機械仕掛けの星占い2017年09月10日 08時43分14秒

星にちなんだ品といえば、これも一寸得体が知れない品です。


黄道十二星座や惑星記号など、占星術にちなんだシンボルが、びっしり描きこまれた紙箱(9.5cm角)。そのサークル上を、黒い金属指針がくるくる回るようになっています。


「MADE IN GERMANY」と英語で書かれているので、ドイツ生まれの英米向け輸出品のようですが、四隅に目を凝らすと、英・米・仏・独でパテント取得済みであることを誇っています。時代的には、1900年前後のものでしょうか。

詮ずる所、座興として星占いをする遊具なのでしょうけれど、その遊び方が全く分からないし、何よりも得体が知れないのは…


裏面にゼンマイを巻くための穴と心棒が見えることです。


蓋を留める金具を外して、そっと箱を開けてみると、果たして中にはゼンマイ仕掛が仕込まれていました。


錆が浮き、埃にまみれた、この歯車がクルクル回る時、運命の指針も回転を始め、厳かに目の前の相手の将来を告げる…。

あまりにも素朴な「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」ですが、これで十分に物理的なランダム生成装置たりえているならば、その託宣力は、熟達した術者にも、おさおさ劣りますまい(ゼンマイに頼らなくても、サイコロを投げても同じことです)。

完璧な偶然にこそ神意が示される…という観念は、時代と国を超えて強固なものがあるでしょうが、この紙箱もその延長線上にある品だと思います。

心のかはず天にきこゆる2017年06月08日 21時29分19秒

全国的に梅雨入り。
でも、昼過ぎには雨も上がり、帰り道には真珠色の月が光っていました。

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今日の「天声人語」は、雨にちなんでの記事でした。

私もカエルが好きです。カエルにどんな感じを抱くかは人それぞれでしょうが、子ども時代の私にとって、カエルは自然そのものの象徴――より正確には、当時憧れた「いなか」の象徴――でした(何と言っても昆虫少年でしたから)。

 砂泥質の水底に光が揺らめく中を泳ぐオタマジャクシの群れ。
 アカガエルの卵塊を手ですくったときの、くすぐったい感触。
 水稲の青と競うトノサマガエルの鮮緑の斑紋。

ウシガエルの大きなオタマジャクシを飼っていた時は、どんなに大きなカエルになるのだろうと楽しみでしたが、何だかカエルに近づくにつれて、だんだん身体が小さくなっていくのでガッカリした…なんていう幼い思い出に共感してくださる方も、きっといらっしゃるでしょう。


そして、これが今いる部屋の隅に座っている蛙です。
いわゆる「教育玩具」なのでしょうが、「4D VISION」という動物模型シリーズの1つ。



きっと3次元の生物も、4次元方向から見れば、こんなふうに中身が丸見えなんだよ…という意味で、「4D」と銘打ったのでしょう。いわば高次元生物の視知覚の疑似体験です。



まあ、これはこれで面白いんですが、やっぱり今の自分は、生き生きとした自然からは遠ざかっているなあ…という反省と、それを寂しく思う気持ちがあります。


(今日の「天声人語」 冒頭)

空の旅(12)…18世紀の天文ゲーム2017年05月01日 22時34分25秒

昨日につづき、今日もアーミラリー・スフィアの姿が見えます。


これが何かというのは、その脇のカードに書かれている通りです。

「1796年、ロンドンで出たカードゲーム、『The Elements of Astronomy & Geography』 。ゲーム形式で天文学と地理学の基礎を学べる品です。時代が19世紀を迎える頃、市民社会の訪れとともに、天文学への関心が急速に高まりを見せました。」

『パリス神父作、精刻美彩の40枚の手札を用いた天文学・地理学入門』

フランス革命後の新しい世界。
それは教育による立身が可能な世界であり、「教育は財産」という観念が普及した時代です。ただし、国民皆教育制度が成立するのは、欧米でも19世紀後半ですから、それまでは家庭教育のウェイトが大きく、そのため教育玩具の需要が高まった時代でもあります。

天文学や地理学は、その恰好のテーマであり、この品もその1つです。


各カードは、表面が図版、その裏が解説になっています。
内容はご覧の通り、かなりお堅い感じで、主に球面幾何学に関する解説が延々と続きます。

果たして、これでどんなゲームを楽しんだのか、ルール解説がないので、ちょっと想像しにくいのですが、お父さんが食後のテーブルで、こういうものを使って親しく語りかけてくれるだけでも、子どもたちにとっては、嬉しく楽しい経験だったかもしれません。




