真夜中の空2006年01月23日 22時44分06秒

 記念すべき最初の投稿なので、意義深い品を取り上げたいと思います。

 エドウィン・ダンキン 『真夜中の空』
 Edwin Dunkin
 The Midnight Sky: Familiar Notes on the Stars and Planets.
 London, Religious Tract Society, 1891 (Revised ed.)
 424pp, Demy 4to.  (1869年初版出版)

 この本をはじめて見たのは、ウィットフィールドという人の『天球図の歴史』(ミュージアム図書)の中でしたが、文字通り一目ぼれというやつです。この本と出会ったことが、天文古書との付き合いの始まりであり、その意味でも、たいそう思い出深い本です。

 頁を繰ると、「真夜中の空」という書名の通り、深夜12時に見える星空が季節ごとに綴られていきます。完璧な静寂。深い深い闇。その闇を壮麗に貫く銀河。星明かりに照らされて、ほの白く浮かび上がる建物群。まさに夢の都市のようです(現実のロンドンはこれほど美しくはないでしょう)。

 静謐なモノクロの美が極限まで表現された佳品です。

真夜中の空(2)2006年01月24日 06時21分08秒

前の記事はちょっと画像が小さかったですね。
図版部分のアップを載せます。

地上の建物群の中央に小さく見える建物は、グリニッジ天文台。

ちなみに著者のダンキンは、グリニッジの首席助手をつとめた人物です。

アドラー・プラネタリウム2006年01月25日 00時21分43秒


シカゴのアドラー・プラネタリウムは、1930年に創設されたアメリカ最古のプラネタリウム。天文関係の歴史コレクションも充実しており、このブログには縁の深いところです。

この絵葉書は創設間もない頃の夜景。超現実的な雰囲気を漂わせた画面が素敵です。

同プラネタリウムのコレクションは、下記から見ることができます。
http://www.adlerplanetarium.org/history/index.shtml

銀河鉄道の夜(1)2006年01月25日 06時16分44秒

パロル舎版・銀河鉄道の夜(いちばんのお気に入り)
(パロル舎版・銀河鉄道の夜)


一、午后の授業

「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指しながら、みんなに問をかけました。



 「このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。ジョバンニさんそうでしょう。」
 ジョバンニはまっ赤になってうなずきました。けれどもいつかジョバンニの眼のなかには涙がいっぱいになりました。そうだ僕は知っていたのだ、勿論カムパネルラも知っている、それはいつかカムパネルラのお父さんの博士のうちでカムパネルラといっしょに読んだ雑誌のなかにあったのだ。それどこでなくカムパネルラは、その雑誌を読むと、すぐお父さんの書斎から巨きな本をもってきて、ぎんがというところをひろげ、まっ黒な頁いっぱいに白い点々のある美しい写真を二人でいつまでも見たのでした。



 先生は中にたくさん光る砂のつぶの入った大きな両面の凸レンズを指しました。「天の川の形はちょうどこんななのです。…」


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 『銀河鉄道の夜』の有名な冒頭部。「白く銀河のけぶる黒い星図」「博士の書斎」「銀河の美しい写真の載った巨きな本」「光る砂粒の入った凸レンズ型の銀河の模型」…こうしたアイテムに私の趣味嗜好は強くひかれるのです。作品全体のテーマから外れて、細部を偏愛するというのは邪道かもしれませんが。

銀河鉄道の夜(2)2006年01月25日 20時23分09秒

(新潮文庫版・銀河鉄道の夜)

四、ケンタウル祭の夜

 ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考えながら、さまざまの灯や木の枝で、すっかりきれいに飾られた街を通って行きました。

時計屋の店には明るくネオン燈がついて、一秒ごとに石でこさえたふくろうの赤い眼が、くるっくるっとうごいたり、いろいろな宝石が海のような色をした厚い硝子の盤に載って星のようにゆっくり循ったり、また向う側から、銅の人馬がゆっくりこっちへまわって来たりするのでした。

そのまん中に円い黒い星座早見が青いアスパラガスの葉で飾ってありました。

ジョバンニはわれを忘れて、その星座の図に見入りました。

それはひる学校で見たあの図よりはずうっと小さかったのですが、その日と時間に合せて盤をまわすと、そのとき出ているそらがそのまま楕円形のなかにめぐってあらわれるようになって居り、やはりそのまん中には上から下へかけて銀河がぼうとけむったような帯になってその下の方ではかすかに爆発して湯気でもあげているように見えるのでした。

またそのうしろには三本の脚のついた小さな望遠鏡が黄いろに光って立っていましたし、いちばんうしろの壁には空じゅうの星座をふしぎな獣や蛇や魚や瓶の形に書いた大きな図がかかっていました。

