社を割って2005年に新たに立ち上げたのがヘミスフェリウム社で、残った方が新たに掲げた看板がアンティクース社…ということらしいです。まあ、青林堂と青林工藝社とか、似たようなことはどこにでもあります。

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(左:ヘミスフェリウム社、右:アンティクース社の製品)

ここで両社のノクターナルを順番にみてみます。
まずはヘミスフェリウム社から。

こちらは1568年、フィレンツェのジローラモ・デラ・ヴォルパイア(Girolamo della Volpaia)が製作したものがモデルになっていて、現物は同地の科学史博物館に収蔵されています。


同館のカタログ(https://www.slideshare.net/marcelianyfarias/catlogo-do-museo-galileo)では、p.45にある「目録番号2503」がそれ。何から何までそっくり同じとはいきませんが、何となく雰囲気は出ています。

使い方は、ヘイデン・プラネタリウムの星時計とほぼ同じです。

深夜12時の目盛りに相当するのが、「Media Nox(ラテン語で‘真夜中’の意)」と書かれたポインタで、これは時刻盤たる中円盤と一体化しています(以下、「ノックス・ポインタ」と呼ぶことにしましょう)。

まずノックス・ポインタを、最外周の日付目盛りに合わせます(ただし、改暦のゴタゴタと、ヴォルパイアの依拠した暦本に間違いがあったせいで、このノクターナルを使いこなすには、現代の暦日に38日を加えよ…と、付属の解説書に書かれています)。

(1月4日に使うときは、38日を足して、2月11日にノックス・ポインタを合わせます。)

次いで中心に北極星を入れて、「Horologium Nocturnum」と書かれたハンドルを回し、ハンドルのエッジと、北斗のマスの先端2星を結ぶラインを合わせます。あとはエッジ位置の時刻盤表示を読み取ればOK。

(付属解説書より)

ただし、ヘイデンの星時計と違うのは、ヘイデンの方はダイレクトに現在時刻が表示されているのに対し、このノクターナルの時刻盤は、「あと何時間で深夜になるか」が刻まれていることです。


したがって、上のように「3」の位置に北斗があれば、「あと3時間で24時」、すなわち現在21時であることを意味します。念のため、ヘイデンの星時計や、ふつうの星座早見でも確認すると、1月4日・21時の北斗の位置は、確かにこうなることが分かります。



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ところで、このノクターナルは、中円盤のさらに内側にギザギザのついた小円盤が付属します。


これは、「日没から現在まで何時間経過したか」を知るためのものです。なぜそれが必要かといえば、昔は日没を基準に、「日没後一刻、二刻、三刻…」という時の数え方があったからだそうです。

小円盤の内側には、毎月の上旬と下旬の「日没~真夜中」までの時間が、丸い数表の形で載っています。例えば6月上旬だと「4時間28分」、12月上旬だと「7時間32分」という具合(このノクターナルは、フィレンツェの緯度に合わせて作られています)。

次に読み取った数字と、時刻盤の数字を合わせます(時刻盤の数字は、「深夜までの残り時間」なので、ダイレクトに合わせれば良いわけです)。

(薄赤で囲んだように、1月上旬の「日没~真夜中」時間は7時間20分です。その位置に小円盤のポインタを合わせたところ)

ギザギザの山の中に書かれた「1、2、3…」の数字が「日没後○刻」を示し、1月4日・21時の例だと、ハンドルのエッジの位置から「日没後五刻」と読めます。


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なお、ノクターナルの脇にブラブラおもりが下がっているのは、裏面が日時計(測時四分儀)〔LINK〕になっているので、それ用です。

(裏面)

(この項つづく)

星時計(1)2020年01月03日 19時58分56秒

先日、「子の星(北極星)」のことを話題にしました。
不動の北極星を中心に、24時間でぐるっと空を一周する星たち―。

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まあ、大ざっぱに言えばそうなのですが、厳密に言うとちょっと違います。
北極星は決して不動ではなく、ほんのちょっと動いているし、星たちもきっちり24時間周期で回っているわけではありません。

真夜中に頭上にあった星が、次の日も、次の日も、そのまた次の日も、ずーっと真夜中に頭上に来るのだったら、その星に限らず、真夜中に見える星景色は、毎日そっくり同じはずです。そこには、星座の季節変化の生じる余地がありません。
 
実際には、真夜中に頭上に輝いている星は、23時間56分で再び頭上に戻ります。
ちょっきり24時間後の位置で比べると、次の日には4分だけ先に(西寄りに)進んだ場所に位置することになります。

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これはもちろん、地球が公転しているからです。
地球は自転しながら、同時に同じ向きに公転もしているので、両者の「合成回転速度」は、自転速度(や公転速度)単独よりも、ちょっぴり早くなります(エスカレーターを駆け上がっている人を想像してください)。