この手の品は、イギリスのみならず、国を越えていろいろ出ています。
上の左側のカードは、昨年夏に池袋のナチュラルヒストリエで開催された「博物蒐集家の応接間――避暑地の休暇 旅の始まり」で展示した、1803年にフランスで出た天文カードゲーム。

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現代に通じる、「ホビーとしての天文趣味」が成立したのは、ちょうど世紀をまたぐ1800年前後のこと…という仮説を私は持っています。

それを生み出した最大の要因は、上に述べたように、フランス革命後の市民社会の到来ですが、フランス革命が天文趣味を生んだ…とまで言うと、ちょっと言い過ぎで、革命前の啓蒙主義の時代から、「アマチュアの科学愛好家」はいましたし、天文趣味もその延長線上にあるのでしょう。

より正確を期して言えば、つまりこういうことです。
啓蒙主義の延長線上に、市民革命があり、教育制度の普及があり、そして天文趣味の誕生もあった―と。

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19世紀以降の天文アイテムは、ことごとく天文趣味の歴史と不即不離の関係にありますが、中でもこの種のゲーム類こそ、その普及の様相を明瞭に物語るものですし、その存在は、通常の「天文学史」の埒外にあって、まさに「天文趣味史」としてしか記述しえないものですから、このブログで取り上げる価値は十分にあります。

天文モチーフのゲーム類については、遠からず、ぜひ独立した話題として取り上げたいと思います。


世は麻の如し2017年02月04日 09時33分01秒

前回の記事の末尾で書いたように、最近は戦争のような日々を送っていますが、報道に接すると、本当に戦争でも起きかねない世のありさまです。

世界は本当にどうなってしまうのか?
どなたかが、「森を育てるのは大変だが、壊すのは一瞬だ」と呟いてらっしゃるのを見て、本当にそうだなと、深く頷きました。

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ルービックキューブのふるさと、ハンガリー生まれの「地球儀ルービック」。
冷戦期、1980年代の品と聞きました。

面白半分でガチャガチャ回しているうちに、完全に復元できなくなってしまいましたが、今の世界も高所から見れば、こんな状況かもしれません。


この国も、果たしてどこに向かおうとしているのか。


ルービックキューブを解くコツは、各面の中央にある不動の「センターキューブ」に注目することだそうで、この地球儀キューブでは、北極や南極がそれに当たります。

「混迷せるときは、まず不動のものに目を向けよ」とか言うと、妙に説教臭くなりますが、まあ、ご高説を垂れるのはパズルを解いてからにしてくれ給え…と言われるのが、この場合オチでしょう。

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一国の宰相を、いやらしいほどアメリカにすり寄らせる。
国民の間に、微妙な空気が流れたところで、彼の最側近が、突如公然と叛旗をひるがえす。それに呼応して、クリーンなイメージの若手が弁舌爽やかに登場し、新たな御輿に担がれ、アメリカ従属脱却と日本再軍備を高らかに宣言し、大喝采を浴びる…。

最近の動きを見ていると、そんな裏シナリオもありはせぬかと、ちょっと疑念に駆られます。

(記事の方は引き続き間欠的に続きます)

小さな星図に思うこと2016年12月13日 21時20分01秒

昨日は吐く息が白かったです。
そして今日は一日冷たい雨。

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「星座早見盤」の意味で「planisphere」を使うのは、ごく一般的な用法ですが、この語で画像検索すると、普通の世界地図もたくさん出てきます。


この語の大元は、ラテン語の「planisphaerium」で、英語圏では「planisperie」の形で14世紀の文献に初登場…というようなことが、ネット辞書を見ると書いてあります。

いずれにしても、「planisphere」は、「plani=plane(平面)」と「sphere(球)」を組み合わせた語ですから、地球にしろ、天球にしろ、球体を平面に投影した図であれば、なんでもプラニスフィアと呼ばれる資格があるわけです。

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ときに、私が持っている中で最も他愛ない星図がこれ。


2×2サイズのレゴタイルです。
これもまあ「planisphere」と言って言えないことはないのでしょう。

(描かれているのは、こぐまとカシオペヤ、それにケフェウス?)