ほんとうにこんなような蝎だの勇士だのそらにぎっしり居るだろうか、ああぼくはその中をどこまでも歩いて見たいと思ってたりして、しばらくぼんやり立って居ました。


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 「午后の授業」に続いて、愛らしい天文アイテムの出てくる章。こんなショーウィンドウがあったら、ジョバンニならずとも、釘付けになってしまいそう。これを実物で再現できたらいいですね。

フィリップス社の星座早見盤2006年01月26日 00時28分50秒


フィリップス社(ロンドン)は、老舗として今も営業中。

写真の品は当時の定番だったらしく、アンティーク早見盤としては最も頻繁に見るものです。20世紀初頭(~1920年代ぐらい)のものと言われます。

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1月27日追記:  …という風に、これまで思い、またそう称する業者もいたのですが、裏面の出版物の案内を改めて調べてみたら、私が持っているのは1950年頃の品と判明。意外に新しいものでした。しかし、もっと古い品があるのも確かで、要するに、同じデザインが何十年も息長く使われ続けたということです。(だから流通量も多い。)
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革を模した型押しの黒紙に金文字、紺地に散る白い星。華やかさと同時に渋みを感じさせるデザインは秀逸です。

古い早見盤は、このように4本の「角」があります。今の早見盤は、星図とカバー(楕円形の窓が開いている)の2層構造ですが、昔の早見盤は、正方形の台紙で円盤をサンドイッチした3層構造でした。正方形の台紙をくりぬいて細工した後に残った四隅が角状に見えているわけです。

フィリップス社の星座早見盤(2)2006年01月26日 19時55分03秒


1つ前の記事で紹介した星座早見に似ていますが、こちらはさらに古いバージョンです。

先日オークションサイトで見つけて購入。

回転板の周囲のフリル飾りがいっそう古風な感じを醸し出しています。先日触れた、ウィットフィールドの『天球図の歴史』の中で、ダンキンの本と並んで載っていた品なので、何となくありがた味というか、あこがれていた品です。

トリビアルな話題で恐縮ですが、前の品にならって裏面の出版案内を元に考証すると、1892年から1905年の間に出た品と分かります。
(裏面には、使用法の説明と、自社の出版案内などが書かれています。)

ちなみに、1896年に出た同社の広告中では、この早見盤が「既に25,000部売れた」と自慢しています。なかなかのヒット商品。

George Philip & Sons は、地図の版元として1834年にリバプールで創業。後、ロンドンに拠点を移しました。

Astronomie Populaire2006年01月27日 20時01分02秒


カミーユ・フラマリオンの『一般天文学』

Camille Flammarion
Astronomie Populaire: Description Generale du Ciel, Paris, 1880, C. Marpon et E. Flammarion (ed.), 836p
四折版、カルトナージュ装(版元装丁)

当時ベストセラーとなった有名な本です(初版1877年)。表紙絵も「ふらんす風」の味わいで素敵ですね。ただ惜しむらくは、私はフランス語が●●なので、内容についてはコメント不能です。

とはいえ、フラマリオン(1842-1925)という人には、興味をそそられます。夜学で学びながら、その才を見出され16歳でパリ天文台の職員となった人。偉大な天文学の啓蒙家にして、夢想家。輪廻転生説を信奉し、交霊術に没頭した人。第二帝政からベルエポックにいたるパリを生きた、天文界の奇人ですね。

フラマリオン天文台2006年01月28日 06時40分13秒


昨日に続き、今日もフラマリオンです。

1882年、フラマリオンは彼に心酔する、ある人物からパリ郊外のジュヴィシーにあった土地・建物を寄付され、ここに個人天文台を設立しました。

この城館風の建物(というより、歴史的な城館そのもの)が、フラマリオンの人生後半の活動拠点となったのです。

フラマリオン天文台については、以下に詳しく紹介されています。
http://membres.lycos.fr/juvastro/amis/flam_en.htm

この絵葉書には1905年の消印が押されています。まだフラマリオンは盛んに執筆を続けていた頃。少女の点景が何とも愛らしい。

天文古玩の世界への招待(1)2006年01月28日 07時18分24秒


 すでに天文古玩の一端をご紹介したわけですが、ここで改めて、天文古玩の世界の見取り図を描いてみたいと思います。

ノスタルジックな天文趣味を彩る、こうしたモノたちにそそられる人は、きっと多いと思うんですが、残念ながら日本語の情報は非常に少ないようです。

(私も、海外のサイトを見て、初めて星の世界の楽しみ方にもいろいろあることに気付いた、というのが正直なところです。)
 
イントロダクションとして、これから何回かに分けて、1つのコラムをご紹介します。

アメリカ東部のマサチューセッツ州に住む天文家、リチャード・サンダーソン氏の連載コラム「天界散歩(Celestial Wanderings)」の一節です。

(原文は、スプリングフィールド・ジャーナル紙、2001年1月25日号に掲載。以下はサンダーソン氏の許可を得て翻訳転載。文中で紹介されている各社の連絡先は省略。)

 コラム本文は次の記事以下に。。。