こうして、1日に4分、1か月で120分、半年経つ頃には12時間もずれて、かつて頭上にあった星は、今度は地面の真下となり、空を彩る星座はすっかり入れ替わってしまいます。そして1年たつと、ちょうど24時間ずれて、再び懐かしい星が頭上に輝く…というわけです。

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以上のことは小中学校の理科のおさらいです。

上の説明は、太陽や月と同じく、星が「東から昇って西に沈む」イメージで語っています。その方が何となく分かりやすいからですが、これは南向きに空を見上げたとき限定の話です。

北極星周辺の「こぐま座」や「カシオペヤ座」なんかは、そもそも地面に沈まないし、方角で言うと西から東に動いて見える時もあって、上の説明は一寸そぐなわいところがあります。

でも、「星が天を一周する時間は23時間56分」で、「1日4分ずつ天球上の位置がずれていく」という事実は、北の星にも完全に当てはまります。

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これを利用したのが、こぐま座やカシオペヤ座、あるいは北斗七星の位置から時刻を知るための「星時計」です。古くは「ノクタラーベ」「ノクターナル」と呼ばれました。

ある日、ある時刻における、星座の位置は既知ですから、逆に日付と星座の位置が分かれば、そのときの時刻を知ることができます。(原理的には南の星座でもいいのですが、北の星座は、北極星との位置関係から、天球上の位置を見定めやすいので、いっそう便利です)。


上はニューヨークのヘイデン・プラネタリウムが1950年に発行した星時計(ずばり「スター・クロック」とネーミングされています)。

(全体は3層構造)

使い方は至極簡単。まず最外周の日付目盛りに、黄色い回転盤の「12」の位置を合わせます(これは時刻目盛りの基準となる「深夜12時」を表します)。

(1月3日に盤を合わせたところ)

この状態で、東西の水平・南北の垂直を保ちながら、中心孔に北極星を入れ、次に紺色の回転盤を回して、実際の星座の位置に合わせればOK。この星時計では、北斗のマスの先端の2星(ドゥーベとメラク)を結ぶ線が時針になっており、その指し示す数字が現在の時刻です(目盛りは午後6時から午前6時まで、反時計回りに振られています)。

(画像は1月3日、午後8時半の星座位置。北極星からこぐま座がぶら下がり、カシオペヤ座は北極星の左上、北斗は右下に位置します。)

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よくよく考えると、この星時計は、普通の星座早見の北極星付近を拡大しただけのもので、普通の星座早見盤を星時計に使うこともできるわけですが、関係部分を拡大した分、こちらの方が使い勝手が良いのが味噌です。

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ボーイスカウトのキャンプとかを除けば、これを実用にする現代人はいないでしょう。でも、持ち運びのできる時計がなかった頃は、昼間の日時計と併せて、なかなか重宝されたものだそうです。

(この項つづく)

銀色の天空時計2019年06月11日 07時09分47秒

我が家に豪華な金の時計はありませんが、ちょっと素敵な銀の時計ならあります。


銀といっても素材はピューターです。それと天文時計としての機能はないので、仮に「天空時計」と呼んでみました。東西冷戦下の西ドイツ製で、1970年代頃のもののようです。

さして古くもないし、もちろん2,000万円もしませんが(2,000円よりは高かったですが、2万円よりは安かったです)、白銀に輝くこの時計は、その美しいデザインに心惹かれるものがあります。


銀の空には銀の月輪と地輪が巡って時を告げ、


日輪はといえば、背面で銀の炎をあげて燃え盛り、

(正面向って左にオリオン、右におおぐま・こぐま)

側面には銀の星が浮かび、星座を形づくり、


そして、その下を銀の鳥が一心に飛び続けています。
どうです、なかなか素敵でしょう?

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以下、余談。

その鳥の列なりが天空を一周して、彼らは永遠に空を飛び続けているのだ…と気づいたとき、私は言葉にならぬ思いにとらわれました。その言葉にならぬ思いをあえて言葉にすれば、「いのちの哀しさ」といったようなことです。

おそらく、これは時計のデザイナーの意図から外れた、個人的感傷に過ぎないのでしょうけれど、そのときの私に、ズシンとくるイメージを喚起しました。

理由も目的もないまま、ひたむきに時間と空間の中で循環を続ける生命―。
自分もその片鱗に過ぎないとはいえ、なんだか無性に切ない気がします。
ひょっとして、手塚治虫が『火の鳥』で描きたかったのは、こういう思いだったのかもしれません(違うかもしれません)。