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レゴの世界に星図があることの意味を、さっきまで風呂の中で考えていました。
そして悟ったのは、星図があるからには、レゴの世界には星があり、夜があるに違いないということです。

レゴ人は、恐らく自分たちの宇宙が、レゴという基本単位からできていることを理解しているでしょう。そして、遠方の恒星もレゴの組合せから出来ていることや、そこから大量の光が生まれるメカニズムを、その進化の過程のどこかで解明しているはずです。そうしたメカニズムの存在は、我々の宇宙とレゴ宇宙との物理的な性質の違いを示唆するものです。

一方、レゴの世界にも夜があるという事実は、レゴ宇宙が我々の宇宙と同じく「膨張宇宙」であるに違いない…と、「オルバースのパラドックス」について見聞きした人なら想像するのではないでしょうか。

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忙中閑あり。
暇とは自ら能動的に作り出すものです。

月星合戦2016年11月19日 10時31分42秒

『武州治乱記』、文明十年(1478)八月の条は、古河公方配下の成田顕泰が、扇谷上杉家配下の忍胤継と、当時混乱を極めた関東の覇権をめぐって、大利根の原野で激突した「星川合戦」について記しています。(その覇者・成田氏は、この地に堅固な忍城を築き、その裔・成田長親をモデルにしたのが、あの小説『のぼうの城』。)

ときに、この「星川合戦」の「星川」というのは、すなわち今の「忍川」のことで、「忍(おし)」という姓も、元来は「星」から転じたものです。星氏は千葉氏の流れを汲む氏族ですから、千葉氏一門の習いとして、その紋所は「星紋」でした(星氏ならびに忍氏が用いたのは、主に七曜紋)。

対する成田氏は、「月紋」(月に三つ引両)を用い、月と星の旗指物が一面に入り乱れた「星川合戦」は、別名「月星合戦」とも称され、血なまぐさい中にも、美々しい合戦の状景を今に彷彿とさせます(その様は、行田市郷土博物館が所蔵する「星川合戦図絵巻」に生きいきと描かれています)。

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…というのは、たった今思いつきで書いた、純然たるフィクションです。
そもそも『武州治乱記』などという本は存在しません。

なぜそんな埒もないことをしたかといえば、ひとえに「月星合戦」という言葉を使いたかったからです。実際にそういう合戦があればよかったのですが、なかったので、今作りました。

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さて、これが今日の主役。本当の「月星合戦」の主戦場です。

(ボードの大きさは約20cm角)

「ティク・タク・トゥ」、日本でいう「まるばつゲーム」。
この盤上で、黄色い月と青い星が死力を尽くした大一番(と言うほどでもありませんが)を演じるのです。

売ってくれたのは、アンティークショップというよりも、単なるリサイクルショップで、これもわりと新しい品のように見えますが、でも、これで遊んだ子供たちも、今ではいい大人でしょう。


メーカー名の記載は特にありません。おそらくは売り手の住む、米バーモント州の地元で作られた木工品じゃないでしょうか。ボードは合板ではなく一枚板なので、結構重いです。


戦国絵巻もいいですが、月と星の合戦に流血は似合いません。
ときどき涼しい火花がパチッと飛ぶぐらいが、ちょうど良いです。


【閑語】

安倍晋三氏は、ひょっとして先祖の長州人の血が騒ぎ、かの人物と刺し違える覚悟でニューヨークに向かったのかな…と思ったら、どうもそんなことはなくて、ゴルフクラブをプレゼントして、ニコニコ握手するだけで終わったようでした。
「ふたりはゴルフが好きなんだな」ということは得心できましたが、他のことは皆目わからず、煙に巻かれた思いです。

天文トランプ初期の佳品: ハルスデルファーの星座トランプ(補遺)2016年11月04日 06時46分01秒

今日はオマケの話題。
ハルスデルファーの星座トランプが売られているのを見つけました。
といっても、それは4年前のサザビーズのオークションに登場したもので、現物はすでにどこかの誰かの元に旅立っています。


サザビーズの説明では刊年が1674年となっており、マクリーン氏の本では1656年でしたから、両方正しいとすれば、このトランプは、少なくとも20年近く版を重ねたことになります。(以下、それぞれ「マクリーン本」、「サザビーズ本」と呼ぶことにします。)

サザビーズ本は無彩色なので、パッと見の印象はずいぶん違いますが、画像をズームして仔細に比べると、マクリーン本と寸分たがわぬことが分かります。(サザビーズ本には、星名を表すギリシャ文字がありますが、これは後からペンで書き足したものでしょう。)

サザビーズ本が、マクリーン本と明らかに違うのは、星座絵の上部のスート部分を欠くことですが、サザビーズ本のふたご座のカードの上部には、木の葉のスートの葉柄や、髭文字の痕跡が見られるので、もともとスート絵は確かに存在し、それを誰かが切り取ったことが明らかです。