金色の天文時計2019年06月10日 07時00分47秒

今日は時の記念日
これは我が国で初めて漏刻(ろうこく、水時計)が使用されたという、天智天皇の故事に由来する日本限定の記念日ですが、ここでは金色まばゆい異国の時計に登場してもらいましょう。

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昨日、つれづれにYouTubeを見ていて、下の動画に行き当たりました。


An Astronomical Table Clock, Augsburg, Circa 1600, on Auction in London

これは、サザビーズ(ロンドン)の2013年6月オークションに登場した、卓上天文時計の宣伝用動画です。ドイツのアウグスブルクで1600年頃に作られたもので、巧みな金属加工技術と、優秀な時計製作術が合体した、まさに逸品中の逸品。

評価額は12万ポンド~18万ポンドと出ていて、今日のレートで換算すると、1,700万円~2,500万円。モノも驚きですが、世の中にはこういうものをポンと買う人がいるんだなあ…というのがまた驚きです。

検索したら、この品はサザビーズのサイトに、その詳細が載っていました。


A gilt-metal quarter striking astronomical table clock, Augsburg, circa 1600

それによると、実際の落札価格は、評価額のちょうど真ん中、15万8,500ポンドでした。同じく日本円に換算して2,184万円也。やっぱりいいお値段ですね。

でも考えてみれば、億ではなくて2,000万円というのは、いくぶん微妙な数字です。普通の勤労者でも、小っちゃなマンションを買うつもりで、バーンと張りこんだら、買えないことはない額。しかもですよ、マンションはいずれ減価償却で、無価値になってしまいますが、この古時計はそんな心配はないのですから、はるかにお得です。

…という風に考えてみたらどうでしょう?
まあ私も含め、先立つものがなければどうしようもないですが、「長屋の花見」よろしく、とりあえず気分だけでもパーッと景気よく行くのはタダですから、梅雨のジメジメをしばし忘れて、夢を膨らませるのもいいんじゃないでしょうか。

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そういえば、金融庁が「老後に備えて2,000万円貯蓄せよ」と言って、批判を浴びました。今や私の脳裏には、アウグスブルクの金時計が一家に一台、国中にずらっと並ぶ光景が思い浮かびますが、確かにそこまでしないと国民の生活が覚束ないというのは、相当危機的な状況です。

国の破綻を告げる漏刻の水は、今も刻一刻したたり続けています。

「それなのに今の政府は…」と、私なら続けたいですが、それに対する反論も当然あるでしょう。いずれにしても、この苦い現実は、各人がそれぞれの立場で、よくよく考えねばなりません。

ルンドの天文時計2019年05月04日 06時43分17秒

ルンドつながりの品。


ルンド天文台のすぐ近くにあるルンド大聖堂の名物、天文時計の絵葉書です。


「ルンド旅行協会」が発行したお土産品で、このてっぺんのダイアルを回すと…


カードの「窓」から、人物像が順繰りに現れるという他愛ないもの。
いわゆる「メカニカル・ポストカード」、仕掛け絵葉書の一種です。

この人物像は、天文時計の出し物である人形行列を模していて、キャプションにその説明が書かれています。

 「有名なルンド大聖堂の天文時計は、1380年頃に作られ、1837年に取り外された後、デンマークの塔時計製作者 Bertram-Larsen と、聖堂建築家 T.Wåhlin の手で、1923年に復元された。三賢王が処女マリアと幼子に礼拝するところを見るため、毎日大勢の見物客が大聖堂を訪れる。時計の演奏は、平日は正午と午後3時、日曜日は午後1時と午後3時に行われる。」

その実際の場面は、YouTubeにもアップされているので、簡単に見ることができます。

YouTubeの当該動画にリンク。演奏は0:48から)

演奏される曲は、「In dulci jubilo(もろびと声あげ)」。

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この絵葉書はごく新しい品だし、取り立ててどうということもないように見えますが、実はなかなか大したものです。

というのも、これは実際に探してみて分かったことですが、天文時計のメカニカル・ポストカードは、有りそうで無いものの一つだからです。以前も登場したストラスブールやプラハのそれを除けば(この両者は山のようにあります)、今のところ、このルンドの絵葉書が唯一のものです。

たしかに天文時計はヨーロッパのあちこちにあります。そして大抵は観光名所ですから、その絵葉書もたくさん売られています。でも、メカニカル・タイプのものは、ストラスブールとプラハの専売特許かと思うぐらい、他所ではふっつりと見かけません。他愛ない仕掛けですから、他にもあっていいはずですが、全く見ません。他愛なさ過ぎるからでしょうか?

まあ、だから何だという類の話ですけれど、モノと付き合っていると、こういうどうでもいいことが、ふと気になります。