(マクリーン本(部分))

(サザビーズ本(同)。矢印がスートの痕跡)

その真意は不明ですが、その誰かは、これを遊び道具のトランプではない、純粋な「星座カード」として手元に置きたかったのではないでしょうか。そして、詳細に星名を書き加えたのも彼の仕業であり、彼は高価なバイエルの星図帖は買えないけれど、星座トランプなら何とか買える…という、昔の貧しい星好きだったと空想すると、心に温かいものが通います。

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しかし、この星座トランプ。
販売当時は安かったかもしれませんが、今では相当なことになっていて、サザビーズによる評価額は1万~1万5千ポンド。ポンド安の今でも126万~190万円に相当します。実際の落札額は不明ですが、価格だけ見れば、今や本家・バイエルの星図帖に迫る勢いです。

参考として、サザビーズによる解説を一部引用。

 「極めてまれな17世紀の天文トランプの完全セット。〔…〕他にセットで存在するのは、1991年に、ドイツ・トランプ博物館(Deutsches Spielkarten-Museum)で展示された、シルヴィア・マン・コレクション中のセットが唯一(ただし表題カードを欠く)。ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館には、1枚だけ所蔵されている。」

トランプは、豪華な星図帖のように恭しくしまい込まれるものでもないので、後代に伝わりにくく、後になってみればすこぶる貴重な存在です。(我が家のエフェメラだって、いつかは…と、ひそかに思わなくもないですが、まあ価値が出るのは、さらに300年ぐらい後のことでしょう。)


天文トランプ初期の佳品: ハルスデルファーの星座トランプ(3)2016年11月03日 06時08分03秒

昨日の記事を読み返したら、「ハルスデルファー」という人名を、自分は途中から「ハデルスファー」と書いているのに気づき、修正しました。こういうことが最近多くて、話し言葉だけでなく、書き言葉でも「ロレツが回らない」状態というのはあるのだなあ…と、身の衰えを感じます。最近は「てにをは」も一寸おかしいです。

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さて、ぼやきはこれぐらいにして、昨日のつづき。

(左:へびつかい座、右:オリオン座)

これもバイエルの図そのままです。

余談ですが、これを見てバイエル星図の不思議さを悟りました。
バイエル星図は地球視点――いわゆる geocentric orientation ――で、星の配列は地上から空を見上げたとおりの形に描かれています(つまり、天球儀上の星座のように、左右が反転していません)。

それなのに、星座絵の方は、天球儀と同じく背中向きに描かれています。結果として、天界の住人は左利きが優勢になって、オリオンもヘルクレスも左手に棍棒を持ち、ペルセウスは左手で剣を構えるという、ちょっと不自然な絵柄になっています。

天球儀を見慣れた目には、背中向きの方が星座絵らしい…と感じたせいかもしれませんが、常にお尻を向けられている地上の人間にとっては、微妙な絵柄。(でも、ふたご座、おとめ座、カシオペヤ、アンドロメダは、ちゃんと正面向きです。一方、むくつけき男性陣は後ろ向き。そこには或る意図が働いているようです。)

(左:ぎょしゃ座、右:くじら座)

昨日も述べたとおり、この美しい彩色は、オリジナルのトランプにはなく、復刻版の著者であるマクリーン氏が、自ら施したものです。ただし、版画に手彩色することは、昔から広く行われたので、オリジナル出版当時も、彩色した例はきっとあるでしょう。


本の最後に登場するのは「ドングリの10」。
羽の生えた奇怪な魚が描かれていますが、これは「とびうお座(Volans)」です。
その脇を泳ぐ、これまた変な魚は「かじき座(Dorado)」。

トビウオの方は、変は変なりに言いたいことは分かります。
むしろ「かじき座」の方が、昔から今に至るまで正体のはっきりしない星座で、文字通りカジキを指すとも、本当は全然別のシイラを指すとも言われます(mahi-mahiはハワイの現地語でシイラのこと)。南海に住む巨魚は、ほとんど区別のつけようがなかった時代ですから、それも止むを得ません。むしろ、この星座絵に漂う奇怪さこそ、南の空と海に対する、当時のヨーロッパ人の<異界感>そのものなのでしょう。

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一組の星座トランプも、仔細に見れば、そこにはいろいろな発見があり、大げさに言えば「時代相」を読み取れる気がします。

天文トランプ初期の佳品: ハルスデルファーの星座トランプ(2)2016年11月02日 07時03分53秒

昨日の文章はちょっと舌足らずだったので補足しておきます。
マクリーン氏の『The Astronomical Card Game』という本は、書名からすると、何となく天文トランプ総説のような感じですが、実際には1656年に出たハルスデルファーの星座トランプを、その絵柄とともにひたすら紹介している本です。


上は冒頭に登場する、おひつじ座を描いた、「木の葉のキング」。

ドイツでも、今や英米式のトランプが一般的だと思いますが、本来は「ダイヤ・ハート・クラブ・スペード」の代りに、「鈴・ハート・木の葉・ドングリ」のスートを用いるのがドイツ式。数字の方は、英米式と同じく各スート13枚から成り、このハルスデルファーのトランプも、都合52枚のカードから構成されています。

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ハルスデルファーのトランプの絵柄は、ドイツのヨハン・バイエル『ウラノメトリア』(1603年)の図を踏襲し、それを簡略化したものです。
サンプルとして、「はくちょう座」の図で比較してみます(参考としてモクソンの図も挙げておきます)。

(バイエルの『ウラノメトリア』)

(ハルスデルファーの星座トランプ)

(モクソンの星座トランプ)

並べてみると、モクソンのトランプは、20年前のハルスデルファーのそれよりも、むしろ古拙な感じを受けます。

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17世紀は、銅版による挿絵印刷技術の進歩を受けて、それまで「星表」という、単なる数字の羅列として記録されてきた恒星の位置データが、正確な星図として表現されるようになった時代です。

中でも、バイエルの『ウラノメトリア』は、後続のヘヴェリウス『ソビエスキの蒼穹―ウラノグラフィア』(1687)や、フラムスティード『天球図譜』(1729)、そしてボーデの『ウラノグラフィア』(1801)と並ぶ、<四大星図>の一角を占め、その嚆矢となった金字塔(※)。

(※)四大星図については、以下を参照。
  ■四天王の共通点 http://mononoke.asablo.jp/blog/2014/11/09/

こうした精緻な星図隆盛の余波が、17世紀中葉以降トランプ界にも及び、星座トランプという新趣向を生み出した…ということなのでしょう。

ついでなので、他にもいくつか内容をサンプルとして挙げておきます。

(この項つづく)

天文トランプ初期の佳品: ハルスデルファーの星座トランプ(1)2016年11月01日 07時15分07秒

一昨日の記事で引用した Darin Hayton 氏によれば、17世紀後半、モクソン以外に天文学・地理学に関するトランプを作った人として、地理学者のJohn Adler と数学者のThomas Tuttelの名が挙がっていました。

イギリスで、モクソンが星座トランプを出したのは1676年前後のことですが、その20年前、ドイツでも星座をデザインしたトランプが出ていたことは、わりとマイナーな事柄と思いますので、書いておきます。

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原著者は、ニュルンベルグの法律家・文筆家である、ゲオルグ・フィリップ・ハルスデルファー(Georg Philipp Harsdörfer、1607-1658。そのトランプの表題は、当時の常で以下のように長いものです。

 『Das Astronomische Kartenspiel: Das ist Kunstrichtige Abbidung aller Gestirne am Himmel / oder und unter der Erden: Zu Behuf der lehrgierigen Jugend / Gleich dem Geographischen und Historischen Spielkarten verfasset.』 (天文カードゲーム。即ち天上ならびに地平線下のすべての星に関する芸術的かつ正確な描写。地理学・歴史学のトランプと同様、これを好学の若者に捧ぐ。)

最後の一句は、トランプの教具化に関しては、地理学や歴史学が先行しており、天文学関係のものは、当時新機軸だったことをうかがわせます。

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ハルスデルファーの星座トランプのことは、以下の本で知りました。


Adam McLean(編・彩色)、Paul Ferguson(訳)
 The Astronomical Card Game
 私家版、2011

これは、イギリスのアダム・マクリーンという人が私家版で出した、ちょっと変わった本です。マクリーン氏は、天文学の専門家でも、トランプの専門家でもなくて、錬金術やヘルメス学の研究者であり、これまであまり知られていない古い文献を「アートブックシリーズ」と銘打って、小部数(各50部)出す試みを続けており、上の本はその6冊目に当たります。

出版にあたって、氏は自らの美意識で彩色も手掛け、上に「編・彩色」と記したのは、そういうわけです。(なお、ファーガソン氏による「訳」というのは、オリジナルのトランプ1枚1枚に書かれたドイツ語の説明文を、英訳したものを指し、本書各ページ下部に書かれたテキストがそれに当たります。)

さて、前置きはこれぐらいにして、その中身を見にいきます。

(この項つづく)